テキストデータ凡例: 本テキストは、墨字冊子『みんなでミュージアム-ミュージアムと障害のある人をつなぐハンドブック』の読み上げ用日本語データです。墨字カタログを底本として、視覚障害、読字障害、高齢などにより印刷物の使用が困難な方のために作成しました。 本データは、著作権法第37条に基づき、非営利目的で作成、提供されています。権利者に無断で転載、複製、配布することはできませんので、個人的利用の範囲内でご使用ください。 データ化にあたり、国会図書館が公開している「学術文献の視覚障害者等用テキストデータ製作仕様書(ver.2022.1)」および「学術文献の視覚障害者等用テキストデータ製作における代替テキスト製作仕様書(ver.2021.1)」に可能な限り準拠の上、以下の加工を施しています。 ・原本の文字の太字、斜体、傍点(圏点)、下線は、スタイル設定を省略した。 ・各見出しの前には#(半角シャープ記号)を挿入した。見出しレベルを#の数で表すこととした。 ・図版、写真等の画像は基本省略とし、必要に応じて説明を付した。 なお、原本ページ番号は読み上げの聞きやすさを考慮し、本データにおいては省略した。 テキストデータ凡例、終わり。 以下、本文。 # はじめに みなさんは、ミュージアムでからだやこころに残る体験をしたことがありますか。例えば、造形物の美しい色やみたこともない形にふれて驚いたり、動物や魚の姿や模様、生態に釘付けになったり。あるいは、映像を通じて自然や人間の歴史と営みに魂を揺さぶられたり、星の美しさや宇宙のスケールに圧倒されて自分のちっぽけさに息をのんだり……。 わたしたちすべての人間が生まれながらにもっている権利のひとつに、「芸術文化権」があります。この権利は、年齢や障害、国籍、社会的困窮などの違いによって分類されることはありません。また「障害」に特化して考えるとき、そこには、みえない・みえにくい、きこえない・きこえにくい、歩けない・歩きにくい、わかる・わからないなど、個々の状態によって体験が排除されることもありません。 この本で紹介する「みんなでミュージアム」(略称、みんミ)は、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの運営のもと、2021年に始まりました。このプロジェクトは、美術館や博物館に行きづらいと感じている人が自由にアクセスし、ミュージアムでの体験をより豊かなものにできるよう、中間支援として仕組みや方法を提案するものです。 みんミが生まれた背景をたどると、障害のある人に関わる法整備があります。2014年、障害者権利条約に批准した日本は、障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(2018年施行)、改正障害者差別解消法(2024年施行)のもと、障害のある人たちの社会参加や文化芸術の環境をつくることが求められています。また、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(2022年施行)では、例として、みえない人に読み上げて伝える、きこえない人に手話や文字表記などで伝える、難しい言葉がわかりにくい人にやさしい日本語で伝えることなどが推奨されています。 こうした変化のなか、2021年にミュージアムアクセスに関する国内外のリサーチを行っていた際、あるミュージアムの関係者にこんなことを言われました。「ミュージアムの側も変わらなければいけない。しかし、日本ではともにこの活動をすすめる『市民』の力も必要だ」と。だれでも、いつでも、どこでもミュージアムを楽しむには、アクセシビリティの実現をミュージアムの問題や制度の拡充に委ねるのではなく、享受する側であるわたしたち自身がともに考え、ともに活動していく。その態度とスタイルこそが重要だと考えるに至りました。そして、この活動の名称を「みんなでミュージアム」としたのです。 本書は、みんミの活動で培われた視点を紹介することで、ミュージアムアクセスの取り組みのヒントになればと制作しました。わたしたちは、問題意識や未来像をもつとともに、具体的なアクションが大切であると考えています。そのアクションをどのように形にしていくのか、実践を通じた市民側からの提案でもあります。 「まなざし編」では、これまでの実践のなかで、全国の仲間が活動するときにヒントとなるような6つの視点を明らかにしました。相談窓口をつくること、「ミュージアム・アクセス・パートナー」や「ミュージアム・アクセス・コーディネーター」といった仲間の役割、ミュージアムの環境づくり、地域に根ざしたネットワーク、そして学びの場のつくり方についてふれています。番外編では、活動を持続させるための事務局の役割も紹介しています。 「こころみ編」では、「まなざし編」の6つの視点に沿って、具体的な事例の準備から実施までのプロセスを紹介しています。ここに登場するミュージアムは、県立または市立美術館、国立科学館、企業美術館、社会教育施設などです。ともに活動した市民は、身体障害のある子ども、知的障害のある人、発達障害のある人、視覚障害のある人、聴覚障害のある人、それを支える家族や福祉施設職員、障害者芸術文化活動支援センターなど多岐にわたります。また、ミュージアムの協議会と連携した3年間の研修や、オンラインにおける学びの場のつくり方を紹介しています。 さらに、「はじめてのミュージアム」というコラムも設けています。当たり前に文化芸術を享受できる社会を実現するために、わたしたちは何をともにつくることができるのか。その原点として、一緒に活動してきた市民の声に触れていただけると幸いです。 最後に、本書はミュージアムアクセスやアクセシビリティに関心のあるすべての人に読んでいただきたいと思っています。みんミの活動に至るまでの調査研究や実践の積み重ね、そしてひとつの提案として本書を形にする際にご協力いただいたすべてのみなさまに、深く感謝申し上げます。 NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表理事 柴崎由美子 # 目次 はじめに みんなでミュージアムとは? まなざし編 ミュージアムアクセスを支える6つの視点 1.相談窓口をつくる 2.ミュージアム・アクセス・パートナー 利用者とともに活動する 3.ミュージアム・アクセス・コーディネーター ミュージアムとともに活動する 4.環境をともにつくる 5.地域に根ざしたネットワークをつくる 6.学びの場をつくる 番外編 事務局をつくる 活動を続ける仕組み はじめてのミュージアム前編 こころみ編 6つの視点からみる事例 1.愛媛県美術館のオンライン鑑賞プログラム—試験的に、できることから挑戦してみる 2.「みる・よむ・体験する」ねりまフォーラム実行委員会—相談から企画の実践へ 3.重度心身障害の子ども&家族と日本科学未来館へ—行って終わりでなく、やっぱり楽しみたい! 4.紅ミュージアムと視覚障害のあるコーディネーターとの協働—「さわる体験はレプリカでもいい」というミュージアムの気づきに 5.せんだいメディアテーク—体験プログラムを地域の人・団体とともに企画する 6.さいたま市立漫画会館—実践知を、地域のミュージアムに広げていく 7.福島県博物館連絡協議会による研修会—3年の月日を経て、リラックスして対話できる関係に 8.みんミの“わ”—多様な人がともにいられるオンラインの場のつくり方 はじめてのミュージアム 後編 NPO法人エイブル・アート・ジャパンによる、鑑賞支援の取り組み みんなでミュージアムスタッフ [凡例] 本書では、以下のように表記しています。 ・「みんなでミュージアム」を略称の「みんミ」と記しています。 ・「協働者」は企画を一緒につくった人や団体、「協力者」は企画が立案された後に主催チームでは達成できない部分を補ってもらうためチームに入ってもらった人や団体を指しています。 文中における肩書きは、当時の時点です。 梅田亜由美(pp.30–33、54–57、66–69、78–81)、鹿島萌子(pp.14–19、45–46、58–61)、柴崎由美子(pp.6–9、34–37、74–77、90–93)、高橋梨佳(pp.22–25、38–41、70–73)、原衛典子(pp.82–84)、平澤咲(pp.26–29、62–65)、松島宏佑(pp.42–44、82–84) 本書は、2026年2月時点の情報をもとに作成しています。 # みんなでミュージアムとは? 「みんなでミュージアム」(以下、みんミ)は、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(以下、AAJ)が展開する、ミュージアムに行きづらいと感じる人が、もっと自由にアクセスできる社会をめざす取り組みです。これまでAAJが積み重ねてきた鑑賞支援の活動を引き継ぎ、さらに広げていく形で、2021年より文化庁委託事業としてスタートしました。なぜ、みんミ的な取り組みが必要なのでしょうか。みんミが生まれた背景や活動の全体像について紹介します。 ## 活動の背景—みえてきた課題と声 みんミの出発点には、全国のミュージアムに共通する課題がありました。障害のある人の「創造」「発表」は広がりましたが、「鑑賞」「参加・体験」の機会が十分に用意されているとはいえません。2019年度の全国調査※では、継続的に障害のある鑑賞者のための事業を展開しているミュージアムはわずか12%にとどまっていました。 ※『令和元年度 障害者による⽂化芸術活動の推進に向けた全国の美術館等における実態調査 報告書』(文化庁、2020年) そこで、みんミはヒアリング調査を実施しました。障害のある人、その周りにいる鑑賞の支援者、ミュージアムスタッフなどに耳を傾けると、例えば次のような声が集まりました。 視覚障害のある人 ・展示物をさわれる形で紹介してほしい ・解説者と対話できる機会があると理解が深まる 聴覚障害のある人 ・字幕や手話通訳がないと楽しめない 発達障害のある人やその家族 ・混雑や音が苦手で行きにくい ・静かな時間帯や少人数での体験があると安心 支援者 ・専門的な知識がなく不安 ・館と利用者をつなぐ調整役が必要 ミュージアムスタッフ ・対応の必要性は理解しているが、人手や時間が足りない ・他館の事例を参考にしたい こうした声からみえてきたのは、個々の努力だけでは解決できない構造的な課題です。予算や人員などのミュージアムの体制に左右されずに、障害のある人とミュージアムをつなぐ立場からの仕組みづくりが必要と考え、みんミの活動が始まりました。 ## 活動の対象と広がり みんミの対象は「美術館」に限りません。博物館、科学館、文学館、さらには動物園や植物園、水族館まで、すべての「ミュージアム」を含んでいます。実際の活動も、首都圏にとどまらず、東北において地元の博物館や文化施設と連携して鑑賞プログラムを実施するなど、地域ごとの特色を生かしています。地域の障害のある当事者や支援者、ミュージアムスタッフが主体的に関わることで、多様なニーズに応じた実践が可能になります。 ## これまでの経緯 みんミは段階的に活動を広げてきました。 2021年度 ヒアリング調査を通じてニーズを把握。「いつでも、だれでも、どこへでも」と理念を掲げ、活動を支える人たちをつなぎ、支えるための仕組みや役割を整理・構想 2022年度 障害のある当事者やみんミの活動を支える人々が現場に入り、具体的な実践を試験的に実施。オンラインプログラムを実施し学びを共有 2023年度 相談窓口拡充、人材育成、ネットワーク形成を本格化 2024年度から 実践を重ねつつ、全国展開と持続可能な運営体制の確立をめざす ## みんミの4つの役割 みんミの活動は、大きく4つの役割に整理できます。 1. 相談窓口対応 気軽に相談できる場をつくり活動につなげる 2. 協働・コーディネーション 相談を実践へ展開。障害のある人、支援者、ミュージアムを結び、実践に展開 3. ネットワーク形成 全国の仲間が気軽に集い、成功事例や課題を共有する場をつくる。障害のある人や支援者、ミュージアムスタッフ、市民など多様な人を結びつける 4. 学びと発信 相談や協働で生まれた事例や、そこで得られた知見をウェブで発表・共有。また研修や交流を通じて次の担い手へつなげる ## みんミがめざす3つのこと みんミでは、活動全体を通して次の3つをめざしています。 1. 障害のある人をはじめ、それぞれのニーズに応じてミュージアムを楽しむサポートをする「ミュージアム・アクセス・パートナー」(以下、パートナー)を育てる/ともに活動する 2. ミュージアムのアクセスをともに考え環境づくりを進める「ミュージアム・アクセス・コーディネーター」(以下、コーディネーター)を育てる/ともに活動する 3. ミュージアム・アクセス・インフォメーションを育てる/ともに広げる パートナーとコーディネーターは、いわばみんミの活動を現場で動かす両輪です。パートナーが「体験を支える伴走者」なら、コーディネーターは「環境を変える調整役」。この両輪がそろうことで、誰もが安心して参加でき、ミュージアムも継続的に変わっていきます。ミュージアムを楽しむための環境づくりの工夫や、誰もが参加できるプログラムの情報(インフォメーション)を積極的に集約・発信し、各地の活動を広く共有することで、担い手と情報を軸にした循環をつくります。 〔製作者注:関係性のイメージ図は省略した。注、終わり〕 こうした活動の基盤には、みんミが大切にしている「人と人がともに関わる姿勢」があります。パートナーやコーディネーターがどんな立場や経験をもっていても、共通して大切にしたい視点があります。 ## パートナーやコーディネーターにとって大切な視点 障害のある人とともに過ごしたり、ミュージアムとともに考えたりすることは、特別なことではありません。しかし、そうした事例はまだ少ないため、みんなで新しい方法をつくっていく必要があります。 立場の違う人同士が協力し、新しい可能性を探していく。そのためにみんミでは、経験があってもなくても、パートナーやコーディネーターになる人にいつでももっていてほしい心構えとして、3つの大切にしたいことを伝えています。 ## みんミが大切にしていること 『楽しむ』 活動を「楽しむこと」が最初のポイント! ・違いのなかに、楽しさを見出す ・初めて出会うモノやコトに、ポジティブに取り組む 『やわらかく』 いつでも変化できる「やわらかさ」 ・マニュアルや形式に縛られず、臨機応変に柔軟な対応をする ・「~べき」ではなく、「~したい」を大事に創造する ・活動を継続していくために、無理をしない/させない 『ともに』 ひとりではなく、「ともに」つくることで生まれる活動 ・「~のために」「~してあげる」ではなく「一緒に楽しむ」「一緒につくる」 ・どちらか一方が「教える」ではなく「学び合う」 # まなざし編 ミュージアムアクセスを支える6つの視点 # 1. 相談窓口をつくる ミュージアムアクセスの中間支援では「相談支援」も重要な業務です。みんミでは、ミュージアムへのアクセス改善や鑑賞サポートに関する相談窓口を設置しています。相談支援では、必要な情報を提供したり企画や実施に伴走したり、ときには専門家を紹介したりしながら、相談者自身が解決できるようサポートします。ここでは、みんミがこれまで実施してきた対応をもとに、相談支援の方法や考え方、対応のポイントについて紹介します。 ## 相談対応のポイント 法令順守 みんミでは、紙とデータの2種類を使い分けています。個人情報(氏名、連絡先など)はデータには入力せず、紙の相談票にのみ記載しています。紙の相談票はファイリングし、原本ファイルは鍵のかかる棚に保管します。 相談の環境 相談対応をするときは、ほかのスタッフや来客のない部屋など、プライバシーが保たれる場所で行います。 相談者の自立 これまでみんミが相談を受けた人の多くは、ミュージアム関係者や障害のある人など幅広くいます。相談者がミュージアム関係者の場合、多くの課題をもっていますが、課題解決を肩代わりするのではなく相談者自身が課題を解決できるように支援することを心がけます。 みんミ「『魚を獲る』のではなく、『魚の獲り方を伝える』と考えています。」 ### ワンポイント:相談研修 障害のある人からの相談もあるため、相談対応のロールプレイを行うなど、相談対応を学ぶ研修を実施してスタッフのスキルアップをめざしています。また相談支援には個人情報保護法が重要になるため、学ぶ機会があるとよいでしょう。 ## 相談支援の流れ みんミでの相談支援の流れを紹介します。 1. 受付・ファーストコンタクト 相談はメールと電話の両方で受け付け。何を相談されているのか、話をよくきいて論点を整理します。 メールでは、返信が遅くならないよう、一両日中にはお返事しています。相談時間は、電話対応の場合は20分まで、対面対応(オンライン/リアル)の場合、長くとも60分までを目安としましょう。 2. 情報の整理 相談者にとってどのような情報が必要かを整理します。1人の相談者から、2種類以上の相談を同時に受けた場合は、相談内容を分けて確認するようにします。 主な確認事項の例 相談や企画の概要(経緯、目的、対象者、開催時期、場所などの5W1H)、業務委託費の有無など 3. 相談票への記入 紙やデータ(Excelなど)で相談票を準備し、相談内容をまとめます。対応したスタッフが随時入力します。 記入項目の例: 相談日時、対応者、対応方法(電話、メール、FAX、来所、その他)、相談者の情報(氏名、属性、連絡先)、相談内容、対応した内容、引き継ぎ事項など 4. 相談へのレスポンス 相談内容に応じて、例えば外部機関や参加できそうなイベントなど相談者に必要な情報を紹介します。 その場で回答できない内容や、確認に時間がかかりそうなときは、返信の目安となる期日を伝えます。 5. プロジェクトミーティング どのような相談や依頼がきたのか、プロジェクトメンバーに共有し、ミーティングを行います。メインの担当者を決定し、相談者に紹介して、次のステップに進みます。対応の継続や見直し、情報共有、多様な視点でのフォローができます。 ## 相談をつなぐ先 寄せられた相談に対して、チーム内で解決できることもあれば、外部の専門家や団体に協力を依頼するケースもあります。 つなぐ先の一例 ・ミュージアム/ミュージアムの連絡協議会 ・障害者芸術文化活動支援センター ・地域の障害当事者団体 ・ソーシャルワーカー [つなぐときのポイント] ・相談者が選択できるように複数提示し、知らないところは紹介しないように心がける ・案件によって、どのようにつなぐかをチームで検討する ### ワンポイント:情報のリスト化 別の相談支援で活かせるよう、つなぎ先情報をリストにまとめておくとよいでしょう。 ## 相談のストックと活用方法 ミュージアムアクセスを考えるうえで必要なニーズや課題を知るため、スタッフ間で相談内容の共有方法を工夫しています。 [相談のストック方法] ・相談支援の質の向上や事業の企画に生かすため、オンライン(スプレッドシートなど)で相談内容や対応の記録を集積しています。 ・スタッフの誰もがスムーズに正しい情報を提供し、業務効率化を図れるようになるため、提供した情報は共有ドキュメントに集約しています。 相談の敷居を下げる みんミでは、公式ウェブサイトに「お問い合わせ・ご相談」ページを設けています。また「よくある質問」をまとめて公開。イベント時などに、相談を随時受け付けていることを周知し、相談の敷居を下げることに努めています。 相談例:「みんなでミュージアム」ウェブサイト https://minmi.ableart.org/news/minmi_qa/2025/ ## 相談の例 実際にどんな相談に対してどのように対応したのかを紹介します。 ### 相談事例① 展覧会の企画者「A県で展覧会の巡回を予定しています。障害のある人にもたくさん来てもらいたく、展覧会の広報協力をお願いしたいです。」 みんミ「A県の障害者芸術文化活動支援センターや当事者団体へ連絡し、それぞれのネットワークを活用して協力しました。」 ### 相談事例② 福祉事業所の職員「事業所の利用者さんたちとミュージアムに行ってみたいのですが、近隣で開催中のおすすめの展覧会はありますか?」 みんミ「事業所を利用する人たちの人柄や障害特性、必要な配慮、どのような内容に関心があるかなどをヒアリングし、展覧会情報を調べて複数の選択肢を提示しました。」 # 2. ミュージアム・アクセス・パートナー 利用者とともに活動する ミュージアムの楽しみ方は、人それぞれ。一人ひとりが、もっと自由にミュージアムにアクセスするには、個々のニーズに沿ったサポートが大切です。利用者に寄り添いながら、一緒にミュージアムの楽しみ方をつくるミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)とのマッチングのプロセスや体験を安心して行うポイントを紹介します。 ## パートナーになるのはどんな人? みんミの活動では、福祉や医療の専門的な立場ではなくても、「一緒に活動したい」という意志のある人がパートナーとして活動しています。障害のある人とない人が一緒に楽しむイベントやオンラインプログラム「みんミの“わ”」への参加から、パートナーの登録につながりました。 ### 例えばこんな人 ・アート活動をする人 「みえない人のみる世界に関心がある」作品制作やギャラリー運営に関わり、みえない人のみる世界に関心あり!個人的にも、みえない人と鑑賞をしていきたい。 ・手話を勉強中の人 「手話で鑑賞を楽しめる機会がほしい」ミュージアムのアート・コミュニケータやボランティアとして活動して、手話を勉強中。手話を生かして鑑賞をサポートできる。 ・ミュージアム関係で働く人 「もっといろいろな人に、企画を楽しんでほしい」仕事では直接、障害のある人と関わることがないので、実際に現場で経験を積みたい。 ## なぜパートナーが必要? 障害のある人や、その支援者から、こんな悩みや思いをききました。 視覚障害のあるAさん 「みたいものを選びたい」美術館の鑑賞プログラムによく参加するけれど予定が合わないこともあるし、作品を自分で選ぶことはできません。アート好きな人と、みる作品を選ぶ経験をしてみたいです。 聴覚障害のあるBさん 「手話の有無にかかわらず自由に訪れたい」おもしろそうな企画には、手話付きでなくても参加しています。「手話を付けてください」と事前にミュージアムに連絡することもありますが、毎回お願いするのはハードルを感じます。 重度心身障害のある子どもをもつCさん 「楽しみ方を教えてくれる人と一緒に行きたい」子どもと前に科学館に行ったけれどみどころがわかりませんでした。楽しみ方を教えてくれる人が一緒だとありがたいです。同じ障害のある子どものご家族には「外出が困難だからミュージアムには行けない」と思っている人もいます。 *事例:「重度心身障害の子ども&家族と日本科学未来館へ」(こころみ編3) こうした異なる状況に対応するには、ミュージアムや支援者だけでは限界があります。一度断られると、ハードルを感じて諦めてしまうことも。付き添いや介助だけではなく、ミュージアムの多様な楽しみ方を知っている人の存在が必要なのです。 ## パートナーと利用者の協働の進め方 パートナーと、ミュージアム体験をしたい人(以下、利用者)が、お互いに楽しい時間を過ごすための出会い方について、みんミでは1から5の5段階で進めています。 1. 利用者からみんミ事務局に相談 ・ウェブからの問い合わせやメールで相談 ・みんミ主催のイベント参加時にアンケートへの書き込みや、スタッフに直接相談するなど 2. みんミスタッフが利用者の希望をヒアリング ・どんな体験がしたいか、気になること、希望時期などをヒアリング ・具体的なイメージがない場合は、ヒアリングのなかで希望を一緒に具体化していく 3. みんミ事務局が、ヒアリング内容に応じたパートナーを募集・決定 ・内容に応じて、1人の場合も数人の場合もあり ・パートナーに活動日時、内容、条件をメールで伝えた後、オンラインでミーティング ・複数人から応募があった場合は役割分担することも。または利用者の希望に合う人を優先的に依頼 4. パートナー、利用者、みんミスタッフでミーティング ・顔合わせも兼ねた初回のミーティング時間は30分程度(オンラインも可) ・内容は自己紹介、実施内容、当日の待ち合わせ、お互いに知っておいてほしいこと、きいておきたいことなど ・その後、必要に応じて1~2回ミーティングすることも。みんミスタッフとパートナーで現地を下見する場合もあり 5. 実施/ふりかえり ・パートナーと利用者によるミュージアム体験 ・実施後は、パートナー、利用者、みんミスタッフの3者でふりかえりを行う ## 始まる前が肝心!ニーズに合った進め方を 利用者の希望により、実施の内容は全く異なります。そのため、進め方もさまざま。「前例がない!」と焦らずに、ヒアリングの内容を基本に、必要なサポートや「もっとこうしたら楽しめるかも」というアイデアを、利用者、パートナー、みんミスタッフで、話し合っていきます。みんミでは、経験を重ねて記録していくことでノウハウを蓄積しています。 ### ワンポイント:複数人のパートナーと関わろう! パートナーは複数人で関わると、役割分担や相談ができます。例えば、当日の予定は合わないけれど、行き先の提案だけなら関われるというパートナーも。それぞれの得意分野も違うので、関わる人数が多いほど活動の幅も広がります。 例えばこんな活動:当日の道案内や見守り、記録や撮影のサポート、地域団体や施設への広報活動など ## パートナーと利用者が安心して実施するために はじめましての人と会い、初めての体験をすることに不安はつきもの。パートナーとして障害の知識がないことで緊張したり、気をつかいすぎたりすることもあります。また障害の特性によっては、1日のスケジュールがわからないと不安になったり、どんなところかイメージできず落ち着かなかったりすることも。両者の不安をやわらげるため、さまざまな試みをしています。 初めての人/障害のある人とおでかけすることが不安 顔合わせの前にパートナーと利用者の「プロフィールシート」を交換します。普段の様子を知ることで、当日の会話につながることも(障害の特性によってはルビをふる、読み上げ機能やどんなデータ形式でほしいかを確認するなどの配慮も必要)。 初めての場所に行くことが苦手 安心し、わくわくした気持ちで当日を迎えられる工夫を。 ・「行き先」をパートナーと利用者が一緒に決める →展覧会の候補を画像とコメント付きでいくつか提案 ・パートナーが「しおり」をつくる →駅の待ち合わせや館内のトイレ、エレベーターなどの場所を下見してルートを大まかに想定 # 3. ミュージアム・アクセス・コーディネーター ミュージアムとともに活動する ミュージアム・アクセス・コーディネーター(以下、コーディネーター)は、障害のある当事者の立場から、もっと心地よく安心して利用できる環境、サービス、プログラムなどをミュージアムとともに考え、つくっていきます。ここではその存在の意義や、ミュージアムの要望に応じた協働の進め方について説明します。 ## コーディネーターに登録しているのはどんな人? 例えばこんな人 ・何度も参加してくれている人 ・首都圏だけでなく、地方(自分が住む地域など)でも実施・普及したいという意欲がある人 ・企画することに関心がある人 みんミの活動主体であるNPO法人エイブル・アート・ジャパンでは「ミュージアム・アクセス・グループMAR」「みんなの美術館プロジェクト」をはじめ、障害のある人と一緒に楽しむ鑑賞プログラムやワークショップを20年以上ミュージアムで実施しており、これまで障害のある人もたくさん参加しています。そのなかで上記のような人たちに声をかけ、コーディネーターとして登録してもらうことが多かったです。 みんミのウェブサイトでも募集していますが、直接コミュニケーションできる機会に「興味がある」「やってみたい」と個別に伝えられることが多い印象です。みんミは「活動を通してミュージアムへの理解や経験を深めていく」と考えているため、これまでミュージアムに行った回数や知識は関係なく、活動に興味がある、やってみたいという障害のある当事者の人であればどなたでも、コーディネーターに登録できます。 ## なぜコーディネーターが必要? 「障害のある人が楽しめる展覧会やプログラムをつくろう!」とたくさんの時間やお金を費やし、鑑賞ツールや展示をつくったけれど、障害のある人にいざ体験してもらったら、わかりにくいし、使いにくいし、楽しめない……。残念ながら、ミュージアムのスタッフからよくきく話です。 「せっかくあんなに頑張ってつくったのに」とミュージアムの人もがっかりなら、障害のある人も「とっても楽しみに来たんだけど」「せっかく準備してもらったから、楽しみたいのに……(なんか申し訳ない)」とせつない気持ちに。この原因がどこにあるかといえば、最大の理由は「すべてが完成してから、障害のある人に体験してもらっている」ということ。完成してから意見をきいても、もはや修正できない段階なのです。 実は、一番大切なのは、準備の段階。つくるプロセスから障害のある人と一緒に進めることができれば、実際に体験してもらいながら意見をきき、より使いやすく、わかりやすくするための修正を重ねることができます。すなわち、協働者としての障害のある人(当事者)の存在が必要不可欠であり、この役割を担うのがみんミの「コーディネーター」というわけです。 ## コーディネーターとミュージアムの協働の進め方 みんミでは、コーディネーターとミュージアムをどのように引き合わせているか、実施までのステップを紹介します。 1. ミュージアムからみんミ事務局に相談 ・ウェブからの問い合わせやメールで相談 ・みんミ主催のイベント参加時にアンケートへの書き込みや、スタッフに直接相談するなど 2. みんミスタッフがミュージアムの課題や希望をヒアリング ・オンラインで30分程度 ・具体的なイメージがある場合は、実施したい内容、時期、予算などをヒアリング ・具体的なイメージがない場合は、ヒアリングのなかで実施内容についてイメージを一緒に具体化 →「これならできそう!」「続けられそう!」というイメージを共有することが大事 3. みんミ事務局が、ヒアリング内容に応じたコーディネーターを決定・依頼 ・内容に応じて、1人の場合も数人の場合もあり ・コーディネーターにスケジュールをメールやミーティングで伝えて打診 ・スケジュールが合わないと、コーディネーターの調整に一苦労することも →聴覚障害のあるコーディネーターの場合、この段階で手話通訳を手配することもあり、通訳者のスケジュール調整も。 4. コーディネーター、ミュージアム、みんミスタッフでミーティング ・内容に応じて1〜3回程度 ・コーディネーターとみんミスタッフで現地を事前に視察する場合も ・オンラインプログラムの場合、画面の表示や音声、進行のわかりやすさなどの確認のため、事前にリハーサルをする場合もあり →リハーサルには複数の障害のある人にモニターとして協力してもらうことも 5. 実施/ふりかえり ・実施後は、コーディネーター、ミュージアム、みんミスタッフの3者でふりかえりを行う ・事務局内で「実践概要記録」「ふりかえりシート」に記入して共有 ## 終わった後が大事! ミュージアムが取り組みを継続したり、新たなチャレンジをしたりすることにつながるように、またみんミの内部でも、関わらなかったスタッフに内容や気づきを共有できるように、実施後には以下を行っています。 ・終了直後または後日、ミュージアム、コーディネーター、みんミスタッフでふりかえりのミーティングを実施 →全員で、準備~実施までの印象に残ったこと、予想外だったこと、課題などをふりかえります。 →ミュージアムの次回の取り組み、継続やチャレンジにつながるような意見や感想を積極的にききます。 ・報告レポートを執筆し、ウェブに公開して、さまざまな人が参照できるようにする ## コーディネーターとミュージアムが対話しやすくなるための工夫 ミュージアムの人にとっては普通の話し方でも、専門用語、カタカナ言葉、抽象的な表現が多い、また話すスピードが速い、などでコーディネーターには伝わらなかったり、難しいと感じられて緊張・萎縮してしまったりすることもあります。そのようなときは、同行するみんミスタッフがわかりやすく言い換えたり、全体的にゆっくり進めるように促したり、ファシリテーターのような役割をします。 逆に、ミュージアムの人にとっても、障害のある人と初めてコミュニケーションする場合は、考えすぎたり、過剰に気をつかったりして緊張した場になってしまうことがあるので、リラックスしてコミュニケーションできる雰囲気づくりを心がけています。 # 4. 環境をともにつくる みんミでは、多様な市民とミュージアムが協働し、誰もがアクセスしやすい環境と文化体験を育むことを重視しています。現状、ミュージアムからは「障害のある人の来館が少ない」「アクセスプログラムに参加者が集まらない」という声があり、障害のある人からは「行っても楽しめるか、迷惑をかけないか」と不安が語られます。多様な人が関わってこそ生命が吹き込まれるミュージアム。その共創できる環境をともにつくる取り組みについて考えていきます。 ## ミュージアムは誰のもの?―環境をともにつくる理由 なぜ、ミュージアムの「環境をともにつくる」ことが重要なのでしょうか。それは、ミュージアムは生涯を通じて楽しさや学びを提供する社会教育施設であり、わたしたち市民の大切な財産だからです。特に、公共の施設やサービスに関心をもち、よりよいものをめざして声をあげることは市民の権利でもあります。みんミでは、動物園や水族館、科学館といった自然科学系ミュージアムだけでなく、美術館や歴史博物館といった人文科学系ミュージアムの魅力の発見や活用についても、より積極的に提案していきたいと考えています。 ## 国内外のリサーチからみえてきた、3つの課題 みんミは、2021年にミュージアムのアクセシビリティを考えるために、国内外の17件のミュージアムやアクセシビリティに関する活動を行う市民団体などを対象に、調査とヒアリングを行いました。そこから、次のような日本の課題がみえてきました。 ・協働する市民の不在 ミュージアムのあり方に声をあげ、協働できる市民が非常に少ない。存在していても、ごく限られた個人や団体の活動にとどまっている。 ・活動が持続しないこと ミュージアムにもたらす活動が専門的であっても、多くがボランティアとして扱われ、活動が持続しにくい。その結果、実践やリソースが十分に記録・蓄積されていない。 ・支援コミュニティの参加が少ないこと 社会的に立場の弱い人(子ども、障害のある人、認知症の人たちなど)と、その支援コミュニティの参加がそもそも少ない(アクセシビリティへの提言活動を行う市民活動の必要性に気づいていない)。 ## 利用者から専門家まで―協働の担い手たち 環境をともにつくる協働者には、次のような人たちがいます。 体験のリアルな声を届ける人:子ども、障害のある人、認知症の人、その家族など 活用を活性化する市民:ボランティア、アート・コミュニケータなど 企画をつくる人:学芸員、アーティスト、障害のある当事者など 仕組みや制度を整える人:設置者、行政など 技術や知見をもち込む人:研究者、支援者、建築家、デザイナーなど ### ワンポイント:役割は固定しない 1人が複数の役割を担ったり、状況に応じて役割が入れ替わったりすることもあります。 ## 協働が生み出した、アクセシビリティの事例 エイブル・アート・ジャパンやみんミが、ミュージアムと取り組んだ、さまざまな人との協働の事例を紹介します。 ### ツールの制作/物理面・情報面の環境づくり さわって鑑賞する模型:視覚障害のある人とともに、コレクション作品の模型を制作。 受付のコミュニケーションボード:聴覚障害のある人の提案で設置した、館内サービスなどを表示したイラスト付きの指差し帳。英訳も加えて応用されました。 ギャラリートークに手話通訳を配置:手話を主なコミュニケーションとする聴覚障害のある人の要望で、企画展ごとのギャラリートークに手話通訳を必ず付けるように。 休憩・カームダウンスペースの設置:人混みや感覚刺激で疲れやすい人の声をきっかけに、授乳室や会議室を活用し、休憩所や光や音の刺激を抑えたカームダウンスペースを設けました。 センサリーフレンドリーな取り組み:障害のある人やその付添者が安心して来られるよう、会場情報や入場までの流れなどをまとめた「ご来場ガイド」を作成しました。 ### アクセスプログラムの事例 言葉や音の鑑賞プログラム:視覚障害のある人とつくった、言葉や音を手がかりにしたプログラム。 手話や透明ディスプレイによる鑑賞プログラム:聴覚障害のある人とつくった、手話や透明ディスプレイを使用した情報保障付き鑑賞プログラム。 オンラインプログラム:重度の身体障害がある人、医療施設に入所するなど外出が困難な人たちが、遠隔参加できるプログラム。 ### ワンポイント:障害のある当事者との協働から、思いがけない新しいプログラムやツール、価値観が生まれる! 例えば、視覚芸術とは距離があると感じられていた視覚障害のある人との鑑賞は、多様なみえ方や感じ方を促すものとして注目されています。また、美術用語には手話で表現しにくい言葉も多くあります。そこで、用語の意味を丁寧に分解し、新しい手話として表現することで、言葉を体感的にとらえるワークショッププログラムが開発されています。 ## 協働を進めるための実践のコツ ① 環境を知る ・ミュージアム業界の動向を知る ICOM(国際博物館会議)を通じて世界のミュージアムの動向に注目したり、国内の博物館法改正のポイントを読んだり、勉強会や講習に参加したりするなど、学び続ける姿勢を大切にしています。 ・関連する法律や施策を知る 障害のある人を取り巻く法律・施策・計画について学びます。例えば、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の成立により、自治体ごとに手話通訳派遣の仕組みが整いはじめました。施策や計画を知ることで、そこに連動した資金をみつけることもあります。 ② 人を知る ・協働する相手を理解する 組織は、理念や経営方針によって個性をもち、そこで働く人、活動する人も同様です。既述の「環境をともにつくる協働者」と対話するために、組織や人を理解しようと努めています。 ・一人ひとりの違いを大切に 障害のある人もみな、個々の性格、感覚、経験は違うということを大切にしています。アクセシビリティの視点において、共通でできること(環境の整備)と個別に対応すること(合理的配慮)を考えられるように、経験を重ねています。 ### ワンポイント:すぐに結果は出ない、しかし諦めない 活動のなかでは、計画が合意に至らなかったり、意見が異なったり、プログラムに満足できなかったりすることもあります。それでも、みんミは失敗をおそれません。それは、大きなゴールに向かうために必要なプロセスだからです。 # 5. 地域に根ざしたネットワークをつくる 「だれでも、いつでも、どこでも」アクセスできるミュージアム環境をつくるには、地域で活動を支える個人や団体との連携・協力が欠かせません。ここでは、障害のある人やその家族、障害のある人を支援する団体や福祉事業所、福祉や芸術の専門家、地域住民など、さまざまな関係者とのネットワークを築くコツを紹介します。 ## ミュージアムと障害のある人が出会う場をつくろう ミュージアム:「障害のある人にミュージアムに来てもらいたい。イベントに参加してほしい。でも、どうやって障害のある人に情報を届ければいいのだろう?」 障害のある人やその家族・支援者:「ミュージアムってどんな場所だろう。わたしたちが行って楽しめるものはあるのかな?」 ミュージアムは障害のある人とつながりたい一方で、具体的な方法がわからない場合があります。また、障害のある人やミュージアムに行きづらいと感じている人は、関心があってもアクセスできないことがあります。みんミでは、ミュージアムとその地域で暮らす障害のある人や支援をする人が出会う場をつくるため、多様な連携先とネットワークを築いてきました。 ### ワンポイント:相談支援をネットワークに生かそう! 相談内容の記録から、新しい連携先が見つかるかも。 ## 連携先の事例 ①障害者芸術文化活動支援センター 障害者芸術文化活動支援センター(以下、支援センター)は、ミュージアムと障害のある人をつなぐ中間支援を担う存在です。多角的な支援の在り方が考えられるよう、芸術文化活動を支える関係者とのネットワークを日頃からつくっています。また、障害のある人の芸術文化活動のなかには、ミュージアムや劇場、音楽ホールなどの文化施設における「鑑賞」も含まれます。支援センターがすでにもっているネットワークを活用しましょう。 *事例:「愛媛県美術館のオンライン鑑賞プログラム」(こころみ編1) ②ミュージアムの協議会、連合体 みんミでは、単館のミュージアムだけでなく「福島県博物館連絡協議会」や「仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)」など、各地域のミュージアムの協議体との連携も進めてきました。主な連携の1つに、ミュージアム職員向けの合理的配慮についての研修があります。研修では、その地域で日頃からミュージアムを利用する障害のある人に参加してもらい、障害特性や日常生活の様子、来館するときの工夫などを話してもらうことを大事にしてきました。「障害のある人」という属性ではなく、「ミュージアムを利用する〇〇さん」と個人の声を届けることで、研修参加者の理解が深まることが、参加者の感想からわかってきました。 *事例:「福島県博物館連絡協議会による研修会」(こころみ編7) ### ワンポイント:ネットワークのつくり方 障害のある人とのつながりがまだないミュージアムは、①の支援センターのネットワークを活用したり、みんミに登録しているミュージアム・アクセス・コーディネーターの派遣を依頼したりする方法もあります。 ③ミュージアムを管轄する自治体 ミュージアムは生涯学習施設の1つです。その運営形態はさまざまですが、都道府県や市町村の生涯学習を担う部署が管轄する場合もあります。地域全体、ひいては全国のミュージアムのアクセシビリティを高めていくには、自治体との連携も不可欠です。これから自治体と連携を進めていく場合は、ほかの地域の取り組みや成果を参考にするとよいでしょう。 *事例:「仙台・宮城ミュージアムアライアンス(通称SMMA)研修会」ウェブサイト https://minmi.ableart.org/activity/report_smma/2025/ ④地域の福祉事業所、障害者支援団体、障害当事者団体 地域には、障害のある人が就労・生活する福祉事業所や、自閉症協会、聴覚障害者協会、視覚障害者支援センターといった支援団体や障害当事者団体があります。これらの団体が行っている一般向けのイベントや学習会に参加し、相手を知ることで出会いが生まれる場合もあります。関係性ができてきたら、ミュージアムに来てもらったり、一緒に鑑賞プログラムを考えたりなど、発展した関わりもできるかもしれません。 *事例:「せんだいメディアテーク」(こころみ編4) ### ワンポイント:共感してくれる人とつながろう まずは一緒におもしろがってくれそうな人や、こちらの思いに共感してくれる人とつながりましょう。地域のキーパーソンとつながると、その人が周囲に口コミで情報をシェアしてくれるという効果も。 ⑤ボランティア、アート・コミュニケータ ミュージアムには、来館者と施設をつなぐボランティアやアート・コミュニケータと呼ばれる人たちが活動している場合があります。その活動は、展示の解説や、ワークショップのサポートなど多岐にわたります。また、こうしたミュージアム活動に関わる市民を対象にしたアクセシビリティ研修なども広がってきています。ボランティアやアート・コミュニケータとして活動に参加したり、そこに参加する市民との協働や研修の機会を探ったりするのもよいでしょう。 ## 連携するためには、相手の情報を知ることから ①ミュージアムを知る ・ミュージアムのウェブサイトやSNS、会報誌などを通じて、ミュージアムの活動や学芸員の仕事を知ります。 ・ギャラリートークやワークショップに参加し、ミュージアムのスタッフと出会い、対話を通じてアクセシビリティに関する現状や課題感などを知ります。 ・ミュージアムの運営委員に、一般市民の公募枠がある場合があります。参画することで、ミュージアムの設置者や運営者とともに問題意識を協議します。 ②障害福祉を知る ・各自治体が発行する障害福祉に関する制度や関係機関をまとめた「福祉のしおり」などを、広報や相談、協働の際に活用します。 ・障害のある当事者や支援コミュニティが活用するSNSの情報をチェックします。 ## みんミの出会い方 みんミでは主に2つの方法で出会いが広がりました。 ①相談窓口をつくる 文化庁の委託事業である障害者等による文化芸術活動推進事業に申請し、中間支援組織として事務局を設置。問い合わせ先の開設により、ミュージアムや企業などから連携・実践の相談が寄せられました。 ②イベントを企画する オンラインイベントやフォーラムなどを企画・実施し、そのアンケートからミュージアムに関わる人や障害のある人が関心のある活動やその可能性を知ることができました。そこからヒアリングをし、企画の提案につながっています。 # 6. 学びの場をつくる アクセシビリティに関心のある人も、これから関わりたい人も。「みんミの“わ”」は、立場を超えて誰もが気軽に集い、学び合うオンラインの学びの場です。障害のある人、ミュージアム職員、市民が経験を持ち寄り、ともに学び実践することで、アクセシビリティをきっかけに、さまざまな人がつながる場をひらいてきました。 ## なぜ、学びの場が必要なのか アクセシビリティの取り組みというと、専門家や実践者が中心になり、関心のある人だけが集まる印象があります。しかしアクセシビリティの充実には多くの人の関わりが必要であり、そのためには、もっと気軽に参加できる学びの場が必要です。 「みんミの“わ”」では、知識を一方的に伝えるのではなく、参加者が各自の経験を持ち寄り、互いに対話することを大切にしています。例えば、「こんなとき、どう感じたか」「自分自身はどうしているか」を共有することで、専門や立場を超えて対話をします。誰もが気軽にきいてみたい、話してみたいと思えるような場をつくることが、アクセシビリティを広げる第一歩となると考えています。 ## 多様な人が集う、「みんミの“わ”」のオンラインプログラム みんミの“わ”は、「どこからでも、誰でも参加できること」を大切に、オンラインで学びの場をひらいています。対面ならではのよさもありますが、遠方の人や、外出が難しい人、人前に出ることに不安のある人も少なくありません。そこで地域や環境にかかわらず、どこからでも安心して参加し、学び合うことができるよう、オンライン形式で開催しています。 2022年度にスタートし、2026年3月までに全15回を実施。各回では、ミュージアムの実践紹介や障害のある当事者の語り、参加者同士の意見交換など、アクセシビリティをめぐる多様なテーマを扱ってきました。これまでに行われた15回のうち、特徴的な3つのタイプを紹介します。 [障害のある当事者が語る実践の場] 実際に活動する障害のある当事者が登壇し、現場での工夫や感じたことを共有する回。 アクセシビリティの取り組みを「生きた実践」として学びました。 プログラムテーマ:「インクルーシブプログラムでのコミュニケーション事例」(2022年10月実施)、ゲスト:西岡克浩(きこえないファシリテーター、美術と手話プロジェクト代表)、山川秀樹(みえないファシリテーター、対話鑑賞ナビゲーター) プログラムテーマ:「横浜トリエンナーレのオンラインで楽しむアクセスプログラムを振り返る」(2024年6月実施)、ゲスト:カミジョウミカ(アーティスト)、天水みちえ(ろうそく作家、精神障がいピアサポーター) [小さな実践を共有する場] 日々の実践で感じたモヤモヤや小さな工夫を持ち寄り、語り合う回。 専門性よりも、「自分の現場からできること」を考える時間でした。 プログラムテーマ:「みんなの失敗とモヤモヤから考える、ミュージアムとアクセシビリティ」(2023年9月実施)、ゲスト:参加者全員で プログラムテーマ:「みんなの『うれしかった体験』と『小さな試み』から考える、ミュージアムとアクセシビリティ」(2023年11月実施)、ゲスト:参加者全員で [先進的な実践を学ぶ場] 全国のミュージアムや研究者、NPOの方を招き、先進的な実践や新しい手法を紹介する回。 他地域の取り組みを知ることで、自分たちの活動を見つめ直しました。 プログラムテーマ:「手話で楽しむ植物園と植物園のUDの取り組み」(2023年1月実施)、ゲスト:北村まさみ(つくばバリアフリー学習会代表)、堤千絵(国立科学博物館植物研究部、筑波実験植物園) プログラムテーマ:「一本の展覧会を例に考える、ミュージアムから遠い人とミュージアムをつなぐアクセシビリティの取り組み」(2023年12月実施)ゲスト:八巻香澄(東京都現代美術館学芸員) プログラムテーマ:「『やさしい日本語』がミュージアムとつながるきっかけに」(2024年12月実施)ゲスト:高尾戸美(合同会社マーブルワークショップ代表、國學院大学兼任講師)、大谷郁(東京都庭園美術館学芸員) ※肩書きはすべて、当時のものです ## 多様な人がともにいられる場の重要性 オンラインの画面には、聴覚や視覚に障害のある人、精神や発達の特性がある人、顔を出すことに抵抗のある人など多様な背景をもつ人たちが並びます。発言せずにきいているだけでもいい。コメントを残すだけでもいい。「その人それぞれの関わり」を大切にしながら、誰もが参加できることを意識しています。普段は出会わない人と同じ場を共有できる場づくりをめざしています。その安心感があるからこそ、学びが次の一歩につながっていくのです。 ## 次の一歩を踏み出すために—それぞれにとっての“一歩”のデザイン みんミの“わ”での出会いや学びは、具体的な小さな行動につながることを意図しています。参加者は、ミュージアムアクセスについて考えたことがなかった人から、すでにプログラムの実践経験がある人までさまざまです。そこで大切にしているのは、その行動の形が人によって違うことです。経験者としてのゲストから話をきき、何から始めたらいいのか、何ができるのかを考え始める。そして一人ひとりが、自分の関心やペースで小さな一歩を確実に踏み出す。さらに、その内容をまたほかの人に共有する。この実践と共有の循環が、みんながミュージアムに関われる社会を育んでいくと考えています。 ### ワンポイント:場に「余白」をつくる みんミの“わ”では、プログラム途中に5分ほど静かにふりかえる時間を設定。感じたことをふりかえり、コメント欄に書きとめます。その後、ブレイクアウトセッションで小さな対話の場をつくることで、普段言葉にならなかった思いが自然と出ます。そんな「余白のデザイン」を、一人ひとりの次の一歩を促すために大切にしています。 # 番外編 事務局をつくる 活動を続ける仕組み みんミでは、活動を展開するうえで「事務局」を設置しています。必ずしも必要というわけではありませんが、あると相談対応や情報発信、企画運営が円滑になり、活動を安定して進められます。ここでは、事務局の体制や業務内容、そして持続可能な仕組みづくりについて提案します。 ## 事務局とは みんミスタッフは、「プロジェクトメンバー」と「事務局スタッフ」で構成されています。プロジェクトメンバーは現場での企画や実践を担います。一方、事務局スタッフは相談の受付や情報発信、運営体制の整備、進行管理などを行い、活動全体を下支えします。つまり事務局は、活動の「裏方」として、企画や現場を支える役割を担います。 ## 主な業務内容 事務局の役割は多岐にわたります。 相談対応:電話やメールで寄せられる利用者やミュージアムからの相談を受け付け、内容を整理したうえで適切なプロジェクトメンバーにつなぎます。必要に応じてプロジェクトミーティングにかけ、企画へと発展させます。 連絡調整・事務作業:ミュージアム・アクセス・パートナーやミュージアム・アクセス・コーディネーターとの調整、必要な資料や資材の準備、経費処理などを行い、現場が円滑に進むよう整えます。こうした積み重ねが、プログラム実施への安心感につながります。 広報発信:ウェブサイトのレポートやSNSを通じて活動を発信し、社会に広く知らせます。これが次の相談や協力者との出会いを生み出す「入り口」となります。 企画・実践:相談からみえてきたニーズをもとに、プロジェクトメンバーとともに新たな企画を立ち上げることもあります。 ## 持続可能な運営に向けて みんミのような活動は、目を引くイベントのように一度きりで終わらせるのではなく、細く長く続けることを大事にしています。そのため、事務局では次のような工夫をしています。 財源の確保:補助金や事業の委託費を組み合わせて運営を支えます。 実務フローの整備:相談受付から対応、記録までをフォーマットとして準備し、誰もが対応できるようにします。 ナレッジの蓄積:相談や実践を記録し、事例集やマニュアルとして次につなげます。知見が積み重なることで、新たな活動がより確実に進められます。 情報発信と社会的認知:活動の成果を広く伝え、社会的支持を得ることで、新たな資源や人材の流入につなげていきます。 事務局は活動規模に合わせて、小さくても、兼任体制でも十分に機能します。少しの体制があるだけで、無理なく活動を進めやすくなります。 # はじめてのミュージアム前編 みんミを通して出会った6名に、初めてミュージアムに行ったときの体験や、心に残った出来事をうかがいました。これからのミュージアムアクセスを考える手がかりとして、前編と後編に分けてお届けします。 ※本ページは、回答者の語りや表記を大切にし、原文を基本として掲載しています ## 回答いただいたみなさま R.Sさん 聴覚障害(高度難聴) T.Tさん 発達障害(重度)(ご家族より回答) M.Tさん 精神障がい・統合失調症 A.Aさん 視覚障害(中途全盲) M.Kさん 身体障害(上肢・下肢・体幹不自由) Y.Iさん 発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD) Q1. はじめてミュージアムに行ったきっかけは何でしたか? まだ物心がついていないころに両親に地元の動物園に連れていかれました。自分の意思というよりは、連れていかれて、がきっかけだと思います。R.Sさん サンシャイン水族館。同じ建物内で開催されていたトミカ博(ミニカー、プラレールの展示)の帰りに行ってみました。T.Tさん 自分に精神疾患があると認識してから初めて行ったミュージアムは美術館です。きっかけは、今から11年前に入院しているときにその美術館で県の公募展を開催しているのをネットの情報で知って退院したらその作品展に応募したり、その美術館でのちのち何かイベントとかできないかなと空想してました。M.Tさん いろいろなことにチャレンジしたいと考えていた時期でもあり、たまたまスケジュールも空いていたので参加したイベントでした。でも、作品鑑賞時だけでなく、会場と最寄り駅間もガイドいただけるということで、1人でも参加しやすい環境だったのが参加の決め手になったかもしれません。A.Aさん 車椅子常用になった14歳以降、ミュージアムに行けないと思い込んでいました。しかし19歳になり、絵を描き始めてからミュージアムに興味が湧き、両親が初めて県内の美術館に連れて行ってくれました。車椅子で初めて行った美術館で主に現代美術を展示していた美術館です。M.Kさん 2歳の時に家族旅行で箱根の彫刻の森美術館に行った時。Y.Iさん Q2. 行ったときにどんな気持ちになりましたか? 物心がついていないので覚えていないのですが、そのころの写真を見る限りは、太陽に照らされてまぶしそうな表情をしている写真しかありませんが、楽しそうです。R.Sさん 大変暗かったため、怖がり泣き出してしまい中に入れませんでした。T.Tさん 木を沢山使っている美術館で落ちついた穏やかなきもちになる空間だったのでリラックスして展示が観れて居心地の良い場所だなと思いました。障がいある人たちの公募展の展示だったため作品数が非常に多く数々の作品に圧倒されました。沢山の障がいある人たちが様々な表現をしている事に驚きました。自分の作品が美術館に展示されていたのもとても感動しました。M.Tさん 家族や友人とではなく、1人でミュージアムを楽しめた喜び、達成感みたいなものがありました。また、視覚障害者になってしまった私でも、アート鑑賞が楽しめることに驚き、うれしく感じたのを覚えています。A.Aさん 今まで観たことがない「現代美術」の平面作品だけではなく、立体物や動く作品などワクワクが止まらない状態でした。M.Kさん 私自身は記憶がないのですが、両親によると彫刻作品に夢中で、帰ろうとすると大泣きしていたそうです。ミュージアムショップで小さいピカソの画集を買ってもらってやっと納得。電車内で夢中で見ていたそうです。Y.Iさん Q3. ミュージアムに行って、楽しかったこと・心に残ったことは何ですか? こちらも想像でしかありませんが、動物を見るのももちろんですが、家族と一緒に過ごせることが楽しかったかもしれません。ミュージアムは、そこにある対象物を見るだけではなく、そこに一緒にいる人との時間や感動等の共有の経験もできる素敵な場所だと思います。R.Sさん 水族館の外の明るい場所でうさぎなどを見たことです。T.Tさん 精神疾患での過去の問題行動が原因で、良くなかった家族関係が、美術館に父と一緒に通い出すことで、対話が生まれ、関係が年々改善しました。美術館での作品について父とのお喋りがとても楽しかったです。作品をだして5年目に入賞した際、疎遠だった母がこっそり展示をみにいってくれたことを後で知りとても嬉しく思いました。M.Tさん 純粋に、知らなかったアート作品を知れたことが楽しかったです。でも何より、作品そのものを実際に触ったり、全てを把握していなくても、ある程度言葉で説明してもらい、作品を実際に見ている他者の「目と対話」を通して、自分自身がアート鑑賞を楽しめた!ということに感激しました。また、一緒に鑑賞してくださった方も楽しんでおられたことがとてもうれしかったです。A.Aさん 初めて行った美術館は中央アルプスの麓にある美術館だったので、景色も素晴らしく建物もおしゃれでした。常設だったのか定かではないのですが、草間彌生さんの作品をその美術館で初めて観ました。とてもビックリして「何これ?」「どうやってできてるの?」と両親と話した記憶があります。M.Kさん 通っていた中学校で発達障害を開示しながらも、いじめを受けていた頃、当時開館したばかりの川崎市岡本太郎美術館に行き、岡本太郎の作品に勇気づけられました。この時の鑑賞が、美術高校を受験しよう、美術の道に向かおうと決めた大きなきっかけとなりました。Y.Iさん # こころみ編 6つの視点からみる事例 ## こころみ編ガイド 「まなざし編」で提示した1から6の視点をもとに、事例を紹介しています。各事例では、下記のように、主題となる「メインの視点」に加え、関連する「サブの視点」も示しています。 例)視点:1.相談窓口をつくる(メインの視点)+3+5(サブの視点) # 1. 愛媛県美術館のオンライン鑑賞プログラム 試験的に、できることから挑戦してみる 視点:1. 相談窓口をつくる+3+5 愛媛県美術館では、学校の授業などで楽しく遊びながら鑑賞してもらうことを目的に、所蔵作品約12,000点のなかから厳選した100点を用いて、「アートカード100」を作成しています。そのカードを活用した「アートカードゲーム」は対面で行われていましたが、2025年1月、みんミとの協働により初めてオンラインで試験的に実施。オンラインだからこそ参加できる人たちに楽しんでもらえる機会となりました。 協働者:愛媛県美術館 愛媛県松山市にある「みる・つくる・まなぶ」を主軸にした参加創造型の公立美術館で、1998年に開館。2020年度には「えひめ視覚障がい者とつくる『みることを考える』プロジェクト」として視覚に障害のある人と協働したプロジェクトを実施。 背景:2024年、みんミが主催したオンラインシンポジウムの参加者アンケートで、愛媛県美術館のスタッフが「みんミとの協働に関心がある」と回答したことが協働のきっかけに。 ## ステップ1:みんミとの協働だからこそ、新しいことにチャレンジ! 愛媛県美術館(以下、美術館)にヒアリングすると、「えひめ視覚障がい者とつくる『みることを考える』プロジェクト」や視覚障害のある人への鑑賞サポートを実施するなど、来館する人へのアクセシビリティに関して、すでに積極的に取り組み始めている印象がありました。しかしながら、アートカードを使ったオンラインでの取り組みについては経験がないということでした。時間的な余裕や予算があまりないという美術館側の事情にもオンラインは対応しやすかったため、アートカードを使ったオンラインでの取り組みにチャレンジすることに。まずは試験的な実施をめざし、参加者は公募せず、美術館やみんミから内々に声をかけて少人数を集め、終了後にフィードバックをもらう流れになりました。 ### ワンポイント:できることから 予算も時間もないから「やらない」ではなく、「それならどうする?」「何ができる?」と考えてみて。また、新しいことは無理せず、小規模から始めてみましょう。 ## ステップ2:オンラインだからこそ参加しやすい人たちに注目 「ミュージアムを楽しむ=ミュージアムに行く」とイメージしがちですが、人によってはミュージアムに行くこと、ミュージアムで時間を過ごすことが、難しい場合もあります。これまで、みんミのオンラインプログラムに参加した人たちからは、このような声がありました。 ### ワンポイント:オンラインプログラムのメリット 行かなくてもアクセスできる(利用できる)からこそ、ミュージアムと出会える人もいます。 決まった時間での投薬が必要、長時間の外出が難しい人など:外出は準備が大変だし緊張するが、自宅だとリラックスして鑑賞できる 集中力が続かない、長時間じっとしているのが難しい人など:気兼ねすることなく、自由に途中で出入りができる ケアや見守りを必要とする家族がいる人など:一緒にいる家族が大声を出しても気にせず参加できる ## ステップ3:対応の流れ ①愛媛県美術館の現状、課題、ニーズをヒアリング アクセシビリティの取り組みを広げたいが、時間と予算の余裕がない、という課題がありました。 ②オンライン実施の提案/ミュージアム・アクセス・コーディネーターの調整 オンライン実施を提案したところ、美術館はアートカードを使ってやってみたいとのこと。そこで、美術館にはオンライン鑑賞プログラムの企画立案をお願いし、みんミでは、オンライン鑑賞でファシリテーター経験のある天水みちえさん(精神障害のある当事者)にミュージアム・アクセス・コーディネーター(以下、コーディネーター)を依頼することにしました。 ③参加者への声がけ 参加者は「事情があって美術館に行くことや、美術館での時間を過ごすことが難しい人」という条件で、美術館とみんミがそれぞれ心当たりのある人や団体に声をかけて集めました。 ### ワンポイント:困ったら、まずは地域の障害者芸術文化活動支援センター(※)に相談 今回は、県内在住の障害のある人に参加を呼びかけるため、仲介役として愛媛県の障害者芸術文化活動支援センターである「愛媛県障がい者アートサポートセンター」を美術館に紹介し、連携。ミュージアムに縁遠いとされる10代の人の参加にもつながりました。 ※障害のある人が、より身近なところで芸術文化活動に関する支援を受けられるよう、厚生労働省により47都道府県に設置された拠点。しかし、ミュージアムにはその存在や役割があまり知られておらず、また障害者芸術文化活動支援センターにとってもミュージアムは縁遠く、あまり活動場所の候補に入らないというのが現状です。 ④コーディネーターとともに本番さながらのリハーサル/フィードバック プログラムは、自分の手元に並べたカードのなかから、美術館が出したお題に合うカードを選び、画面に映して見せるという内容。コーディネーターには、本番と同じ条件でリハーサルに参加してもらい、どうしたらよくなるかを一緒に考えました。 ⑤プログラムの修正と調整 美術館は、本番までにコーディネーターの意見を参考にした修正や調整をしました。 [コーディネーターからの指摘内容] ・参加者へ事前に送る説明文のわかりやすさ、読みやすさ、分量など ・カードの枚数(情報量など) ・プログラムの進行のテンポ、わかりやすさ、おもしろさ、時間の長さ ・画面に、今どんなお題が出ているか、わかりやすく表示 ⑥実施 参加者には事前に美術館から郵送でアートカードが配られ、当日を迎えました。約90分のプログラムに13人が参加しました。 ⑦ふりかえり(フィードバック) 愛媛県美術館、コーディネーター、参加者、みんミでふりかえりの機会を設けました。この経験から、翌年の2025年6月、愛媛県美術館で同じ内容のワークショップ、オンライン鑑賞「アートカード・ゲーム」が実施されました。 ## まとめ:相談対応のポイント 美術館と、地域の障害者芸術文化活動支援センターにつながりを生み出す ### みんなの声 ・気分を安定させるため、私は月に1回の注射で治療を受けていますが、外出は得意で美術館にもよく足を運びます。一方で、当事者会に参加していると、美術が好きでも外出が苦手だったり、大人数で動くことに負担を感じたりする人は多いと感じています。その点、Zoomは得意だという当事者は少なくありません。今回の企画は、そうした精神障害のある人たちにとてもハマると感じました。1人で鑑賞するよりも、みんなであーだこーだ言いながら作品をみることができ、それがとても楽しかったからです。言葉で作品を表現するゲームなので、どうしても詰まる場面はありますが、そのときに意図を汲み取って言い換えてもらえたのが助かりました。沈黙しても、待っていれば言葉が出てくる当事者もいます。代弁によって心が楽になるときもあります。(ミュージアム・アクセス・コーディネーター) ・どうなるか不安がありましたが、みなさんに活発に発言いただき、救われました。ふりかえりでも今後に生かせるご意見がうかがえ、大変参考になりました。楽しめたという感想も多く、実施を望む声もきけたことは、嬉しかったです。翌年には同じワークショップを公募で実施しました。試験実施の経験があり、配慮すべき点もクリアになっていたことで、当日は参加者と作品鑑賞を楽しむことに専念できました。(愛媛県美術館スタッフ) 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/coordinator_museumofart_ehime/2025/ # 2.「みる・よむ・体験する」ねりまフォーラム実行委員会—相談から企画の実践へ 視点:1. 相談窓口をつくる+3+5 文化施設のアクセシビリティ向上を掲げる「みる・よむ・体験する」ねりまフォーラム実行委員会(以下、ねりまフォーラム実行委員会)から、2025年3月、「障害のある人にもひらかれた鑑賞の場をつくりたい」という相談がありました。これをきっかけに、同じ地域にあるNPO法人障がい児・者の学びを保障する会(以下、学びを保障する会)との協働へと発展。決まったプログラムを用意するのではなく、美術館と同じ地域のNPO法人が一緒に考えることを起点に企画を準備しました。最終的にちひろ美術館で知的障害のある人を対象にしたワークショップを開催することを目標に、「おしゃべり会」や美術館に行く機会を重ね、同年12月、ワークショップを迎えました。実施までのプロセスや、関係づくりのポイント、工夫を紹介します。 協働者:「みる・よむ・体験する」ねりまフォーラム実行委員会/中核館:ちひろ美術館・東京 練馬区内の美術館・図書館・子育て支援・若者就労支援NPOなどが連携し、地域の文化施設と多様な人々をつなぐ取り組みを行っています。文化芸術活動へのアクセシビリティ向上を目的として、毎年度さまざまな取り組みを実践しています。 背景:これまでもほかのNPO法人と連携し、「障がいのある方のための鑑賞会」を開催してきたねりまフォーラム実行委員会。その中核を担う、ちひろ美術館・東京(以下、ちひろ美術館)は「みんなでミュージアムシンポジウム2023」に参加し、みんミの活動に興味をもってくれていました。みんミと協働で鑑賞会などを企画できないか、と相談がありました。 ## ステップ1:どこから始める?― “迷い”に寄り添う対話から 最初に、ねりまフォーラム実行委員会とのキックオフ会議をオンラインで開催。 ちひろ美術館から、ねりまフォーラム実行委員会でのこれまでのアクセシビリティに向けた取り組みや、「障害のある人にもひらかれた場にしたい」という思いが共有されました。一方で、「これまでの取り組みをどう深めるか」「まだあまり接点のない発達・精神・知的障害のある人たちに向けた事業に挑戦するか」などの迷いや、「接点の少ない障害のある人へどう接するのがいいか」「正解は何?」などの不安がでてきました。みんミではそうした相談に対し、地域で継続的に活動するNPO団体とつながることが次の一歩になると考え、「対話から始まる企画」を提案しました。 ### ワンポイント:不安や問いを整理 相談内容の背景にある「不安」や「問い」を一緒に整理します。 ## ステップ2:連携づくり―連携パートナー探しとマッチング みんミが大切にしていることに、「同じ地域で活動している団体との橋渡し」があります。 今回は、練馬区内で活動する学びを保障する会を紹介。図書館のヘビーユーザーである知的障害のある若者たちと日常的に関わり、「図書館には行けても、美術館はハードルが高い」という現状をよく知る団体です。 連携パートナー: NPO法人障がい児・者の学びを保障する会 https://npo-manabinokai.com/ ### ワンポイント 「これまで接点がなかった対象」への対応こそ、障害のある本人やその周辺にいる人と話すことでみえてきます。 ## ステップ3:対応の流れ みんミが提案するラフな企画をもとに、ちひろ美術館のスタッフ、そして学びを保障する会の代表、大森梓(ルビ:あずさ)さんと協議を重ねました。美術館では「できること」を整理し、学びを保障する会では知的障害のある人が積極的に関われる方法を検討。企画をブラッシュアップし、最終的に「ちひろ美術館で知的障害のある人を対象にしたワークショップを開催する」ことを目標としました。 ①打ち合わせ みんミがちひろ美術館、学びを保障する会のそれぞれと個別にミーティングし、全体の企画の目標を設定。 ②実践プログラム①「おしゃべり会」 学びを保障する会のメンバーとねりまフォーラム実行委員会関係者が集う「おしゃべり会」を開催。日常や文化施設への思いを共有し、交流を通じて「知的障害のある人」としてではなく「〇〇さん」という個人として関わり合い、正解のない多様なあり方を実感する場となりました。 ### ワンポイント:どう関わればいいかわからないという不安に 「接点のない障害にどう接したらいい?」という不安を、「顔のみえる関係」が解いてくれます。 ③ワークショップ実施に向けた打ち合わせ(複数回) 大森さんがちひろ美術館へ。実際に美術館や展覧会を体験し、「安心して過ごすには何が必要か?」を話し合いながら企画を全員でブラッシュアップしていきます。 ④ちひろ美術館・東京を紹介 企画本番の前に、メンバーが美術館を知る機会を設定。ちひろ美術館は、どんな空間か、どう過ごせるか、「遊びながら知る」時間をデザイン。絵本の朗読や「ちひろ美術館所蔵品カード」を使ったゲーム形式のワークを体験しました。 ### ワンポイント:伝え方のアドバイス 美術館へ行くまでの早回し動画、さわってよい/さわってはいけない表示の工夫など、視覚的・体験的にわかりやすい案内の工夫について、学びを保障する会のメンバーに一番近い存在である大森さんがアドバイスすることで、参加者に寄り添った施設紹介になりました。 ⑤最終打ち合わせ ワークショップで必要な資料も、ちひろ美術館と大森さんが一緒に作成。 ⑥実践プログラム②「ワークショップ美術館を楽しむ一日」 休館日を活用し、アートカードゲームやミッションゲームなど「観る」「描く」「読む」などから自由に選べるプログラムをちひろ美術館が用意。 ⑦ふりかえり ちひろ美術館、学びを保障する会、みんミの3者でふりかえりの機会を設けました。 ## まとめ:相談対応のポイント ねりまフォーラム実行委員会からの相談では、以下の3点を重視しました。 ・相談内容の背景にある「不安」や「問い」を一緒に整理する 「誰に向けた企画か」だけでなく「今どこに不安を感じているか」などを引き出します。 ・地域の実践者との出会いを支える 施設にとって、地域の実践者は将来のキーパーソンになり得るかもしれません。だからこそ、みんミが課題 を直接解決するのではなく、継続的な関係が築ける地域の連携先を紹介。関係を構築するお手伝いをします。 ・正解を求めず、「提案する/試す」→「みんなで話す」→「変える」の流れを大切に 小さな対話から始めることで、「何ができるか」が自然とみえてきます。 ### みんなの声 ・練馬区にどのような団体があるかがわからない状態でした。みんミにつないでいただき、特性や求められていることについて理解を深めることができました。お互いに関係を築くことの大切さを感じました。(ちひろ美術館・東京スタッフ) ・想定外のことは配慮しない、という経験を多くしてきたからこそ、今回のように「探りながらやってみる」姿勢に、本当の意味で安心できました。声をきいてくれる、居場所にしてくれる。そう思える場所が、美術館にもある。そういう実感が残っています。(障がい児・者の学びを保障する会スタッフ) 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/nerima_and_moreneri_collaborator/2025/ # 3. 重度心身障害の子ども&家族と日本科学未来館へ—行って終わりでなく、やっぱり楽しみたい! 視点:2. ミュージアム・アクセス・パートナー ミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)とのミュージアム体験を実施するまでのプロセス、また事前準備のポイントを紹介します。2023年12月、重度心身障害のある子どもをもつお母さんの「親子で行ったことのある日本科学未来館(東京)にほかの人とも行ってみたい」という声を受けて実現した事例です。本人の興味に寄り添い、みどころをわかりやすく案内することを目的に、パートナーを募集。顔合わせや打ち合わせ、現地の下見など入念な準備を経て、当日を迎えました。 協働者: 吉原壮眞(ルビ:そうま)さん、純代(ルビ:すみよ)さん(利用者) 重度心身障害のある壮眞さんは体験当時、小学4年生。車椅子ユーザーで呼吸器を付けています。母の純代さんと一緒に参加しました。 上村夏実さん(パートナー) 体験当時、美術館や博物館の音声ガイドをつくる仕事を約10年経験するなかで、アクセシビリティに関心をもち、いろいろな人とミュージアムを楽しみたいという思いでみんミの活動に参加しました。 背景: 家族で行ったときは、館内を移動することだけでも手一杯で、ただみて回るしかできなかったということでした。パートナーと行くことで体験型の展示を積極的にやってみたい、という希望がありました。 ## ステップ1:どんなことがしてみたい?―「普段の様子」から興味に寄り添う これまでご縁のあった人を中心に、パートナーとおでかけしたい人はいないかと、声をかけていきました。そのなかで「ぜひやってみたい」といってくれたのが吉原純代さんでした。電話でやりとりをした後、パートナーを交えてオンラインで顔合わせとヒアリング。最近は理科や数学の動画などをみていること、またドラえもんが好きなことから、科学や未来のテクノロジーを体験できるミュージアム「日本科学未来館」にもう一度行くことに。さらに、「目の前で手を動かすとわかる」「質問したらうなずきや表情で反応できる」「音や光などの感覚過敏はない」といった本人の様子から、一緒に科学のおもしろさを発見できる見どころを絞って案内してくれるようなパートナーと体験を楽しむことをめざしました。 ### ワンポイント:どこにいく? ミュージアムに行きたいけれど、どんなところなら楽しめるかわからないということもあります。混雑状況、交通アクセス、企画内容、ミュージアムの特色などを調べてわかりやすく伝えることで、行き先を選びやすくなります。 ## ステップ2:連携づくり―パートナー探しとマッチング みんミでは、パートナーとミュージアム・アクセス・コーディネーターの心構えとして「活動を楽しむこと」を大切にしています。一緒に行く人が、不安や緊張、「やってあげなきゃ」の気持ちでいっぱいだと、お互いにリラックスできません。 パートナー登録者にメールで活動を募集し、希望する人にオンラインで詳しい内容を説明し、不安なことがあれば丁寧にきいて、顔合わせで確認します。今回は、「見どころや見方を発見できる」ことを条件に、福祉や医療に関する専門的な知識がなくても、利用者とミュージアムに行ってみたい!という思いのある人に活動をつなぎました。 ### ワンポイント:楽しみをみつけるパートナー 利用者との体験はもちろん、自身の体験の楽しみも大切にしてもらうことで、それぞれに充実した時間をめざします ## ステップ3:対応の流れ 利用者とパートナーとの打ち合わせやヒアリング、顔合わせ、情報交換の機会をつくります。パートナーとみんミが協力して、当日を安心して過ごすための下見や、より体験が充実するための準備をし、実施を迎えます。 ①利用者へのヒアリング(オンライン) 「どんなことをしてみたいか」「いつ頃行きたいか」をヒアリング。特に「パートナーとやってみたいこと」を詳しくききました。 ②パートナー募集 利用者へのヒアリングをもとに、開催日時、条件、実施までの大まかなスケジュールを記載して、パートナー登録者に一斉メールで募集をかけました。 ③パートナーとの打ち合わせ(オンライン) 希望者と打ち合わせ。利用者の状況や希望を伝え、実施について不安なことがあれば丁寧にきき取ります。 ④利用者とパートナーのプロフィール交換 お互いのことを知るためプロフィールシートを記入し、事前に交換。利用者のシートには、「親を通してではなく直接本人に話しかけてほしい」「普段は諦めてしまうことにもチャレンジしたい」こと、パートナーのシートには本人の顔写真付きで「調べたり、考えたり、発見したりすることが大好き」「好きなミュージアムがたくさんある」とありました。 ### ワンポイント:プロフィールシート 「障害のある人」「パートナー」から、○○さんという個と個の関係に。会話のきっかけにもなります。書き方はワードデータや手書き、電話できき取るなど相手の状況に合わせて。今回は、利用者からみんミが電話でプロフィールをきき取り記入。パートナーの手書きのプロフィールはスキャンし、両者にメールで送りました。 ⑤利用者とパートナーとの顔合わせ(オンライン) プロフィールシートを参考に、利用者の普段の様子や興味、「どんなことをやってみたいか」を話し、交流しました。当日の待ち合わせ時間や場所などの詳細も決定 ⑥パートナーとのミュージアムの下見 車椅子の利用や、人工呼吸器の吸引、服薬があるなどの身体的状況から、トイレやチケット売り場、ロッカーなどの施設設備や利用方法、駐車場やミュージアムまでのアクセスについて事前にチェックし、安心して回れるルートを設定。また、展示を体験したいという希望があったため、体験型展示の有無、混雑状況、手が届かない場合の配慮などをミュージアム側にも事前に確認しました。候補日は団体利用が重なり混雑が予想されたため、日程変更の判断にもなりました。 ### ワンポイント:現地の下見は必要? 服薬の時間が決まっていたり、飲食の持ち込みが必要だったりするケースも。休憩スペースや救護室の有無などを、事前にミュージアムへ問い合わせます。現地を下見しておくと、通路の広さや音の大きさ、客層などもわかり、当日のイメージがしやすくなるでしょう。 ⑦パートナーによる「しおり」作成 下見をもとに、みんミとパートナーで広い館内をめぐる順番を設定し、事前に利用者に提案。パートナーがスケジュールや館内マップ、各階の見どころを画像と一言で説明した「しおり」を作成。データで共有し、当日までのわくわくをつくりました。 ⑧実践当日 約2時間の鑑賞で、8カ所ほどの展示や体験を楽しみました。 ⑨ふりかえり 実施後、パートナーとみんミスタッフでふりかえり。後日、利用者にオンラインでインタビューをし、レポートを作成しました。 ## まとめ:実施までの準備のポイント パートナーと一緒に行う、ミュージアムでの鑑賞体験までの準備のポイントとは? ・「安心」があることで、体験できる 体験の前に、安心できることが大前提。どんな人と行くか、という緊張をプロフィールシートや顔合わせなどの交流で解いていきます。「迷わないかな」「休憩できるかな」といった環境への不安は、事前の下調べや下見など、パートナーと一緒に確認しながらほぐしていきます。 ### みんなの声 「以前来たときはどう体験していいかわからなかった」とお母さんが話していましたが、今回は「こんなことができる」「こんなことが起こったよ」と会話をしながら回りました。一緒に体験する人がいたことで「さわってみよう」「自分もやっていいんだ」と感じられたのかもしれません。(上村夏実、ミュージアム・アクセス・パートナー) 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/partner_miraikan/2024/ # 4. 紅ミュージアムと視覚障害のあるコーディネーターとの協働—「さわる体験はレプリカでもいい」というミュージアムの気づきに 視点:3. ミュージアム・アクセス・コーディネーター 2023年夏に実施した、紅ミュージアムと、視覚障害のあるミュージアム・アクセス・コーディネーター(以下、コーディネーター)との協働の事例です。紅ミュージアムはギャラリートークや紅(化粧品)の体験コーナー、学校への出張授業など、さまざまな教育プログラムを積極的に実施しています。そこで、すでに行われているプログラムのいくつかをコーディネーターが体験することを通して、視覚障害のある人が一緒に楽しみ、理解を深めるにはどのような工夫ができるか、アイデアを出し合いました。 協働者: 紅ミュージアム 東京・南青山にある「紅」をテーマにした資料館。江戸時代に創業され、現存する最後の紅屋(ルビ:べにや)である「伊勢半」が運営。現代の口紅のルーツといえる紅をつくる工程や技術、化粧の歴史・文化を展示で伝えるとともに、紅を試せる体験プログラムも行っています。 藁谷(ルビ:わらがい)和子さん(コーディネーター) みんミの活動に理解・関心を寄せてくれた人。別の実践でもコーディネーターとして活動いただいていたこともあり、依頼しました。 背景: みんミ主催のオンラインシンポジウムに参加した紅ミュージアムのエデュケーターが、アンケートに「みんミとの協働に関心がある」と記入したことがきっかけに。 ## ステップ1:「始めるのは大変そう」というミュージアムの不安を解消する アンケートに「協働に関心がある」と書いてあったことから、紅ミュージアムに連絡してみると「関心はあるのですが、時間や人手を考えると、今はまだ難しくて……」というお返事が。そこで「ゼロから新しいプログラムをつくる必要はないこと」「障害のある人を特に意識したプログラムでなくても、すでに実施しているプログラムに小さな工夫をするだけで、多様な人に楽しんでもらえる可能性があること」「わざわざ時間や人手を準備しなくてもできることから始める方が継続しやすいこと」と伝えたところ、「無理しないでできる、小さなチャレンジからやってみましょうか!」というお返事に変わりました。 ### ワンポイント:小さなチャレンジ 最初の一歩は無理せず、できることから始めてみましょう。 ## ステップ2:ミュージアムの現状、問題意識、ニーズなどをヒアリングする 紅ミュージアムの常設展示の大きなテーマの1つが、紅をつくる過程での色の変化。紅花の黄色の花びらから、わずかに含まれる赤色の色素を抽出し、精製してつくる「小町紅」は玉虫色、しかしそれを水で溶くと鮮やかな赤色が現れる……。みえる人にとっては、説明がなかったとしても、一目みてわかる不思議でおもしろい変化です。エデュケーターの話では、この変化をみえない人・みえにくい人にどのように実感してもらうことができるのか、そもそも楽しんでもらえるのだろうか、と以前から気にかかっていたそうです。そこで、今回の協働では、視覚障害のある当事者のコーディネーターが紅ミュージアムの展示やプログラムを体験し、色の楽しみ方、あるいは色以外の別の楽しみを一緒に探ることにしました。 ### ワンポイント:まずはヒアリングから ミュージアムの事情に寄り添った内容、進め方で協働しましょう。 ## ステップ3:ミュージアムの現状、問題意識、ニーズなどをヒアリングする ミュージアムの現状やニーズをヒアリングし、どのコーディネーターに依頼するか、どのように協働するかを決定します。 ①紅ミュージアムへのヒアリング ミュージアムアクセスへの取り組みの現状、課題や今後の展望などをききます。 ②コーディネーターの調整 ミュージアムの希望に合ったコーディネーターを選定し、スケジュールを調整しました。 ③コーディネーターとの打ち合わせ プログラムの内容や当日の待ち合わせなどでわからないところ、不安なところがないかなどを確認していきます。 ④みんミスタッフで現地下見/打ち合わせ 紅ミュージアムへのアクセスは、渋谷駅からバスに乗ります。渋谷駅は工事中の場所も多くわかりにくいため、コーディネーターとの待ち合わせ場所をどこにするかを下見して決定。紅ミュージアムの展示室も下見をし、当日はどのように進めるかをミュージアムのエデュケーターと一緒に検討しました。 ⑤実践当日、コーディネーターとともに紅ミュージアムへ コーディネーターが興味をもった内容を、好きな順番で体験することになり、最初に紅を溶いて塗るプログラム、続いて常設展示室でのギャラリートークを体験。 ⑥ふりかえり(当日終了後に実施) コーディネーターの「もっとさわってみたい」というリクエストにこたえて、普段、ディスプレイで使っているレプリカの資料をさわることに。「さわることで知る・理解する、という点では、必ずしも実物資料である必要がない」という、ミュージアム側の気づきにつながりました。 ## まとめ:コーディネーターの意見を今後のヒントに 視覚障害と一口にいっても、みえ方やみえなくなった時期、物事の認識の仕方などは人によって異なり、ミュージアムの楽しみ方もそれぞれです。コーディネーターの意見や体験も、視覚障害のある人の楽しみ方を代表するものではなく、あくまでも1つの事例ですが「ベタベタさわれるのはうれしい」「視覚以外から感じる楽しさや、色そのものの理解よりも大事なことがある」というコーディネーターの言葉は、紅ミュージアムの今後の取り組みへのヒントになったようでした。 ### ワンポイント:考え方や感じ方はそれぞれ コーディネーターは、障害のある人の代表ではありません。コーディネーターの考え方や感じ方は1つの例として参考にしましょう。 ### みんなの声 ・1つでも2つでもふれるものがあるといいのです。数が多ければいいというものでもありません。今回は体感できるものが多くてよかったです。わたしにとっては紅(赤)がどんな色かということよりも、今日の体験から紅の色を好きになって、それをつけたい、と関心をもてたということが大事。わたしは「赤毛のアン」が好きなので、紅について「玉虫色から、塗ると赤くなる」という話をきいたときに、アンが髪の毛を黒に染めたつもりが緑になったというストーリーを思い出して、内心楽しかったです。そういう楽しみ方。体験できて好きになります。色をイメージすることが先ではなく、紅を体験して好きになるのです。 (藁谷和子、ミュージアム・アクセス・コーディネーター) ・知識不足の状態で同席させていただきましたがとても楽しく、学び多き時間となりました。そしていろいろな不安も解消してくださいました。これからさらにブラッシュアップをして、誰もが参加できるギャラリートークをつくり上げられればと考えております。(紅ミュージアム管理者) 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/coordinator_benimuseum/2023/ # 5. せんだいメディアテーク—体験プログラムを地域の人・団体とともに企画する 視点:4. 環境をともにつくる+1+2+3+5+6 宮城県仙台市のせんだいメディアテーク(以下、メディアテーク)から展覧会への協力依頼を受け、障害のある人の参加を促す環境整備や本展に関連するプログラム(以下、関連プログラム)の企画をしました。その展覧会は、contact Gonzo(コンタクト・ゴンゾ)とdot architects(ドットアーキテクツ)による、「定禅寺パターゴルフ??? 倶楽部!! ~協働と狂騒のダブルボギー(2打オーバー)」(2023年1月11日から2月5日)です。みんミは、障害のある人やその支援団体と協力して4つの関連プログラムの企画・運営を行ったほか、広報活動のサポート、会場構成、展覧会運営への助言を担当しました。関連プログラムを中心に、その協働のプロセスを紹介します。 協働者: せんだいメディアテーク すべての人がさまざまなメディアを通じて自由に情報のやりとりができるようお手伝いする公共施設。美術・映像作品の展示や鑑賞のほか、メディアを利用した活動やワークショップの展開、図書館サービスなどを提供しています。3つの理念の1つに「あらゆる障壁(バリア)から自由である」を掲げています。 背景: 2022年7月、メディアテークから「障害の有無や年齢にかかわらず、遊びを通じてさまざまな人が出会う場をつくりたい。多様な市民を巻き込むために企画に協力してほしい」という相談がありました。みんミでは、「多様な市民」として「障害のある人たち」を想定し、関連プログラムの協働先として、主に仙台で活動する障害のある人やその家族、支援団体に声をかけました ## ステップ1:展覧会担当者との打ち合わせと、企画提案 まず、展覧会のテーマや趣旨を確認するため、みんミは展覧会担当者やアーティストと打ち合わせをしました。本展は、オープンスクエアと呼ばれる1階の広い空間に不思議なパターゴルフ場をつくり、来場した「知らない人」同士がプレーすることで、遊びを通じて多様な人と知り合う場をめざしていました。そこで、みんミでは主に次の3点を提案しました。アーティストとの打ち合わせでは、これまでの作家活動のレクチャーを受け、またカームダウンスペースの配置や仕様を含めた会場構成を、一緒に検討しました。 1. 障害のある人に届けるための広報物の助言、関連するコミュニティへの広報協力 2. 障害のある人とない人がともにプレーできる、関連プログラムの企画と実施 3. カームダウンスペースの設置といった会場構成への助言 ### ワンポイント:企画の背景を知る 連携する協働団体に説明できるよう、展覧会の趣旨を理解し、アーティストの活動背景を知ることも重要です。 ## ステップ2:協働者へ依頼 関連プログラムは、主に仙台で活動する障害のある人やその支援団体とともに企画しました。みんミを運営するエイブル・アート・ジャパン東北事務局が、日頃から関わりのある団体や個人に声をかけ、協力を依頼。今回は会場がパターゴルフ場になるため、スポーツに親しみのある団体を中心に調整をしました(協働者の詳細はステップ4を参照)。 ### ワンポイント:ネットワークを生かす エイブル・アート・ジャパン東北事務局が運営する「障害者芸術活動支援センター@宮城」のネットワークを生かしました。ミュージアムがもつネットワークを活用するのもGood! ## ステップ3:各団体との打ち合わせ プログラムの内容を検討するため、各協働先とみんミは2回ほど打ち合わせしました。そのなかで、会期初日に行われたアーティストによる公開練習にも参加。アーティストと一緒に、具体的なプログラムの流れや必要な道具を確認しながらコースを回り、協働者の視点を企画に反映しました。 みえにくい人「ゴルフボールの大きさだと打った感覚がわかりにくいので、ブラインドテニスのボールを使うのはどうか」 きこえない人「できるだけ参加者同士のコミュニケーションが生まれるよう、プレーするときは手話通訳を入れず、筆談やジェスチャーもまじえながらやろう」 ### ワンポイント:間に入って整理する 会場視察の際、視覚障害のある人や支援団体のスタッフから「まわりの人の声がききとりづらいので、会場全体に流れる音声を止めてほしい」という要望も。しかし、みんミスタッフが展覧会担当者に確認すると、音声は作品の一部であったため、音声も含めてプレーを楽しんでほしいことをみんミから伝えました。みんミが協働者と展覧会担当者の間に入り、実現できること、できないことを整理しながら調整しました。 ## ステップ4:関連プログラムの企画 各協働者と一緒に企画を進めた、4つの関連プログラム。例えば、障害者地域活動推進センターきりんでは、平日の余暇活動でパターゴルフと似た視覚障害のある人向けスポーツ「スティックボール」を行っており、余暇活動としてプログラムに組み込む提案がありました。実際にみんミはスティックボールを見学し、みえない人、みえにくい人がどのようにパターゴルフを楽しめるかも検討しました。 プログラム内容と協働先(団体名:その団体にいる人の順に記載) ①勝負の手がかりは音!?見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!! 協働先:障害者地域活動推進センターきりん(NPO法人アイサポート仙台):歩行訓練士など視覚障害のある人の支援に関する専門のスタッフ、きりんの活動に登録する視覚障害のある人、ボランティア ②サイレントなゴルフ場!?手話や筆談でプレーを楽しもう!! 協働先:みやぎデフキッズクラブ:ろうの人、手話通訳者、聴覚障害のある児童生徒、そのご家族など ③家族対抗!!パターゴルフ大会!! 協働先:障がい者サポーターズGolazo!、尚絅学院大学:知的障害のある子どものいる父親、発達障害の支援が専門の大学教員、特別支援教育や保育を専攻する大学生 ④いろいろキャディー大集合!!キャディーとおしゃべりしながらコースをまわろう!! 協働先:障害のある人の生涯学習プログラム「スウプノアカデミア」参加者や、仙台市内在住の障害のある個人 ## ステップ5:関連プログラム当日 ①では、みえない人がコースを歩きながら起伏を確認したり、さわって障害物を確認したりする姿も。また、黒い床に対して白いパターを使うなど、弱視の人もみやすいように道具選びを工夫しました。1打目でホールインワンを出した参加者もいて、会場は大盛り上がりでした。②では、最初に「うまい」「惜しい」など、プレー中に使える簡単な手話を参加者全員で練習。きこえない人、きこえる人が混ざり、年齢もさまざまなグループで、ときに笑いながら、手話やジェスチャーなどいろいろな方法でプレーを楽しみました。 ## ステップ6:展覧会担当者、協働者、みんミによるふりかえり 今後も障害のある人が展覧会に訪れたり、プログラムを体験したりする機会が生まれるよう、協働先とふりかえりを行いました。アクセシビリティに求めることをヒアリングし、みえた課題もあります。 [視覚障害のある人たちのコミュニティから] ・目のみえる人との関わりが少ないので、さまざまな人と一緒に活動できてうれしかった ・こうした現代美術の展覧会を知らなかったので、今後も情報を届けてほしい [聴覚障害のある人たちのコミュニティから] ・当初、プログラム参加への応募数が少なかったが、展覧会初日の下見時にプレーの様子を動画に撮り、SNSで発信したことで申し込みが増えた ・視覚情報を重視するろう者にとって、写真や動画による発信は、内容を想像しやすくなる ・地方では美術に関わる手話通訳などの専門家が少ない ## まとめ:展覧会の企画段階からアクセシビリティを視野に 展覧会のアクセシビリティは、開幕後に検討されることも多く、対応が限定されがちです。今回は展覧会担当者の思いもあり、会場設計の段階から障害のある人やその支援者と、みんミの視点を反映しながら一緒に企画を進められました。一方、ふりかえりでは、展覧会のテーマが「ままならない世界」だったため、参加者が使う道具の選択や遊び方は、既存のルールから外れ、もっと自由でもよかったかも、という展覧会担当者の感想も。企画側や運営側はつい真面目に考えてしまうので、その場で生まれる偶然やひらめきを受けとめるサポーターの参加など、余白あるプログラムづくりの可能性もみえました。 詳細レポートは https://qr.quel.jp/om/c55t71 # 6. さいたま市立漫画会館—実践知を、地域のミュージアムに広げていく 視点:4. 環境をともにつくる+1+2+3+5+6 さいたま市立漫画会館(以下、漫画会館)は、作品鑑賞への情報保障についてみんミと協働し、2023年にギャラリートークの手話通訳・要約筆記の導入、2024年には中途失聴・難聴者などきこえにくい人に向けた透明ディスプレイによる検証をしました。そして2025年には、漫画会館の働きかけにより埼玉県博物館連絡協議会でアクセシビリティをテーマにした研修が実現しました。この一連の取り組みにはミュージアム・アクセス・コーディネーター(以下、コーディネーター)が協力しています。漫画会館が手探りで始めた取り組みが、地域のミュージアムへ広がった事例です。その3年間の歩みを紹介します。 協働者:さいたま市立漫画会館 さいたま市が管理運営するミュージアム。日本初の漫画をテーマにした公立美術館として1966年に開館し、漫画家・北沢楽天の資料を保存・研究・公開しながら、近現代の漫画に関するさまざまな企画展を実施しています。 背景: 漫画会館の常勤職員は4人、そのうち学芸員は石田留美子さん1人。市町村のミュージアムの多くは小規模で人員が限られていることもありますが、法律のもと、多様な来館者を迎える環境整備は等しく求められます。石田さんは、みんミとの連携後も、継続的で自立した活動に向けて、不足するマンパワーにはボランティアを新たに募集したり、企業に協力を依頼し、その技術や機材を活用したりと環境をつくり出してきました。 ## ステップ1:障害のある当事者によるコーディネーター研修 ギャラリートークに対する情報保障として、手話通訳・要約筆記の取り組みを初めて実施するにあたり、みんミと協働し「障害のある当事者によるコーディネーター研修」を行いました。2023年3月に実施した聴覚に障害のあるコーディネーターとの検証会では、ギャラリートークの手話通訳を実施し、手話通訳の立ち位置の確認、指示語の使用を避けるなどの具体的なノウハウを習得しました。以後、学芸員による月1回のギャラリートークでは利用者の有無にかかわらず手話通訳をつけるようになりました。 ### ワンポイント:仕組みを知る 地域の手話通訳者派遣の仕組みとして、申し込み方法、料金、運用ルールなどを理解するところから。 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/activity_coordinator202303/2023/ ## ステップ2:画一化しない情報保障 ギャラリートークの参加者の様子から、石田さんは「きこえ」にはさまざまなグラデーションがあり、手話を使わない「きこえにくい人」もたくさんいることに気付き、2023年10月に、透明ディスプレイ(株式会社ジャパンディスプレイによる「レルクリア」)を用いた活動の検証を行いました。みんミは、中途失聴・難聴者などの「きこえにくい人」とともに活動に参加。実際に、企画漫画展のギャラリートークの際には、手話通訳と透明ディスプレイへの文字表記が併用されるようになりました。 ## ステップ3:補助資料の作成 障害のあるコーディネーターが参加し、意見を述べたことで、生まれた活動が2つあります。1つは、ギャラリートークにおける補助資料の必要性です。コーディネーターや手話通訳者から「伝わりづらい言葉」として、作家名をはじめ作品に登場する地名などの固有名詞、漫画作品特有のオノマトペなどの表現があげられました。その後、漫画会館では、目でみて伝わる補助資料が作成され、ギャラリートークで使用しています。 ## ステップ4:イベント情報発信の改善 コーディネーターとの協働で生まれた活動のもう1つは、もっと多くのきこえない人やきこえにくい人にギャラリートークへ参加してもらうための情報発信の改善です。この結果、ギャラリートークには埼玉県内だけではなく、首都圏からも情報保障を必要とする利用者が集まるようになりました。 [広報の連携先] ・聴覚障害のある当事者に届ける中間支援組織:さいたま市聴覚障害者協会、東京都中途失聴・難聴者協会、聴覚障害者情報文化センター ・SNSや口コミをベースとした媒体・コミュニティなど:「美術と手話プロジェクト」、手話サークル、手話講習会、「しかくタイムズ」(ポータルサイト)、「チラシミュージアム」(チラシが一覧できるアプリ)、手話を使う店主がいる カフェ、飲食店など [改善の具体例] ・「手話通訳付き」とチラシやウェブサイト、インスタグラムに記載 ### ワンポイント:『博物館研究』に掲載 日本博物館協会が発行する月刊誌『博物館研究』に一連の取り組みが掲載されたことで、全国のミュージアム関係者に知られ、問い合わせも。他館での導入につながりました。 ## ステップ5:県内ミュージアムへの展開 漫画会館の実践を参照に、埼玉県立近代美術館でも手話通訳付きギャラリートークを開催することになりました。その際、みんミに相談がありました。手話通訳者とともに準備を重ね、2024年12月、埼玉県立近代美術館で初めて手話通訳付きギャラリートークが開催されました。2025年7月には埼玉県博物館連絡協議会の研修部会との情報交換に発展し、11月にはアクセシビリティをテーマにした研修実施に至りました。研修会には、埼玉県(南部地域)のミュージアム15館から24人の参加者を迎えました。 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/coordinator_saitamakinbi/2025/ ## まとめ:地道な実践が、地域に広がる 小さなミュージアムが始めた地道な取り組みが、県全域に広がった事例です。聴覚に障害のあるコーディネーターとの協働により、適切な情報保障の検討、展示の補助資料の作成、情報発信の改善などを時間をかけて行った結果、県内外からの来館者が増え、ほかのミュージアムに取り組みは広がっていきました。「実践知を、地域のミュージアムに広げていきたい」。そんな思いを受けてみんミも協働しましたが、「環境をともにつくる」アプローチが実現しました。 ### みんなの声 ・いろいろな人が同じスタートラインに立つには、いろいろな人のニーズを考える必要があります。そのためには、やはり障害のある当事者の立場から何がみえるか、最初の企画段階から関わることも重要です。(ミュージアム・アクセス・コーディネーター) ・障害のある人へのアクセシビリティは、関わったことがないから実施の仕方がわからない、想像がつかない、は普通のこと。わたしも不安でした。なぜ実施する必要があるのか。そこから考え、不安を払拭(ふっしょく)し、障害のある当事者に来てもらって実践を通じて学ぶことができました。「ちょっとだけ無理なことに挑戦してこーぜ」(漫画『宇宙兄弟』のセリフ)。この言葉に勇気をもらって、実施することができました。また、漫画会館だけでなく、埼玉県博物館連絡協議会の研修や地域のミュージアムに広げることができ、ミュージアムのアクセシビリティについて実践する機会が増えたことがうれしかったです。(石田留美子、さいたま市立漫画会館) # 7. 福島県博物館連絡協議会による研修会—3年の月日を経て、リラックスして対話できる関係に 視点:5. 地域に根ざしたネットワークをつくる+1+3+4+6 2022、2023、2024年と3年連続で、福島県博物館連絡協議会(以下、協議会)が主催し、福島県障がい者芸術文化活動支援センターが共催するアクセシビリティ研修の企画実施に関わりました。はじまりの美術館を中心とした、複数のミュージアムから構成される運営チームの意向をききながら、研修内容を毎年検討・決定してきました。継続的な実施と、福島県在住の障害のある当事者(以下、協力者)に伴走してもらうことで、未来につながる手ごたえが感じられた取り組みです。協力者は協議会の運営チームがコーディネートしました。 協働者:福島県博物館連絡協議会 福島県内の博物館・美術館、またはそれに準ずる施設から構成される協議会。相互の連絡・協働によってミュージアムの機能を強化し、地方文化の振興に寄与することを目的として運営されています。 [協力者] 1年目:鈴木祐花(ルビ:ゆうか)さん(視覚障害)、根本和德(ルビ:かずのり)さん(聴覚障害) 2年目:天水みちえさん(精神障害)、石川信子さん(自閉スペクトラム症の子どもがいる家族) 3年目:鈴木祐花さん、石川信子さん、天水みちえさん、岡﨑幸治さん(精神障害) 背景: 福島県内のミュージアムで、視覚障害のある人が付き添い者とおしゃべりしながら展覧会を鑑賞していたところ監視の人から注意を受け、対応を残念に思ったその来館者が博物館の管轄である福島県へ報告。この出来事をきっかけに、指摘を受けたミュージアムの担当者が障害のある人への対応や合理的配慮について学びを深めようと考えました。自館だけではなく、県全域で学ぶ機会をつくろうと、協議会での研修会を3カ年で進めることとなり、その協力として、みんミを運営するエイブル・アート・ジャパンに相談が届きました。 ## ステップ1:研修1年目 ミュージアムの利用を考える―視覚障害、聴覚障害のある当事者とともに 初めての研修会だった1年目は、協議会に参加する県内ミュージアム間の交流の場としても大事な機会ととらえ、参加者同士ができるだけ、さまざまな人と話ができるように、グループワークの時間を多く設けました。 協力者としては、県職員の鈴木さん(視覚障害)、特別支援学校教員の根本さん(聴覚障害)が参加。日常生活でどんな困りごとやうれしい工夫があったかなど、インタビュー形式で話をききました。また後半のグループワークでは、グループに入ってもらい、参加者と一緒に「ミュージアムの課題を青天井で解決する」ことに取り組んでもらいました。このワークは、みんミの前身ともいえる「みんなの美術館プロジェクト」のワークショップを参考に、インクルーシブデザインの考え方を取り入れました。 ### ワンポイント:ポイントは「青天井」 枠を超えて突拍子もないことを考えると、グループ内の親密度が一気にアップ!奇想天外なことを考えていたはずなのに、なぜか結果的に現実的なアイデアのヒントになる、という驚くべき効果があります(「またまた……」と疑ったあなた、だまされたと思ってぜひ一度、お試しください)。 ## ステップ2:研修2年目 ミュージアムの利用を考える―精神障害、発達障害のある当事者や家族とともに 2年目は協力者として、アーティストの天水さん(精神障害)、絵を描くのが大好きな子ども(自閉スペクトラム症)がいる石川さんが参加しました。2人の共通点は、美術館に行く機会が多いということ。インタビューでは、それぞれ美術館に行く前にどんなことが気になるか、どんな情報を集めるか、美術館で過ごしやすくするための自分なりの工夫などをききました。協働者とともに話し合うグループワークは、前年度に続き、行いました。 新しい試みは、前年度参加した諸橋近代美術館、郡山市美術館による「研修以後のアクセシビリティの取り組みでできたこと・できなかったこと」のミニ発表。発表となると、つい成功した事例や大きな事例を共有しがちですが、「ミニ発表」となれば、そんな気取りも不要です。ささやかでも実行できたこと、実行したけれどうまくいかなかったこと、実行しようとしたけれどできなかったことなどを共有する方が、学びとして深く、大きい面もあります。もしかしたら、きき手になっていた前年度参加館にとっては、つまずきを共有できる同志として、励みに感じられる効果もあったかもしれません。 ### ワンポイント:研修は受けた後が本番 行動したこと、しなかったことを認識し、共有することも大事です。 ## ステップ3:研修3年目 ミュージアムの情報を届けるために必要なこととは? 3年目、運営チームから提案されたテーマは「情報発信」。ミュージアムで仕事を始めてからアクセシビリティのことを考えてきたけれど、「そもそもミュージアムのこと、知られている?」「ミュージアムが発信している情報、届いている?」「その情報、わかりやすい?」など、これまでの研修を経て、改めて来館すること自体への課題の大きさに目が向けられた印象がありました。 そこで3年目はこれまでの総決算的な意味合いもあり、これまでの協力者全員に声をかけ、ミュージアムの情報について考える時間をもつことになりました。前半のインタビューのテーマ「展覧会に出かける前に役立つ情報」では、アクセシビリティに関わる情報はもちろんなのですが、意外にも多かった意見が「天気」の情報でした。特に温度や積雪状況など、同じ県でもエリアによって状況が違うので、SNSで発信されていると助かるそうです。 後半のグループワークでは、参加者が持参した自館のパンフレット、チラシなどの紙媒体や、ウェブサイト、SNSなどオンラインによる情報発信を、タブレットやスマートフォンも使いながら協力者と一緒に参照してもらう時間をつくりました。特に視覚に障害のある人がタブレットやスマートフォンを実際に使う姿を初めてみる参加者にとっては、さまざまな気づきがあったようです。 ## まとめ:ミュージアムと利用者、対話できる関係性を育む3年間 2024年4月に「改正障害者差別解消法」が施行されたことで、ミュージアム関係者の関心が高まっていた背景もあり、運営チームが3年間通して掲げたテーマが「合理的配慮」でした。合理的配慮に大切なのは、個々の困りごとやニーズを知ろうとすること、そのために丁寧に対話することです。 3年間の研修では毎回、福島県在住の障害のある当事者や、その家族に協力者として参加してもらい、ミュージアムのスタッフと少人数でざっくばらんに話せるグループワークの時間を設定しました。初めてコミュニケーションするときは、お互いに「こんなことを言ってもいいのかな、きいてもいいのかな」という緊張や心理的なハードルがあるもの。しかし3年という継続的な実施、同じ福島県に住んでいる者同士という親近感から、リラックスして対話できる関係へと変化してきたように感じています。 ### みんなの声 ・運営チームや会場が少しずつ変わりながらも、3年間少しずつブラッシュアップして研修会を開催できたことが、よかったと思います。参加いただいた方々も、固定メンバーだけや新しいメンバーだけ、ということもなく、継続して参加される⽅と新規で参加される⽅、どちらもバランスよくいらっしゃった印象でした。伴⾛者のみなさんが「ぜひ今度はこのミュージアムに出かけたい」と話されており、研修会以外の場でのお出かけにもつながるのが、いいなと感じました。(3年目主催者) ・学びが多かったのは、各館の事例の発表です。グループトークの場などでもそれぞれの取り組みをきいてみたいと思いました。(2年目研修参加者) 詳細レポートは https://qr.quel.jp/om/dw9p04 # 8. みんミの“わ”—多様な人がともにいられるオンラインの場のつくり方 視点:6. 学びの場をつくる 「みんミの“わ”」は、オンラインの学びの場として、2026年3月までに全15回の実践を重ねてきました。そのなかで、多様な人がともにいられる場をどのようにつくるのか、特にオンライン空間で起こりやすい「みえない段差」にどう向き合うのかを、模索してきました。アクセシビリティを支える情報保障や、対話をどのように起こすか。ここでは、テーマ設計から広報、当日の進行までの流れを紹介し、誰もが安心して参加できるオンラインの場をひらくためのヒントを共有します。 ## ステップ1:オンラインで起こる「みえない段差」に気づくこと―3つの原則 オンラインの学びの場は、地域を越えてつながる可能性を広げますが、同時に、画面の向こう側で「みえない段差」を生みやすい構造でもあります。例えば「この写真をみてください」と言われても、視覚に障害のある人には伝わりません。また聴覚に障害のある人がチャット欄のコメントをみている間に手話通訳を見逃し、話に追いつけなくなることも。みんミでは、こうした課題を最初から完璧に解決することをめざすのではなく、まず試してみて、一緒に考え、少しずつよくしていく姿勢を大切に、実践を重ねてきました。 みんミの“わ”の3つの原則 1 情報保障を整える 写真や図は言葉でも説明。また手話通訳・文字通訳も準備します。 2 ゆっくり進める 話すスピードを通常の8〜9割に抑え、名前を名乗ってから発言します。間を置きながら話すことで情報保障にもなり、参加者が話の内容をじっくりと咀嚼する余白になることも意識しています。 3 参加の形を選べる カメラをオフにして参加する、チャットに感想を書く、積極的に発言するなど、参加者が居心地よくその場にいながら、主体的に参加できる選択肢を用意しています。 ## ステップ2 実践プロセス―オンライン運営の流れ ①テーマ・ゲストの選定 企画時には「障害のある当事者が語る場をもつ」「小さな実践を共有する」「先進的な事例を学ぶ」を軸にテーマを選定します。登壇ゲストには、次の点をお願いしています。 ・専門用語は避け、やさしい言葉で話す ・スライド資料の写真や図は説明し、文字は読み上げる ・「これ」「あれ」などの指示語を避ける ・話し始める前に手を挙げて「◯◯です」と名前を伝える ②広報と申し込み 告知はウェブ、SNS、メール、電話など多様な方法で行い、「歓迎されている」と感じてもらえるように告知することを心がけています。 ・申し込み方法はオンラインフォームだけでなく、メールや電話も受け付ける ・申し込みの際に、障害の有無や個別サポートが必要かを確認する ・「参加にあたって心配なことがあれば、どんなことでもお気軽にご相談ください」と伝える ③手話通訳・文字通訳者とのやりとり きこえない人にも、手話が得意な人、文字字幕を好む人、手話と文字の両方を必要とする人などさまざまです。そのため「みんミの“わ”」では手話通訳、文字通訳の両方を用意し、通訳者と事前に以下のやりとりを行っています。 ・手話通訳者(2〜3人)と文字通訳者(4〜5人)に、数日前までに資料を共有する ・情報保障が必要な参加者を伝える ・固有名詞の手話表現は事前の打ち合わせで確認する ④当日の進行 「みんミの“わ”」は、①ゲストの話題提供、②チャットでの感想共有、③Zoomのブレイクアウトルーム(グループごと)での対話、④全体対話、の流れで進行しています。運営面では次の工夫をしています。 ・複数の連絡手段(電話、メール、チャット)を用意し、開催中も連絡が取れるようにする ・運営スタッフのメッセンジャーグループを作成し、緊急対応に備える ・冒頭で、「カメラのオン/オフは自由」「チャットが使いにくい人は、メールや電話での質問、コメントも可能」と伝える ・Zoomでは、全員が見やすいように「話し手」「手話通訳」「文字通訳」の画面をピン留め。また、スポットライト機能を使い、参加者が必要に応じて画面を拡大できるようにする ・チャットを活用するときには、話題を一度中断し、コメントをチャットに書くだけの時間を設ける。またチャットだけではなく、メールや電話でもコメントを受け付ける ・話す速度は心持ちゆっくりとする ## まとめ:できることから一歩ずつ、学びながら 紹介した内容を、はじめから全部行う必要はありません。できることから1つずつ、無理をせず。でも声をききながら、学びながら、少しずつ進んでいく。運営側が学ぶ意識をもつことで、参加者にも学ぶ意識が伝わっていきます。 みんミ「具体的な流れに興味がある方は、ぜひ一度「みんミの“わ”」にご参加ください。」 ### みんなの声 ・自分とは違う立場の方の思いをきくことができ、とても有意義な時間でした。今回の意見を深く話し合うことで何か解決のヒントが見つかりそうだと感じています。(芸術文化関係の参加者) ・画面のオン/オフなど、自分の心地良い形で参加OKなどの声かけは、参加者に安心感を与えたと思います。みなさんとの 話の中で気づきや同じ思いをしている人がいることがわかり、ありがたかったです。(障害のある参加者) ・植物園でのユニバーサルデザインの取り組みを知ることができてとても興味深かったです。ゲストは2人とも障害のある方への「配慮」というよりも「一緒に楽しむ」というマインドを一貫しておっしゃっていましたが、これはインクルーシブの観点からとても大事で忘れてはいけないマインドだと気付かされました。(学生の参加者) 詳細レポートは https://minmi.ableart.org/activity/activitylist/minminowa/ # はじめてのミュージアム 後編 初めてのミュージアム体験をインタビューしたコラムの後編。それぞれのエピソードからこれからのアクセスのあり方を探ります。(※前編はp.48をご覧ください) ※本ページは、回答者の語りや表記を大切にし、原文を基本として掲載しています ## 回答いただいたみなさま R.Sさん 聴覚障害(高度難聴) T.Tさん 発達障害(重度)(ご家族より回答) M.Tさん 精神障がい・統合失調症 A.Aさん 視覚障害(中途全盲) M.Kさん 身体障害(上肢・下肢・体幹不自由) Y.Iさん 発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD) Q4 誰かにサポートしてもらえたことで、安心したことはありましたか? 「はじめてのミュージアム」からは話が逸れてしまいますが、聞こえにくい人にとっては、チケット売り場等でのやり取りや何か説明を受けるときが一番緊張したり不安になったりします。“サポートしてもらう”ではなく、サポートの必要がない環境が整っていると安心します。例えば、説明は文字で分かりやすく書いてある等です。R.Sさん 親に抱っこされて入りましたがダメでした。T.Tさん 美術館のスタッフさんたち全員の傾聴が素晴らしく、不安な事がある時や頭の中がごちゃごちゃしているとき、きちんとお話をきいてもらえとても安心しました。また初めての場所だと緊張もするのでどうかしましたか?何かお困りですか?と優しく声がけして頂いたことで心がリラックスできた時もありました。M.Tさん やはり、初めての場所に1人で行くのは緊張しますし怖いので、アテンドいただけると安心します。また、家族や友人が必ずしもアートに興味があるわけではないので、誘うことに戸惑いを感じていましたが、鑑賞のパートナーやアテンドがあることで、気兼ねなく1人でミュージアムを訪問しやすかったです。A.Aさん 車椅子で文化施設全般に行くとき、たまに入り口に小さな段差や砂利などで動けなくなることがあります。その時に館のスタッフさんというより、周りにいたお客様に助けていただいたことがあります。大変ありがたいです。M.Kさん 誰かに、というよりも、美術作品そのものとの出会いが心のサポートになることが多いです。2024年に森美術館で開催された「ルイーズ・ブルジョワ展」は、社会的弱者であるマイノリティ側の自分たちの心を想像以上に強くさせるものでした。Y.Iさん Q5 もっとこうだったら、もっと楽しめるなと思ったことはありますか? こちらも「はじめてのミュージアム」からは話が逸れてしまう&聞こえにくい人だけの視点ではありませんが、先日訪れたスイスのチューリッヒにあるスイス国立博物館のように、デジタルの活用を工夫して多言語表示をしたり、情報量が多すぎない分かりやすい説明ができたりすれば、多様な人に楽しんでもらえると思います。R.Sさん 魚を鑑賞する場所だとしっかり理解した上で、入口から徐々に暗くなれば大丈夫だったかもしれないと思いま す。その後のことですが、次に行った八景島シーパラダイスでは問題なく入ることができました。大好きなサメの展示を求めて、アクアワールド茨城県大洗水族館、大阪の海遊館、沖縄美ら海水族館も満喫し、他の初めての水族館も楽しめるようになりました。説明を聞いても理解することが難しいので、その場所(ミュージアム)に着けば、マイペースで楽しむスタイルです。T.Tさん 美術館には、アートをみる目的の他に馴染みのスタッフさんに会いに行く楽しみもあります。馴染みの方がお休みでも、違う方とも気軽にお話しできたら嬉しいです。スタッフさん同士の対話を増やして頂き、来館者についてなど情報共有を強化してもらえるとより良いかなと。また合理的配慮を担当者だけでなくスタッフさんたち全員が学んでくださったら美術館や博物館は、より多様な人たちが気軽に集まり出会える優しい場所になるだろうし、今以上に面白い人たちと知りあえる場所になりそうだなと思っています。M.Tさん 触れる模型や音声ガイドなどのハード面でのサポートがあると確かに助かります。でも、それらによって得られる「アート作品を知る」ということだけでなく、対話やコミュニケーションを通して得ることのできる「鑑賞」そのものに焦点を当て、アート 鑑賞それ自体の楽しみを引き出して行けるシステムがあるとよいなと思います。私は対話型鑑賞を体験して、そのように考え るようになりました。A.Aさん 車椅子で文化施設全般に行くときは必ず多目的トイレの有無、エレベーターの有無、スロープの有無を調べます。その情報がしっかりネットに載ってない文化施設も多いので、しっかり情報を載せていただけるとありがたいです。あと、車椅子用駐車場を広く作っている文化施設はそれだけでうれしくなります。M.Kさん 単発的なアートイベントのみならず、普段の美術館、博物館でも、発達、精神障害当事者、生きづらさを感じる方向けのイベントが開催されること。Y.Iさん # NPO法人エイブル・アート・ジャパンによる、鑑賞支援の取り組み みんミのスタートから遡ること、24年。みんミにつながる鑑賞支援事業の歩みを紹介します。 わたしたちNPO法人エイブル・アート・ジャパン(以下、AAJ)が大切にしてきた芸術文化権への問いとアクションは、1995年に生まれた「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」のなか、1997年の公立美術館での大規模展覧会「魂の対話エイブル・アート'97・東京展」ですでに始まっていました。そこでは、障害のある人による作品を展示するばかりでなく、アートをすべての人にひらく試みが行われていました。子ども向けのギャラリーツアー、ワークショップ、車椅子ユーザーにもみやすい展示、視覚障害のある人への鑑賞ツアーの実施、立体作品をさわって鑑賞するプログラム、平面作品を立体印刷で伝える試み、音声ガイドの導入などの取り組みです。この活動で特徴的だったのは、「市民の力」で実現されていたこと。障害の有無にかかわらず、多くの方々がボランティアとして参画していました。みたい、知りたい、ワクワクしたい、あなたの感じ方も知りたい。こうした人間の欲求を、ここに集まる市民自らが、互いに受け止め、どうにかそれを実現しようとした市民活動であったことも、この活動の特筆すべき視点だと考えています。 この1997年の活動は、2年後の展覧会「このアートで元気になるエイブル・アート’99」につながり、同展を契機に2000年、みえない人・みえにくい人とみえる人の言葉による鑑賞グループ「ミュージアム・アクセス・グループMAR(ルビ:マー)」が始まりました。これは美術をみることからは遠い存在とされてきた、みえない・みえにくい人たちとともに「ミュージアム・アプローチ&リリーシング(Museum Approach & Releasing)」をコンセプトにした活動です。当時は珍しかった「言葉による鑑賞」の試みを全国の市民とわかち合い、その活動を全国の仲間とネットワーク化し、後に書籍『百聞は一見をしのぐ!?ー視覚に障害のある人との言葉による美術鑑賞ハンドブック』を制作しました。 その後、2008年にはミュージアム関係者、研究者(障害のある当事者や学生を含む)、デザイン分野の学生、市民グループ など、多様な立場の人たちとともに「みんなの美術館プロジェクト」が生まれました。このプロジェクトでは多様なユーザーの声を集め、ミュージアムアクセスに対するポジティブな提案をまとめた『みんなの美術館デザインノート』も制作し、アクセシビリティ向上の指針として広く普及しています。 さらに2011年には「きこえない人も美術を楽しむ権利がある」として、「美術と手話プロジェクト」をスタート。ギャラリートークや映像作品などにアクセスできなかった、きこえない人、手話通訳者、美術館関係者、このテーマに関心のある人らが集まって立ち上げた「美術と手話を考える会議」を起点とするものでした。 これらの活動は、じわじわと、しかし粘り強く継続され、ときに別のコミュニティが新しい活動を生み出し、ときに個人の優れた活動が書籍や映画となって社会に広がりをもたらしました。コロナ禍では、対面で集うことが難しくなる一方で、「オンライン」という新たな回路を通して、アクセシビリティを問い直す機会にもなりました。 こうして重ねられてきた問いと実践の延長線上に、2021年、「みんなでミュージアム」は生まれました。みんミの活動は、特別な「誰か」のための活動ではなく、ミュージアムを楽しめる社会を、市民とともにつくる試みです。過去の実践は、完成されたモデルではなく、次の一歩を考えるための土台でもあります。 本冊子で紹介してきた6つの視点や事例も、この歩みを前提に、プロジェクトメンバーで経験値やアイデアを持ち寄り、トライ&エラーで立ち上げてきたものです。そしてそれらは、ここで終わるものではありません。本冊子を手に取って読んでいただいた人それぞれの場所で、新たな実践へとつながっていくことを願っています。 ミュージアムをひらくのは、制度や建物だけではありません。そこに関わる一人ひとりの「まなざし」と「こころみ」だといえます。この小さな冊子が、その一歩のきっかけとなれば幸いです。 AAJがこれまで積み重ねてきた鑑賞支援の取り組みをご紹介します。 本書で紹介したみんなでミュージアムは、こうした歩みの延長線上にある取り組みです。 ## AAJが主体となって展開してきた鑑賞支援事業 1997年 特別プログラムとして視覚障害のある人向けのガイドツアーなどを実施 京都のみずのき寮の平面作品と千葉県立千葉盲学校の立体作品が展示された展覧会「魂の対話エイブル・アート'97・東京展」(主催:東京都美術館、日本障害者芸術文化協会、朝日新聞社、7月31日〜8月13日、会場:東京都美術館)において、のちにインクルーシブ・デザインの第一人者として知られるジュリア・カセムさんを監修者に迎え、視覚障害のある人を対象とする特別プログラムなどを実施。具体的には、ガイドツアーや、立体コピーやミューズプリントによる触図の制作、点字・拡大文字による解説などを設置した。また、知的障害や身体障害のある人も展覧会にアクセスしやすいよう工夫を施し、関連ワークショップも開催した。 1999年「目の見えない人と観るためのワークショップ―ふたりでみてはじめてわかること」実施 東京都美術館で開催した展覧会「このアートで元気になるエイブル・アート’99」(主催:東京都美術館、日本障害者芸術文化協会、朝日新聞社、2月16日〜3月22日、会場:東京都美術館)の関連プログラムとして実施。企画の中心メンバーのひとりとして全盲の白鳥建二さんが参加。以前から、美術館スタッフとともに言葉で作品を見る経験を重ねていた白鳥さんの経験を多くの人と共有するために企画した。この取り組みが、市民グループ「ミュージアム・アクセス・グループMAR」の活動へとつながる。これらの実践を契機に、東京都美術館において現在も継続されている「障害のある方のための特別鑑賞会」がスタート。AAJはその始まりから、東京都美術館が運営する2001年まで、全面的にサポートした。 2000〜2010年 市民グループ「ミュージアム・アクセス・グループMAR(ルビ:マー)」 1999年のワークショップを契機に発足。視覚に障害のある人とない人が、ともに言葉で美術を鑑賞する活動を各地で展開。人と美術を、人と美術館を、人と人とをもっと身近に、もっと解放していこうという意味であり、「誰のものでもある美術館をもっと楽しもう」という思いが込められていた。2005年に、『百聞は一見をしのぐ!?ー視覚に障害のある人との言葉による美術鑑賞ハンドブック』を発行。2008年、全国で同様の活動を行う団体関係者や学芸員、研究者らとともに、「視覚に障害のある人とのことばによる美術鑑賞会議」(主催:AAJ、富士ゼロックス端数倶楽部)を実施。 2008〜2012年みんなの美術館プロジェクト ミュージアム関係者、NPO、デザインや美術鑑賞の研究者が実行委員会をつくり、横浜市民ギャラリーあざみ野を拠点に、誰もが心地よく利用できるミュージアムをめざして活動。インクルーシブ・デザインの手法を用い、さまざまな立場の人とワークショップを重ねながら、ミュージアムの魅力と課題を探り、環境や仕組みのあり方を検討した。2012年には成果をまとめた『みんなの美術館デザインノート』を発行。(助成:花王・コミュニティミュージアム・プログラム2009〜2011/平成21〜23年度九州大学社会連携事業) 2011〜現在美術と手話プロジェクト 聴覚障害のある人のミュージアムへのアクセス向上をめざすプロジェクト。美術館における鑑賞プログラムの企画・実施を継続している。2020年には『聴覚に障害のある人たちの美術館へのアクセス向上をめざして―美術館関係者のみなさんへ―』を発行・公開。(助成:2011年度「ファイザープログラム~心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援」) 2020年 アクセスアートプログラム・オンライン ミュージアムなどの文化施設と障害のある子どもや大人、支援者をオンラインでつなぎ、文化芸術への新しいアクセスを探る事業を実施。コロナ禍という逆境を乗り越えて「いつでも、どこでも、誰でも」自由に豊かな鑑賞体験ができる環境づくりを目指した。同年、『オンラインアトリエ・レシピ集オンラインアトリエをひらいてみよう』を発行・公開。(助成:公益財団法人パブリックリソース財団コロナ給付金寄付プロジェクト「福祉・教育・子ども分野助成基金」) 2021年〜現在みんなでミュージアム これまでの鑑賞支援の実践を土台に、相談窓口、人材育成、ネットワーク形成などを柱とした中間支援の取り組みとして展開。(文化庁委託事業「障害者等による文化芸術活動推進事業」) ## 鑑賞支援の実装・展開 2017~2019年 日本財団DIVERSITY IN THE ARTSによる企画展にてラーニングプログラム企画・運営 「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(2017年10月13日〜31日、会場:スパイラルガーデン)、「ミュージアム・オブ・トゥギャザーサーカス」(2018年9月13日〜17日、会場:渋谷ヒカリエ8/COURT)、「LOVE LOVE LOVE LOVE展プレイベント」(2019年7月14日〜16日、会場:東京ミッドタウン)にて、より多くの鑑賞者にひらかれた展覧会を目指し、ラーニングプログラムを担当。さまざまな人がアートと出会う鑑賞企画「アクセス・アート・プログラム」の実施のほか、スタッフが常駐する「ウェルカム・ポイント」や、照明を落とした静かに過ごせる部屋「クワイエット・ルーム」、音声を通して作品を知ることのできる「オーディオ・ディスクリプション」、会場までのアクセスやウェブサイトの情報保障など、環境づくりに取り組んだ。 2019年〜現在 六本木アートナイト「インクルーシブ・アート・プログラム」企画運営 六本木アートナイト(主催:六本木アートナイト実行委員会ほか)の会場をめぐる現地ツアーを開催。2021年以降は、オンラインで作品を楽しむオンライン鑑賞会もあわせて実施。障害のある人の「ために」ではなく、障害のある人やさまざまな人と「ともに」活動することで、関わる人や参加者が協働して体験をわかち合い、それぞれが学びを得ることをめざす。 # みんなでミュージアムスタッフ プロジェクトメンバー 梅田亜由美(2021年度〜) 平澤咲(2024年度〜)※2021〜2023年度は事務局スタッフ 松島宏佑(2021年度〜) 事務局スタッフ(NPO法人エイブル・アート・ジャパン) 柴崎由美子(2021年度〜) 高橋梨佳(2022年度〜) 鹿島萌子(2024年度〜) 稲邉夏実(2025年度〜) ## これまでのみんミスタッフ プロジェクトメンバー 安曽潤子(2021年度) 太田好康(2021年度) 熊谷薫(2021年度) 戸塚愛美(2022〜2023年度) 事務局スタッフ 原衛典子(2021〜2025年度) 今野優紀(2021〜2024年度) 西田まや(2022〜2023年度) 水野拓哉(2023〜2024年度) 渡邊遥(2023〜2024年度) みんなでミュージアム https://minmi.ableart.org/ # 謝辞 本冊子は、NPO法人エイブル・アート・ジャパンが「みんなでミュージアム」プロジェクトを通して取り組んできた実践をもとに制作しました。本冊子の制作にあたり、多くのみなさまにご協力をいただきました。 インタビューや事例紹介にご協力くださったみなさま、日々の活動をともに支えてくださる関係者のみなさま、そして本プロジェクトに関わってくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます。 これからも、さまざまな立場の人とともに歩みを重ねていければ幸いです。 # 奥付 みんなでミュージアム―ミュージアムと障害のある人をつなぐハンドブック 2026年3月31日初版第1刷 [編著] NPO法人エイブル・アート・ジャパン [執筆] 梅田亜由美(pp.30–33、54–57、66–69、78–81) 鹿島萌子(pp.14–19、45–46、58–61) 柴崎由美子(pp.6–9、34–37、74–77、90–93) 高橋梨佳(pp.22–25、38–41、70–73) 原衛典子(pp.82–84) 平澤咲(pp.26–29、62–65) 松島宏佑(pp.42–44、82–84) [編集] 佐藤恵美、鹿島萌子 [デザイン] 渡邉竜也(渡邉デザイン) [イラスト] 平澤咲 [校正] 株式会社聚珍社 [印刷] 株式会社グラフィック [発行] NPO法人エイブル・アート・ジャパン 〒108-0074 東京都港区高輪2-15-24 三愛ビル竹館2階203号室 電話:03-6277-2802 メール:office@ableart.org [撮影] 井上幸子(pp.2上下、12–13) 越後谷出(p.70右) 大島彩(p.75) TOKYO TENDER TABLE(pp.2 中央、3下、4中央、5下、20上下、62、64、66、68) ナガセユウヤ(pp.3中央、36〈言葉や音の鑑賞プログラム〉、47、52下) 渡邊博一(p.70左) ほかすべて、みんなでミュージアム事務局 [写真提供] 愛媛県美術館(pp.54、57) NPO法人障がい児・者の学びを保障する会(p.58、pp.60–61) はじまりの美術館(pp.78–80) 文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」 いつでも、だれでも、どこへでも「ミュージアム・アクセス・センター」モデル普及事業 [主催]文化庁、NPO法人エイブル・アート・ジャパン [企画・制作]NPO法人エイブル・アート・ジャパン ©2026 NPO法人エイブル・アート・ジャパン 本冊子の無断転載・複製を禁じます。本冊子は無償配布物です。