ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

目次:活動の記録

ヒアリング調査レポート3[障害当事者編]前編

  • 調査レポート

2023.02.16(木)

ミュージアムによく訪れる8名の方々へのヒアリングのレポート。中村美由紀さん、綾屋紗月さん、谷村虎之介さん、ウルシマトモコさん、浅野春香さん、Seiyamizuさん、森 豊和さん、井谷優太さんにお聞きした内容をまとめています。
後編: https://minmi.ableart.org/activity/report_interview3_2/2023/ ‎

プロフィール

中村美由紀[なかむら・みゆき]
滋賀県在住。京都造形芸術大学卒業。耳が聞こえないことをきっかけに大学在学中にコミュニケーションをテーマに制作を行う。このテーマを生涯の課題としながら、趣味の旅行や日常生活で関わる人とのコミュニケーションを通して「生きやすい方法は何か」を模索。社会の反応や変化につなげたいという思いのもと、作品制作などのアクションを続ける。

綾屋紗月[あやや・さつき]
自閉スペクトラム者。東京大学先端科学技術研究センター特任講師。精神障害や発達障害など、外側からは見えにくい症状を内側から記述し、仲間と共に自らのメカニズムを探る「当事者研究」を行う。発達障害者にとって居心地の良いコミュニケーションスタイルは何かを模索している。https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/people/staff-ayaya_satsuki.html

谷村虎之介[たにむら・とらのすけ]
1998年生まれ。幼少期より水族館や歌舞伎に親しみ、工作や絵を描くことを楽しむ。2011年より3年間地元のアトリエに通い、以降自宅で制作。2015年より「エイブルアート芸術大学」に参加。2017年エイブル・アート・アワード受賞。両親とともに美術館を鑑賞。本稿の回答は両親による。
https://instagram.com/toranosuke_tanimura
https://www.facebook.com/StudioTora1998

ウルシマトモコ
1977年生まれ、東京都在住。3歳から造形教室に通い、絵画や工作が好きに。2012年より「エイブルアート芸術大学」に所属し、創作を通じてコミュニケーションを楽しむ。さまざまな公募展に出品。美術館には3〜4ヶ月に1回程度訪れる。
https://ableartcom.jp/urushima-tomoko/

浅野春香[あさの・はるか]
1985年、宮城県生まれ、在住。20歳のときに統合失調症を発症。29歳から本格的に絵の制作を始める。2021年「Art to  You! 東北障がい者芸術全国公募展」にて大賞・内閣総理大臣賞を受賞。ほか公募展にて多数受賞。美術館には月に1〜2回ほど訪れる。
http://paralymart.or.jp/artists/details/?id=0000000000049

Seiyamizu[セイヤミズ]
1987年生まれ、埼玉県在住。中学2年時より作品制作をスタート。主な展覧会に個展「Inspire Art Gallery」(2021年、Cosme Kitchen 代官山店)など。公募展にて受賞多数。描くのが早く、短時間で多くの作品を制作。展覧会に訪れるのは月2~3回ほど。好きなミュージアムは目黒寄生虫館。
https://seiyamizu.myportfolio.com/

豊和[もり・とよかず]
1984年生まれ、岐阜県在住。幼い頃から絵を描いていたが、2009年頃、描きなぐった作品を知人がみて「おもしろい」と言ってくれたことから、日々作品を制作し始める。美術館に訪れる回数は、多いときは月1回。人に誘われていくことが多い。
https://ableartcom.jp/mori-toyokazu/

井谷優太[いたに・ゆうた]
音楽制作やライブ活動を行うサウンドクリエイター。鳥取を拠点に活動。身体障害があり車いすを利用する。「東京2020パラリンピック」開会式ではパフォーマーとして出演したほか2022年にパリで開催したファッションショー「WFR(Wheelchair Fashion Row Project)」では総合音楽プロデュースを担当。
https://www.yutaitani.com/

A 美術鑑賞での課題や現状について教えてください。また困っていることをどのように解決していますか。

 
[美術館へ行くまでの情報収集]

・見に行きたい展示は、虎之介が美術館に置いてあるチラシや新聞の広告から選ぶこともありますが、私たち両親が選ぶことも多いです。歌舞伎などはよく行くので、いつか一人で行かせてみたいですね。自ら好きなことを続けていける方法を探したいと思っています。(谷村)

電車の吊り革広告や知人のすすめ、知り合いの展示を見に行きます。自分で調べることはあまりありません。展覧会情報は自分で検索するには情報量が多すぎて困るので、AIで自分におすすめの展示を提示してもらえると良いですね。(ウルシマ)

・美術館に行きたいときは、宮城県のテレビで展覧会のCMを見て情報収集しています。友人の紹介で誘われて行くこともあります。SNSは活用しています。(浅野)

・美術館情報で重宝しているのは、『美術手帖』のFacebookアカウントです。私は毎日Facebookを閲覧しているので、そこから自分好みの情報が入ってきます。それからチラシミュージアムというスマホのアプリを活用しています。(Seiyamizu)

・知らない作家の展示だとしても、友人に誘われると行っています。自分では知らないものを調べることが苦手です。(森)

・私はまずはインターネットで調べて、詳しく書いていない場合は電話で聞いたりもします。展示期間の前に事前に足を運んで下見することもありました。車いすでの鑑賞が難しそうな場合も、スタッフとのコミュニケーションを楽しむようにしています。(井谷)

[鑑賞における困った経験・課題など]

美術館窓口でのチケット購入が困難に感じます。特に入館前の事前説明がある場合は、筆談をお願いしますが、混んでいるときはお願いしにくい。バリアフリー窓口があったらいいなと思いますね。チケットの事前購入が楽ですが、オンラインでは障害者割引が対応していない場合もあります。チケットが事前購入でき、説明事項は配布資料等で視覚情報があれば、入館時の負担が少なくなると思います。(中村)

音を使った作品は、イヤホンやヘッドフォンの音量と音の振動で感じ取っています。スピーカーの近くで音源の振動を感じ取れることもあります。ただ、もちろん十分には鑑賞できません。表現の意図との折り合いが難しいと思いますが、音の作品も楽しむことができるといいなと思います。(中村)

・美術館には一人で行くこともありますし、友人と行くこともあります。手話ができる友人ばかりではないので、スマホで文字を打ち込んで会話をしています。ただ、撮影禁止の美術館では、監視員の視線を感じるので、スマホは使いづらいです。(中村)

・発達障害者の一部には社会的コミュニケーションの障害があると言われていますが、そうしたすれ違いの手前に「情報の受け取りにくさ」を抱えていることがあります。「見えているし、聞こえているけれど、意味が受け取れない」という経験を持つ仲間は少なくありません。例えば私の場合は、広めの室内で生じる反響音を多く受け取ってしまい、話の内容を把握しづらいです。また、相手が話す事実より、相手の感情を受け取ってしまうという人もいます。文字レベル、言葉レベル、人間関係や環境など、どんな場面でどんな情報を受け取りにくいのかは、人それぞれ違います。発達障害とされる人々に関する知識をある程度は持ちつつも、先入観を持たず、一人ひとりに適した情報の受け取り方を本人と一緒に探っていくことが望まれます。(綾屋)

・私には外部からの情報に乗っ取られやすいという特徴があります。舞台や小説、絵画、音楽など、他者の芸術表現を視聴した場合は、それらの具体的な記憶や、作者や演者の意図などが頭の中に1週間ぐらいとどまり続け、本来の自分の思考やふるまいを見失って苦しむ感覚に陥りやすいです。そのダメージはかなり大きいので、あえてインプットを避けることが多いです。(綾屋)

・美術館には家族で行きますが、館内ではそれぞれのペースで鑑賞しています。虎之介は、好きな作品の前では立ち止まるなど、比較的ゆっくり鑑賞していますが、混雑時にはそれが心配になることもあります。周囲の鑑賞の流れにのれないので、声をかけたりしますが、「混んでいるから、あとでまた見に来よう」という状況判断が難しく感じています。時間がかかるので、早めに行って何度も作品の前に並びなおすこともありました。(谷村)

・美術館にはいつも1〜2人で行っています。おもに電車とバスを使い、片道2時間以内の距離のところに行きます。地方の美術館に出かけたときに、バスで障害者手帳を出すと運転手さんに「え!」と驚く反応をされたことが、これまでに数回あり、都市部と比較すると障害者に対する対応に慣れていない印象を受けることがあります。(ウルシマ)

初めての人との交流が負担なので、鑑賞プログラムなどはほとんど参加したことはありません。自分で好きなものをゆっくり見るのが好きですね。それから周りにたくさん人がいる状況が苦手です。特に並んで見るような展示は、行きたくても諦めています。(ウルシマ)

・長い文章を理解するのが苦手なため、キャプションやパネルの解説文を読み込むのが難しいと感じます。A5サイズほどのリーフレットを配布していた美術館があり、持ち帰って自宅でも読み返せるので嬉しいと思いました。子ども向けの内容だったのですが、大人にとっても分かりやすくてとても良かったです。(ウルシマ)

・困っていることは、展示室にいる監視員の視線が気になって緊張してしまうことです。これまで直接何かを言われたことはありませんが、自身の言動や行動が人とは少し違うという自覚があるので、監視員も自分のことを注意して見ているように感じてしまうのです。それから作品を壊さないかと緊張してしまいます。自分の荷物が作品に当たらないか、歩いている拍子に間違って絵に触ってしまわないかと。(浅野)

目が悪いため遠くだとよく見えないので、作品に近づいたときに注意を受けたことはあります。ガラスケースのない作品だったので、近づいても大丈夫だと思ったのですが、やはり近づいてはいけないものなのか、と思いました。分かりやすく示してもらえたらいいなと思います。(森)

・美術館の作品やキャプションは、立っている人の目線に合わせて置いてあるので、見えにくいことも多く、作品を十分に楽しむことができないときは残念に思います。現実的に難しいでしょうが、自由に作品の高さを動かせるようになると理想です。また、裏口だけがバリアフリー対応の場合もあり、「みんなと同じルートで鑑賞したいな」と思うことがあります。(井谷)

[問題解決のための工夫・希望・良かった経験など]

・美術館に問い合わせをしたいとき、リアルタイムでの問い合わせは電話しか選択肢がない場合が多いので、ウェブにチャットで質問できる機能があったらいいですね。(中村)

・手話付きのツアーではなく、自分のペースで鑑賞できる音声ガイドを使えたらいいなと思います。映画館で使われているバリアフリー用の字幕眼鏡やディズニーランドで使われているディズニーハンディガイドなどを参考に、すでにある例を美術館に応用して使うことができたら面白そうです。(中村)

・アクセスについては、Googleストリートビューがとても助けになっています。一度、目的地までの道順の景色を見ておくことで、周囲の環境が記憶に残り、実際の道を歩いているときも不安を感じずに済みます。(綾屋)

・国立新美術館で行われていた障害のある人を対象にした「特別鑑賞会」(※)に参加して、本人の鑑賞方法が変化しました。それまでは、さーっと作品を流し見することが多かったですが、環境によってゆっくり見られることを覚えたようです。特別鑑賞会は、親としてもゆっくり見られることは快適ですし、嬉しいですね。(谷村)

※美術館の休館日や閉館後などを利用し、落ち着いた館内でゆっくりと気兼ねなく鑑賞ができる企画。来場人数を制限し、スタッフが会場内の誘導や必要に応じたサポートも行う。

・虎之介が幼いとき、ある美術館で便座の作品を触ってしまったことがありました。そのとき、触ってしまった彼を叱りましたが、その様子をみたスタッフが「美術館を嫌いになってはいけないから、怒らないであげてください」と対応してくれました。この経験があることで、今も変わらずに鑑賞を続けられていると思います。(谷村)

混雑が苦手なため、人混みがない朝一の時間帯を選んで行くことが多いです。(ウルシマ)

美術館のスタッフに障害に対する勉強会をしてもらえると良いなと思います。それから、馴染みの店のように、美術館のスタッフと交流ができる機会があると、互いの特性を理解したうえで利用できるので、安心感を得られるかもしれません。(ウルシマ)

・これまでの経験だと、クワイエットアワーやクワイエットルームを設けていた「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」展(スパイラルガーデン、2017年)はとても良かったです。また、休憩室があるとすごく楽です。静かな個室に座るとリフレッシュできると思います。(ウルシマ)

・展覧会を見ていると、2〜3時間で疲れてくるので、美術館に横になれるスペースがあると良いなと思います。静かな空間で横になれるソファのような設備が理想ですね。少し休んで回復したら鑑賞に戻ることができます。(浅野)

・宮城県立美術館の創作室をよく利用しますが、そこで絵を描いていると、スタッフが画材の使い方や絵のアドバイスもしてくれます。作品鑑賞の際も同じように対応してくれるスタッフがいます。(浅野)

・私は周囲の音をたくさん吸収してしまう特性があります。そのため、展覧会の会場では雑音が入ってきて気になるため、美術館の入口で耳栓を配布してもらえたらいいなと思うことがあります。特別鑑賞会を設けているミュージアムもありますが、リラックスして展覧会を楽しめるのでそのサービスが定着したら良いなと思います。(Seiyamizu)

・ミュージアムでは、ショップが好きです。作品は触ることができませんが、画集やグッズは触ることもできます。(森)

令和3年度 障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)
「〜いつでも、だれでも、どこへでも〜『ミュージアム・アクセス・センター』設立事業」
ヒアリング調査より構成[2021年/オンライン(Zoom)]

聞き手:みんなでミュージアム プロジェクトメンバー、エイブル・アート・ジャパン
構成:佐藤恵美

※2021年に活動をスタートした「みんなでミュージアム(愛称:みんミ)」は、「人」と「システム」に焦点を当てた2つのワーキンググループを立ち上げ、ヒアリングとインタビューを行いました。これは、調査のなかから、障害当事者や鑑賞の支援者に向けたヒアリングの内容を、編集して紹介するレポートシリーズです。