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目次:活動の記録

【活動紹介】横浜能楽堂「なんでもシェア会」

  • 報告レポート

2023.03.29(水)

横浜能楽堂では、さまざまな人が一緒に能・狂言を楽しめる環境を目指す取り組みのひとつとして、「バリアフリー能」の開催が20年以上継続されています。「バリアフリー能」は、点字パンフレットや音声ガイド、字幕配信、手話通訳など、様々な鑑賞のサポートが準備され、みんなで楽しむことができる能・狂言の公演です。

横浜能楽堂から「初めての挑戦だけれど、『バリアフリー能』の終演後、ざっくばらんに感想を言い合えるイベントを企画したい」とみんミに相談があったのは、昨年12月。「バリアフリー能」の公演日は3月下旬。新しい企画に取り組むには、余裕のあるスケジュールではなかったかもしれません。でも、みんミのモットーは「やってみたい!という気持ちを大事にする」こと。企画を実現するため、また企画が1回きりで終わらずに継続されていくために「無理しすぎない」「完璧をめざさない」「でも、できる中での全力を尽くす」ことをたびたび確認しながら準備を進め、「なんでもシェア会」が実施されることになりました。

「なんでもシェア会」では、このようなことを目指しました。

1 安心してなんでも発言できる、少人数のアットホームな場。
2 終演後(2時間以上鑑賞した後)なので、短い時間で気軽に。
3 公演を見た体験や、能・狂言の内容について話す場。
(鑑賞サポートについての要望・意見はアンケートに書いてもらう/書けない人は、職員がヒアリングして代筆)
4 誰も話題から置いてきぼりにしない
5 参加者と共に作る場

短い時間だったので、公演の印象や感想を話すことに集中してもらうため、鑑賞サポートに関することはアンケートで別途伝えてもらう、というスタイルにしました。

「話題から置いてきぼりにしない」というのは、具体的には、その場にいる全員が理解し、発言しやすい伝え方・進め方をすることです。初心者でも分かるということ、手話・文字通訳を介してやりとりする人が遅れないこと、を特に心がけました。

そして、これらの目指すことを実現するためには、参加者が「この場、もっと〇〇だったらいいな」と気づいたことを、気づいたタイミングで気軽に伝えられること、その声を受けてその場が変化すること、そうして参加者と企画者が共にその場を作る流れが自然に生まれ、循環していくことが大事だと思います。

参加者は6名。何度も能・狂言を鑑賞している詳しい人、今回初めて鑑賞した人などさまざまでしたが、なごやかな雰囲気でゆったり話す時間となりました。

横浜能楽堂は大規模改修工事のため、来年(2024年)1月から2年以上にわたる長期休館に入り、休館前の「バリアフリー能」の実施は今回が最後とのことです。「なんでもシェア会」は節目のタイミングに、次につながる新しい取り組みとなったように感じています。

<当日の様子1>
聞こえない参加者(座っている男性)の意見を聞きながら、会が始まる直前に、手話通訳の立ち位置や参加者の席を最終調整している様子。プロジェクターのライトがまぶしいことが判明…。

<当日の様子2>
印象的な場面の写真を壁に投影しながら、能・狂言の内容をみんなで思い返している時。実は、上演中に能楽堂スタッフが撮影した、撮りたてほやほやの写真!

当日、取材でいらっしゃっていた『月刊ニューメディア』の吉井勇さんが個人的にメール配信しているブログ的な読み物の中で「なんでもシェア会」を取り上げてくださいました。以下、ご紹介します。

横浜能楽堂を取材して、「20年以上の蓄積はこうした企画づくりに結びつくんだ」と感じたことがありました。
公演の終了後に、「なんでもシェア会」の集まりが行われたのです。
印象的でした。参加者の意見です。いくつかを紹介します。

全盲:橋がかり(舞台と控えを結ぶ廊下)の近い席にいたら、演者の出入りを風で感じました。素早く動くような出入り、気づかないような静かな出入りを風で感じました。

ろう:床を足でたたくときに出るという音の低さ、高さをボディソニックの振動でわかりました。音の強弱を感じられたことはうれしかった。

難聴:能には幕引きがないということですが、演者や奏者が次々と舞台から去り、静かになっていくことから、「余韻」という舞台の終わり方を感じました。

聴覚障害:脇柱のところ座るワキ役の旅の僧が背中を向けていたので失礼な席だなと最初は思ったのですが、ワキ役の目線で見ているようにオーバーラップできる見方だと気づいたんです。

こうした意見がそれぞれの6人のメンバーから話されたのです。
初めての人も、毎回のように来ている人と幅広いのですが、能の演目から能の文化について障害のそれぞれを通して自分なりに引き付けて感じられたことを率直に話されたのです。まさに「シェアの会」でした。たった1時間でしたが、障害のある方が自分なりの能の楽しみ方を自由に出せる機会、しかもそれを「シェアする」という観点でセットされたことに鋭い視点を感じました。これまでも終わったあとの会はありましたが、テーマはバリアフリーの機能サポートはどうかが中心で、どういうサービスがあればもっと良くなりますかでした。今回の企画を担当した方は、「バリアフリーのサポートについての意見はアンケートに書いていただき、この場は能の楽しみを語っていただくこと」と狙いを話します。
実際、昨日の字幕サービスも安定して問題なく提供、音声解説サービスも安定しています。ボディソニックはパイオニアの技術者がサポートしていますので、見事に作動しています。こうしたバリアフリーサポートは横浜能楽堂では当たり前になっているのです。
ですから、企画を考える担当者は「能のそれぞれの楽しみ方」という文化というテーマに入っていけたのでしょうか。やはり20年の積み重ねは大きい。

レポート:梅田亜由美(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー)