ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【活動紹介】せんだいメディアテーク展覧会におけるパートナーとの実践報告〜聞こえない人との企画〜

  • 報告レポート

2023.02.22(水)

東北でのパートナーとの実践では、パートナーという存在が障害のある人とともに活動することで、障害のある人がミュージアムを身近に感じ、気軽にアクセスすることができる環境づくりに取り組んでいます。
今回は、その実践の現場として、宮城県仙台市の生涯学習施設「せんだいメディアテーク」における協働についての取り組みを報告します。

はじめに
せんだいメディアテーク(以下、メディアテーク)では、毎年1回、現代美術の企画展を実施しています。2022年度は、大阪を拠点に活動する二組のアーティスト、contact Gonzo(コンタクトゴンゾ)とdot architects(ドットアーキテクツ)による展示が企画・実施されました。その名も「定禅寺パターゴルフ???倶楽部!!展覧会〜協働と狂騒のダブルボギー(2打オーバー)」です。

展覧会の主旨は、「ままならない世界へようこそ!」
メディアテークの1階にあるオープンスペースに出現したのは、不思議なパターゴルフ場。障害の有無や年齢にかかわらず、遊びをとおして多様な人びとが交流できる場として開かれました。会場に設置された7つのホールは、凸凹があったり、風が吹いてボールを動かしてしまったりと、思うようにプレーできないものばかり。パターはダンボールでできていて、会場でつくることもできます。

撮影:越後谷出

撮影:越後谷出

メディアテークから、みんなでミュージアム(以下、みんミ)に相談があったのは2022年7月。「多様な市民を巻き込むために企画に協力してほしい」というものでした。そこで、みんミでは、多様な市民として「障害のある人たち」を想定し、4つの関連イベントの企画・運営、展覧会の広報活動のサポート、会場構成や運営の助言などで協力しました。

11月には、アーティストと対面し、カームダウンスペース(※)などの会場構成について意見交換をおこないました。
※感情やストレスが高まった時にもとの状態に戻るために、落ち着いて過ごせるスペース。
また、2023年1月11日の展覧会の初日におこなわれたアーティストによる「公開練習」に合わせて、会場の下見と体験会をおこないました。

ここから、みんミの事務局がどのように考え、活動したか。4つの関連イベントから、各企画のレポートを紹介していきます。


聞こえない人・聞こえる人がともに展覧会を楽しむ
ここでは、4つの関連イベントの一つ、聞こえない人・聞こえる人がともに展覧会を楽しむ企画「サイレントなゴルフ場!? 手話や筆談でプレーを楽しもう!!」について紹介します。

撮影:越後谷出

〜準備編〜
みんミ事務局は、ミュージアムと聞こえない人をつなぐパートナーとして、宮城県を中心に聞こえない子どもたちとスポーツを楽しむ活動をしている「みやぎデフキッズクラブ(以下、デフキッズ)」に協力を呼びかけ、一緒に企画を進めてきました。

2022年11月、デフキッズのスタッフ3人(ろう者1人、手話通訳者2人)と、みんミ事務局のスタッフ2人で顔合わせと打ち合わせをおこない、メディアテークの展覧会の趣旨について共有し、イベントの内容や広報の方法、参加者の定員などについて話し合いました。

その中で、聞こえない人と聞こえる人がまざるグループをつくってプレーをするときに、各グループに手話通訳者を入れるかどうかが話題に上りました。

デフキッズのスタッフからは、「手話通訳者がいるとその人に頼ってしまう。手話通訳者がいないほうが、グループのメンバーどうしで積極的にコミュニケーションをとろうとするのではないか」、「聞こえない子どもたちが社会に出たときに、手話を知らない人もふくめ、さまざまな人に出会う。手話通訳者を介さない場が大事」という意見があり、手話通訳者をつけないことにしました。

2023年1月11日の展覧会初日、アーティストによる公開練習のイベントに合わせて、デフキッズのメンバー2人と下見に参加しました。アーティストと一緒にプレーをしながら、アイデアを出していきます。

イベント当日までにもう一度下見をおこなって話し合った結果、イベントのテーマを「サイレント」にすることに。手話や筆談、身振り手振りなど、音のない世界でのコミュニケーションを通じて、聞こえない人・聞こえにくい人・聞こえる人がともに楽しめる工夫を考えていきました。

〜当日編〜
当日は、デフキッズ代表の渡辺さんをふくむ6人の聞こえない人と、20人の聞こえる人が集まり、4〜5人の6つのグループにわかれて、プレーをおこないました。参加者には、聞こえない大人、聞こえない子ども、聞こえる大人、聞こえる子ども、コーダ(聞こえない親がいる聞こえる子ども)のきょうだいなど、さまざまな背景をもつ人がいました。できるだけ知らない人同士が一緒のグループになるよう、事前にデフキッズのスタッフとみんミ事務局でグループ分けを考えました。

イベントのはじめに、展覧会を担当したメディアテーク学芸員の薄井さんから展覧会の趣旨や見どころについてお話があったあと、デフキッズ代表の渡辺さんからイベントの流れやルールについての説明がありました。
また、プレー中に使える簡単な4つの手話(拍手・うまい・ナイス・惜しい)を紹介し、みんなでやってみるなかで、知らない人同士の場も少しずつあたたまっていきます。

撮影:越後谷出

それぞれが使うパターを選んだら、グループごとに自己紹介をしてスタート。イベントの冒頭に紹介した簡単な手話や、事前に用意しておいた「うまい」「ナイス」など書かれたサインを使って、コミュニケーションをとりながら、約1時間半をかけて7つのホールをまわります。

撮影:越後谷出

撮影:越後谷出

どのグループも最初は初めて出会う人を前に緊張している様子でしたが、それぞれのグループでコミュニケーションの方法を探りながら、次第に距離を縮めていく様子がうかがえました。

また、「聞こえない人」と一言でいっても、使う言語やコミュニケーションの方法は人それぞれです。今回のテーマは「サイレント」でしたが、声を出して話す聞こえない子どももいたり、プレーに熱中するとだれでも自然に声が出てしまったりするので、楽しみ方はそれぞれのグループにゆだねることを大事にしました。

イベント後に参加者から感想を聞いてみると、一緒にプレーをしたメンバーのなかで、誰が聞こえない人か気づかなかったという人も。また、聞こえない人に出会ったときに、面と向かって話そうとすると身構えてしまうところも、遊びを通してだからこそ、自然にコミュニケーションがとれたり、ともに時間を過ごしたりすることができたという感想もありました。子どもたちからは、変わったコースに苦戦しながらも、プレーを楽しんだことがうかがえました。また、このイベントをきっかけに手話を学び始めた参加者もいたそうです。

撮影:越後谷出

撮影:越後谷出

メディアテークのような生涯学習施設やミュージアムがさまざまな人に開かれていくには、ミュージアムと、ミュージアムに行きづらいと感じている人をつなぐパートナーの存在が欠かせません。今回の企画は、デフキッズのスタッフとみんミ事務局が協働することで実現しました。この実践が、今回の展覧会に留まらず、次の協働へとつながっていく仕組みも考えたいと思います。

〜その他の当日のエピソード〜
会場を見守るスタッフも、筆談や身振り手振りなどで、聞こえない子どもたちと積極的にコミュニケーションをとっていました。

撮影:越後谷出

イベントの最初と最後に参加者全員が集まって話す時間は、全体に向けて手話通訳をつけたほか、参加者の希望によってノートテイクをおこないました。

撮影:越後谷出

〜参加者の声(展覧会のアンケートより)〜
・ふつうのゴルフにはないものがたくさんあり楽しかったです。
・手話を知らないので、はじめは少し緊張しましたが、プレーが始まると、楽しさの方が勝ってしまい、気付いたら手話を使わなくてもコミュニケーションがとれていて、自然と距離も縮まっていました。
・なかなか聴覚障害のある方と交流することもないので、良い経験でした。息子もおとなしい方なのですがプレーを通じて楽しめ、身振り手振りで交流できて素敵な体験ができたと思います。
・同じチームにシニアの方もいましたが、ハードルを全く感じることもなく、喜んだり悲しんだり、応援しあう時間がとても貴重だと感じました。

〜広報の課題と改善点〜
当日は、デフキッズ代表の渡辺さんをのぞき、聞こえない人が5人集まりましたが、実際には、2022年12月から参加者の募集を開始したものの、イベントの一週間ほど前まで聞こえない人の申し込みが無く、企画が成り立たなくなる可能性もありました。

展覧会が始まるまでどのような作品が出来上がってくるかわからないため、聞こえない人に向けて展覧会の趣旨や関連イベントの魅力を伝える難しさを実感しました。

今回は、展覧会がオープンして間も無く実施した下見で会場風景の写真や動画を撮り、撮った写真や動画と一緒にSNSを通じて広報したり、デフキッズのスタッフの知り合いに直接声をかけたりしたことで、聞こえない人からの申し込みがありました。

今後は、展覧会の初日からイベントの実施日まで時間を空けるなどの改善点も確認できました。

レポート:高橋梨佳(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー/エイブル・アート・ジャパン)