【レポート】第11回オンラインプログラム「みんミの“わ”」
- みんミの“わ”
- 報告レポート
2024.10.23(水)
みんなでミュージアム(以下:みんミ)がおこなう「みんミの“わ”」は、さまざまな立場や地域の人がオンライン上に集い、ミュージアムアクセスに関する学びと交流の場を目指して継続的に開催しているプログラムです。
2024年度3回目となる11回目は、京都市京セラ美術館事業企画推進室 ラーニング担当の藤田龍平(ふじた・りゅうへい)さんをゲストにお招きし、ラーニング・プログラム「談話室『ぽよよんタイム』」の取り組みをご紹介いただきました。

みんミの”わ”第11回
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談話室に集合!いろいろな人と美術館の楽しみ方を考える試み〜京都市京セラ美術館の「ぽよよんタイム」の事例から~
2024年9月1日(日)14:00〜16:00 オンライン(zoom)開催
申込者数:26名
〈情報保障支援〉
手話通訳:石川阿、丸山垂穂
文字通訳:チームW・研修センター
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0.はじめに
京都市京セラ美術館(京都市美術館)は、1933年に大礼記念京都美術館という名で開館した、90年以上の歴史をもつ公立美術館です。2020年にリニューアルオープンしました。
藤田さんは美術館のひとであると同時に、アーティストとしても活動しています。たとえば、鴨川のほとりで開催される移動型展覧会。自転車の後ろに間口が90cm四方、奥行きが45cmの箱を載せた《公共美術館》と呼ばれる作品装置で、戸外で展覧会をするユニークなプロジェクトです。さらに、畑での休憩用につくった作品《畑の小屋》は、地域の催しの際には即席の観客参加型劇場として機能しているそうです。
そんな藤田さんが企画運営してきた京都市京セラ美術館の「談話室」、そして「ぽよよんタイム」とはどんなプログラムなのでしょうか?
お話は2部構成で行われました。前半では、談話室とぽよよんタイムのはじまりや、そこに集まった人々について紹介されました。後半では、談話室での出会いから生まれたプログラムについて語られました。
*アーティストとしての藤田さんの活動は、下記ウェブサイトをご覧ください。
https://www.ryuhei-fujita.net/
1.はじまりとそこに集う人々。
京都市京セラ美術館はリニューアルを機に、「教育普及」から「ラーニング・プログラム」へと名称を変更・再編しました。ここでの理念は、「『教える』から『学び合い』へ」。多様な価値観を学び合う場を目指し、藤田さんは、ラーニング・キュレーターの富塚絵美さんとともに、自分たちが学び合いのサポーター、ファシリテーターに留まるのではなく、自分たちが一番に学ぶひと、つまり「学び合いの当事者」となることを決めたそうです。
その理念を体現する拠点として設けられたのが、学び合いの場を提供する「談話室」です。室内には、形や高さが異なり自由に動かせる椅子や、小さな子ども連れの方でもくつろげるラグマットが設置されています。また、美術館を代表するコレクション作品を通じて、多様な学びをサポートするラーニング・ツールも揃っています。たとえば、「名画との縁結びシート」や「気のまま鑑賞かるた」と呼ばれるワークシートが配布され、ワークシートの回答を綴ることができる「ほんまかファイル」も設置されています。これにより他の来館者の意見を共有することができ、小学生が書いたワークシートの回答から学芸員が新たな発想を得ることもある、というような興味深いエピソードも紹介されました。
さらに、アクセシビリティにも配慮されています。触地図や筆談ボードが用意されているだけでなく、手話や字幕をつけた動画を提供するなど、多くの方々にとって美術館がよりアクセスしやすい場所になるよう努められているようです。動画に手話や字幕をつけたことで、音声が聞こえる自分たちにも動画の内容が伝わりやすくなったという発見もあった、と藤田さんは語ります。
そんな談話室をより魅力的にしているのが、本日の主役・ぽよよんタイムです。2021年6月からオープンな交流プログラムとして始まったぽよよんタイムは、現在では手話通訳を常に配置し、多様な参加者が気軽に集まれるような環境をつくっているとのこと。美術館に訪れた人々が自由にスタッフと対話し、意見交換や新しいアイデアを共有する場として機能しているため、談話室では、美術愛好家や美大生、美術館関係者だけでなく、文化事業に興味がある一般の学生や親子連れなど、多様なひとが訪れ、参加者として集まり、活発な交流が生まれているようです。
このように、京都市京セラ美術館では、リニューアルを契機に、新しい形の学びや交流を提供する場として進化しています。そして、より多くの方々に美術館を楽しんでいただけるよう、さまざまなプログラムを展開しています。会の後半では、それらプログラムについて紹介いただきました。
2. 学びあいからの展開
休憩をはさみ、後半は、談話室での交流を機に生まれたプログラムをいくつかご紹介いただきました。ここでは印象的だった2つのプログラムを紹介します。
1つは、付き合いのある京都聴覚言語障害者福祉協会からの依頼で企画された、難聴の未就学児 0歳から6歳の子どもとその親子向けの鑑賞プログラムです。「美術鑑賞は子どもには難しい」という壁を打ち破る企画です。ここでは、二言だけで魅力を表すワークシートを作成し、子どもに書いてもらいます。工夫したのは、大人の介入を最小限にすること。子どもが自由に作品を選び、自分なりの感想を書き込むプログラムとして実施されました。
もう1つのプログラムは「ぽよよんDAYS」です。これは、大人も子どもも学べる2日間の特別プログラムで、テーマは「空白」。ぽよよんタイムで談話室の取り組みに対して出た「美術館に空白を作るのが面白いですね」というコメントから、展覧会の際、来館者は展示品で満たされた美術館しか知らないことに気づかされた、と言います。「空白を守って 何かが表現されることを待っているのが美術館の本質のひとつ」と藤田さんは言います。「美術館の空白の空間っていうものを味わっているのは 展覧会をやる作家とか展覧会を作る学芸員とか、展覧会をつくる側の人間しか知らない。一般の人にとっては誰かが飾った後の空間を見る機会しかない。それはフェアじゃない」と思い、いくつかの企画が生まれたという。何もない展示室を使い、空白を一緒に味わって何かを一緒に考えるワークショップや、空白の美術館の間取りを自分ならどう使うかを考えるワークショップ、子どもたちが自身の作品を持ち寄って展覧会を作るワークショップなどを実施し、美術館が誰にとっても開かれた、自由で創造的な場所となるとともに、子どもたちの創造力が引き出されていった様子が紹介されました。
そのほか、美術館スタッフ、視覚障害者、ろう者、手話通訳者、大学生が入り混じった鑑賞プログラム「対話型美術鑑賞・まなざしを分かち合う」や、美大生や文化事業に関心がある大学生など、主体的に美術館の活動に関わることを目指す人たちが集まる「美術部」が紹介されました。いずれも「大人向け」「子ども向け」「目の見えないひと向け」「耳の聞こえないひと向け」といった枠・壁を軽やかに飛びこえ、誰にとっても面白いと思わせるプログラムを作り上げており、その基盤には、ぽよよんタイムを通じてできた確固たるつながり・関係性があることが印象的でした。
藤田さんのお話のあと、いつも通りブレイクアウトルームに分かれ、参加者は感じたことや考えたことを自由に話し合いました。そのなかでは、ぽよよんタイムに参加する障害のある人々のことや、広報の方法、手話通訳者の手配のこと、さらには藤田さんのような積極的に活動する美術館スタッフの存在の重要性などが話されました。
3.おわりに
藤田さん曰く、「ぽよよん」という言葉は、リニューアルを担当した建築家であり、京都市京セラ美術館の館長でもある青木淳氏が、建築に対して提唱された「ぼよよん」から派生したとのことです。建築はきっちり、かっちりした固いイメージではなく、柔軟性をもつ「ぼよよん」くらいがいいという青木さんに対し、藤田さんと富塚さんは、「人と人の交流の場合はぼよよんだと硬すぎるな」と思ったとのこと。もう少し柔らかさをもって「ぽよよん」とした、とのこと。
しかし、「ぽよよん」への思いはそれだけではありません。藤田さんは言います。「ぽよよんは柔らかすぎて混ざることはない。液体ではなく、個体。」「一旦相手の形を受け止め振動し形を変えてみるが、最後はひとりずつ、ひとりの人間として家に帰りましょう、そういうコミュニケーションのあり方のイメージです」
当事者として関わることの重要性、第三者にならないことから生まれるつながりが、様々な展開を生むことにつながることを教えてもらった時間となりました。
レポート:みんなでミュージアム事務局スタッフ