第13回オンラインプログラム「みんミの“わ”」
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2026.02.17(火)
みんなでミュージアム(以下:みんミ)がおこなう「みんミの“わ”」は、さまざまな立場や地域の人がオンライン上に集い、ミュージアムアクセスに関する学びと交流の場を目指して継続的に開催しているプログラムです。
2025年度の第1回目(通算13回目)のみんミの”わ”は、東京・八王子を拠点とする2つの市民団体、主に発達・精神・知的障害のある成人を中心としたコミュニティ「かてコト」、聴覚障害のある子どもとその家族向けの企画に取り組む「ほっとりんく」の活動を紹介しました。当日は、「かてコト」「ほっとりんく」それぞれの主宰である平澤咲(ひらさわ・さき)さん、石川阿(いしかわ・ほとり)さんをゲストにお招きし、ミュージアムに行くときの工夫や、活動する中で見えてきたことなどについてお話しいただきました。
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家族や仲間と行ってみた!地域コミュニティーのミュージアム体験~障害のある人と楽しむ工夫から
2025年9月15日(月曜日・祝日)14:00~16:00 オンライン(Zoom)開催
申込者数:28名
〈情報保障支援〉
手話通訳:丸山垂穂、村山はるか
文字通訳:チームW・研修センター
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0.はじめに
「かてコト」は、主に八王子で暮らす人を対象に、年齢や立場、障害にかかわらず集うコミュニティです。余暇を楽しむイベントを開催したり、月に1回、アーティストがキッチンに立つ「アーティスト イン キッチン」などを開催しています。
「ほっとりんく」は、聞こえない人、聞こえにくい人と、その家族や支援者を中心としたコミュニティです。ミュージアムなどでの体験活動をはじめ、オンラインを活用し、全国に向けて保護者向けの勉強会の実施や、情報交換、相談の場を提供しています。
昨年度(2024年度)には、八王子を拠点に活動するほっとリンクからみんミに相談があり、同じく八王子で活動していたかてコトと協働し、八王子市夢美術館で開催していた「かがくいひろしの世界展」を楽しむ企画を開催しました。
聴覚障害のある子どもとその家族、知的障害、自閉症、精神障害のある人、活動に関心のある人など、合計20名が参加しました。手話や写真、イラストなどを使いながら展覧会を楽しむ中で、参加者の障害の種類や年齢もそれぞれ異なりましたが、「視覚的に分かりやすい情報提示の仕方が心地いい人たち」だったこともあり、活動を通じて通じ合う場面もありました。
1. 活動紹介① <かてコト〜福祉と遊びから生まれるローカルな生活と文化の活動〜>
こうした背景を踏まえて、今回のみんミの”わ”では、障害のある人とともに活動する市民団体の活動や、ミュージアム体験についてより深く知る機会をつくりたいと思い、企画しました。そこで、当日は、かてコトの平澤さん、ほっとりんくの石川さんの順で、それぞれの活動について詳しくお話しいただきました。
・活動のきっかけ
平澤さんは、みんなでミュージアムのプロジェクトメンバーであり、普段は八王子を主な拠点とし、福祉事業所のスタッフとして日常的なケアや創作活動のサポートに関わっています。
準備期間を経て2024年にはじまったかてコト。「福祉と遊びから生まれるローカルな生活と文化の活動」をテーマに、家や学校、職場や事業所のほかに、身近な場所で集まって、年齢や障害、立場にかかわらず、地域に生きる人がともに学んだり楽しんだりする時間をつくっています。

「かてコト」という名前の「かて」には、「糧=食糧、精神や生活を力付けるもの」という意味に加えて、八王子の郷土料理「かてめし」(まぜめし)から、「かてかてネットワーク」など八王子の福祉の現場でよく使われてきた言葉の2つの意味があります。
八王子の人口は57万9355人で、東京都で8番目に人口の多い地域。面積も大きく、都心に通勤・通学する人たちのベッドタウンにもなっています。
生まれ育った八王子で平澤さんが活動をはじめたきっかけは、スタッフとして所属する福祉事業所を利用する知的障害や発達障害のあるメンバーからの声でした。
たとえば「ルービックキューブを習いたいんだ」「お母さんに卵焼きを作りたい。どうしたらいいかな」といった、一人ひとりの「やってみたい」を、「どこで、だれと、どうやってかなえるか」考えてみたいと思ったそうです。
・地域の人たちの「やってみたい」からはじまる企画
「やってみたい」の実現に向けて大切にしてきたことは、「個人の好きなことや得意なことが、自分だけではなくて、他人やみんなの糧にもつながったら素敵だな」という想いだといいます。
活動は月に1回程度です。企画は、福祉事業所のメンバーやそのご家族、地域に住むデザイナーやご近所さんなど、いろいろな人が集まって、やってみたいことを付箋に書き出すところからはじまります。これまで自然観察会、ピクニック、ダンスの会など、学び合いながらさまざまな企画がおこなわれてきました。

そのほかに、障害のある人が暮らすグループホームの1階でおこなう「アーティスト イン キッチン」は、アーティストという肩書きで活動している人だけでなく、福祉事業所のメンバーや八王子市の文化財団のスタッフなど、さまざまな人がアーティストとなり、キッチンでつくりたい料理をつくる企画です。パレスチナについて知りたいという声から、中東などの家庭料理であるフムスをつくる会もありました。
・かてコトのミュージアム体験について
活動のなかで、ミュージアムにも出かけてきました。
障害のある人のアトリエ講師をしている人の発案で、「コロナ禍以降あまりミュージアムに行くことができていないな、いつものアトリエのメンバーとミュージアムに行ってみたいな」という想いから、都心にあるギャラリーへ。当日は、アトリエのメンバーやそのご家族、グループホームの職員などが参加しました。

事前の準備で少し戸惑ったのは、チケットを購入するときに、障害者手帳の割引の有無がわかりづらかったことや、当日の受付でも割引の対応に慣れていないことなどがありました。
休日はたくさんの人であふれていたそうですが、展示室に入る前に、平澤さんが展示の見どころをスケッチブックに描いてきたものをみんなに共有したことで、展示室ではそれぞれのペースで見ることができたといった工夫もお話しいただきました。

*展覧会の見どころを描いたスケッチブック
また、別のミュージアムでは、体験型の展示を楽しめた一方で、触れてはいけない彫刻展示に触ることを禁止するマークがなかったため、注意の促し方が難しかったという話もありました。
一緒に行くメンバーのなかには、初めて美術館に行くという人もいます。その場合、作品に触ることができないというルールを知らないことで、もし怒られてしまうと悲しい気分になってしまう。そうならないように、ルールを一緒に確認することも大事にしていると言います。

*当日の臨場感が伝わってくる参加者による感想レポート
そうした初めての体験を一緒につくっていくなかで、参加者それぞれが体験展示の時間を調べたり、ヘルパーさんじゃなくても最寄り駅からミュージアムまでの移動をサポートしあったりといった助け合いが自然に生まれています。
そんな関わり合いを、平澤さんは「頼り合うことの楽しさ、心地よさがある」と表現されました。つづけてこう言います。
「体験やサービスを提供する側と支援する側というものを超えて、やりたいことで集まった人同士で出かけているので、障害のある人同士も教え合ったり、福祉の専門ではない人がトイレのサポートをしたり。学びや遊びという場がつくる関係性のおもしろさを感じています」
2. 活動紹介② <ほっとりんく〜きこえに関わる子のなんでも屋〜>
次に、ほっとりんく代表の石川さんから活動について紹介いただきました。

・ほっとりんくとは
石川さんは、ろう学校での勤務経験、言語聴覚士、手話通訳士、盲ろう通訳介助など、「きこえに関わる子のなんでも屋」として活動しながら、ほっとりんくを立ち上げました。
ほっとりんくは、聴覚障害児とその家族を支援するコミュニティです。主な活動内容は、家族が集まる機会や子どもたちが余暇を満喫する機会を提供することです。その子どもたちの余暇の一つにミュージアム体験があります。
・ミュージアム実践のきっかけ
日本科学未来館のイベントの手話通訳の依頼を受けて行ってみたところ、友人が働いていたそうです。その友人の同期の職員がアクセシビリティ担当の部署で働いていたことをきっかけに、子どもたちを連れて未来館を訪れるように。友人に「来週、未来館へ行くね」と伝えておくと、ホワイトボードを使い、クイズなどを通して聞こえない子どもたちへの対応をしてくれるようになりました。
石川さんは美術館からの手話通訳の依頼も少しずつ受けるようになります。そこで、例えば午前中に美術館で手話通訳の依頼がある日は、その日の午後に子どもたちを呼んで展覧会鑑賞をする機会もつくってきました。

・「手話通訳があるから行こうかな」に感じているモヤモヤ
石川さんは、今回伝えたいことを3つ、お話しいただきました。
一つ目は「ご縁を大切に!」。
これまでの活動がすべてご縁でつながってきたということから、今回のみんミの”わ”での参加者との出会いや、ブレイクアウトルームでの対話の時間を大切にして、新しいスタートにつなげていきたいと話されました。
二つ目は、「本当の公平性とは?」です。
ほっとりんくの活動をはじめて4年が経ち、よく言われてきた言葉は「ほとり先生がいるなら行ってみようかな」という言葉でした。「わたしがきっかけになるのはうれしいけれど、これは本当に理想的な状況なのでしょうか」と疑問を投げかけます。
これに関連して、先日、動物園に対して、子ども向けに手話通訳をつけてほしいと交渉し、手話通訳として入ることができたときのエピソードをお話しいただきました。その日もたくさんの聴覚障害児の親子が来てくれました。しかし、このときも参加した保護者に言われたのは、「通訳がつくなら行こうかな」「ほとりが通訳なら行こうかな」といった言葉でした。

なぜこの言葉にモヤモヤするのでしょうか。
石川さんは、「手話通訳をつけたから、聞こえない子と聞こえる子が公平になったのかというと、どうなのだろう」と考えていると言います。「行きたいイベントに行くのではなく、このイベントは障害児に配慮しているから行こうというのは、聞こえる子と同じスタートラインに立っていないのではないか。そのことを今日みなさんと考えたい」と話されました。
・聴覚障害児向けのイベントをするときの工夫
最後に、実際に聴覚障害児に向けたイベントを開催するときに、どんな工夫をしているのかお話しいただきました。
まず、情報を得にくいことに対する工夫です。聴覚障害児の中には、音声の解説を聞き取ることや、文字からイメージを膨らませることが苦手な人もいます。そこで、石川さんは事前の資料やしおりをつくり、見通しを持って参加できるような工夫をしているそうです。イベントでは、ただ楽しかったという気持ちだけでなく、わかることや知ることの楽しさを感じてもらいたいと言います。しかし、写真やイラストがあれば必ずしも伝わるわけではなく、文字と写真のイメージが一致しているかどうかも大切だとわかってきました。

*「ロボット」についての説明(文字による説明は難しい。さまざまなロボットを視覚的に示す)
合理的配慮の提供について、ミュージアムでも学びの機会がひらかれていますが、石川さんはその対応にズレを感じることもありました。
例えば、あるミュージアムのイベントに聴覚障害児と一緒に行くことを事前に伝えたところ、そのミュージアムから「筆談ボードを用意しました」と言われてしまったそう。このとき、石川さんは赤ちゃんから小学校低学年の子どもたちと行く予定でした。対象の子どもたちは、まだ筆談はできません。そういったズレを受けて、少しずつ聴覚障害児に伝わる工夫などをミュージアム側に伝えていく活動もはじめています。
・聴覚障害児の保護者の声
このような活動に取り組む中で、聴覚障害児の保護者の声からもいろんな課題が見えてきました。
例えばこんな声があります。
親が通訳をするのが負担。
人目を気にして人気の場所には行かない。
配慮をお願いすること自体がハードルが高い。
うちの子は手話も声も必要。
他にも、イベントには手話通訳などの情報保障がついていても、その前後は親が通訳をしなくてはいけないことや、配慮をしてくれるのはありがたいけれど、課題もあり、要望を言い出しにくい……といった課題もあると言います。

だからこそ、最後に「対話を深める大切さ」を伝えたいとしめくくりました。
3. 参加者との対話を通して
話題提供の後は、いつも通りブレイクアウトルームに分かれ、参加者は感じたことや考えたことを自由に話し合いました。そのなかでは、例えばかてコトの活動に参加したことのある親子から「家族では出てこない選択肢のミュージアムに行けるのが楽しい」といった声や、福祉事業所に勤めていた経験のある方から「外出先はいつも職員が決めていたので、障害のある人発の企画を考えたことがなかった」といった声が聞かれました。
ブレイクアウトルームから戻ってきた後、Zoomのチャット欄に、感想や質問を書き込む時間を設けました。そのチャット欄への書き込みや、ブレイクアウトルームでの対話などから参加者全体で対話の時間を設けました。最初に平澤さんと石川さんからひとことずつお話しいただきました。

*Zoomの対話中の画面。進行の松島さん、手話通訳の村山さん、文字通訳の画面、ゲストの石川さんと平澤さん、が写っている。
平澤さんは、かてコトのコミュニティでミュージアムに行くこともしてきましたが、実は障害のある人からミュージアムに行きたいという声はまだ出ていないと言います。障害のある人がこれまでミュージアムに行ったりそこで体験したりする機会はまだ少なく、これからも少しずつ体験を増やしていけたらいいという話がありました。
石川さんは、ブレイクアウトルームで出た「ケースバイケース」という言葉を取り上げ、「よく障害のある人の対応に対してケースバイケース(ニーズは一人ひとり違う)と言われますが、わたしにとっては、美術館側の環境もケースバイケース(提供されるサービスが館によって違うなど)だと感じています。お互いに自分たちの当たり前を見直すことや、一度で理解することは難しくても、何度か対話を重ねていくことが大事だと思いました」と話されました。
その後、「障害のある人と美術館で鑑賞するイベントを企画していきたい」「地方でミュージアムの鑑賞のファシリテーターとして活動してみたい」といった、これから活動をはじめたい人から、平澤さんと石川さんが活動するうえで大事にしていることや感じている運営の課題などについての質問もありました。平澤さんからは、「まずは同じような想いを持っている人とつながる、仲間を見つけることがすごく重要だった」という話や、石川さんからは、「聞こえかたは人それぞれで、手話だけで話す、音声だけで話す、というようにはっきりわけられない人もいっぱいいる。運営が難しいときもあるけれど、聞こえに関係すれば誰でもきていいよ、という場所を目指していきたい」という話がありました。
4.おわりに
今回は、障害のある人やそのご家族、これからミュージアムでの活動や障害のある人との活動をはじめていきたい人、ミュージアム関係者など多様な立場の人が集まりました。これまで地域の人や障害のある人とさまざまな活動を重ねてきた平澤さんと石川さんの実感のこもったお話は、ミュージアムに行ってみたい、余暇活動を楽しみたい、活動の選択肢を広げていきたい、障害のある人にもっと来てほしいといった、さまざまな立場での「やってみたい!」という想いに背中を押してくれたのではないでしょうか。
レポート:高橋梨佳(みんなでミュージアム事務局スタッフ)




