ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【レポート】2022年度 シンポジウムの開催

  • 報告レポート

2023.03.29(水)

「みんなでミュージアム(以下:みんミ)」は、障害のある人をはじめ、ミュージアムに行きづらいと感じる人が、「いつでも、だれでも、どこへでも」ミュージアムにアクセスできる環境形成の実現を目指して活動しています。必要な人材像と鑑賞方法の検証を重ねながら、同じテーマに関心を寄せる人々が集い、学びをともにする場づくりを進めています。

2023年3月4日(土)に、今年度の取り組みを発表するシンポジウムを開催しました。

活動の2年目にあたる今年度は、ミュージアムを楽しむ方法を支える「パートナー」と、より良いアクセス環境を考える「コーディネーター」の人材像や役割を明らかにすること。そして、障害のある当事者とミュージアムを繋ぐ「中間支援」の必要性を明確にしていくことを目的に、当事者とミュージアムとともに、計14件の実践に取り組んできました。

今回は、これらの実践のなかから「さいたま市立漫画会館でのコーディネーターの実践」と、「せんだいメディアテークでのパートナーの実践」の2つの事例を紹介。実践を協働した関係者をゲストに迎え、それぞれの実践から見えてきたことの報告と、みんミのメンバーが考えるこれからの人材育成について、ディスカッションを行いました。

シンポジウムはオンライン(Zoom)にて開催。当日は、初めてみんミのイベントに参加する方も含め、幅広い分野の方々にご参加いただきました。以下は、当日の概要です。

みんなでミュージアム シンポジウム2022
〜 もっと気軽にミュージアムへ、 もっとつながるミュージアムを~
2023年3月4日(土)14:00~16:00 オンライン(Zoom)開催
<情報保障>手話通訳:石川 阿・丸山垂穂  文字通訳:チームW・研修センター

第1部  「みんなでミュージアム」について
柴崎由美子(NPO法人 エイブル・アート・ジャパン)

第2部-1 さいたま市立漫画会館での実践事例(コーディネーター事例)
石田留美子(さいたま市立漫画会館/学芸員)
伊東俊佑(独立行政法人国立美術館本部研究補佐員)
戸塚愛美(みんミプロジェクトメンバー)

第2部-2 せんだいメディアテークでの実践事例(パートナー事例)
高橋梨佳(NPO法人 エイブル・アート・ジャパン)

質疑応答

第3部‐1 人材育成について
平澤 咲(NPO法人 エイブル・アート・ジャパン)

第3部‐2 ディスカッション
柴崎由美子、梅田亜由美(みんミプロジェクトメンバー)戸塚愛美、高橋梨佳、平澤 咲

モデレーター:松島宏佑(みんミ プロジェクトメンバー)
全体進行:今野優紀(NPO法人 エイブル・アート・ジャパン)

「みんなでミュージアム」について
はじめに、エイブル・アート・ジャパンの柴崎さんより、みんミの事業を紹介しました。みんミの活動の発端には、25年を超えるエイブル・アート・ジャパンの環境整備の事業のなかで、障害のある人による「創造する」、「発表する」活動は全国的に活性化しているなかで、「鑑賞する」、「参加する」、「体験する」といった領域は、まだまだ実践が乏しいことへの問題意識があります。この現状に対して、ミュージアム側に目を向けると、予算や人員的な体制など、さまざまな制約があることが分かってきました。こうした実態を前に、障害のある人とミュージアムをつなぐ「中間的な立場」から、支援体制の構築を進めることの必要性や可能性を感じたことが、事業を立ち上げたきっかけです。


柴崎さんからはこうした事業発足の背景から、プロジェクトが描く全体像の説明、昨年度(2021年度)の活動から見えてきた今年度(2022年度)の活動と、これから先に目指していく計画や将来像が語られました。

その後、シンポジウムは2つの実践の発表へと移ります。今回は、「見えない・見えにくい」「聞こえない・聞こえにくい」当事者の方々との事例を取り上げましたが、実際の活動では、知的障害や自閉症、発達障害のある方々にも参画をいただいています。

さいたま市立漫画会館での実践(コーディネーター事例)から見えてきたこと
続いて発表したのは、さいたま市立漫画会館・学芸員の石田留美子さん、この実践で当事者コーディネーターを務めた独立行政法人国立美術館本部研究補佐員の伊東俊佑さん、そして、みんミのメンバーの戸塚愛美さんです。

さいたま市立漫画会館での実践では、主に「視覚に障害のあるコーディネーターとの実践」と、「聴覚に障害のあるコーディネーターとの実践」の2つの軸で展開してきました。

まず、戸塚さんから概要を紹介。今回は、より良いアクセシビリティの検証に向けて、規模の小さなミュージアムに声をかけることからはじまり、さいたま市立漫画会館との協働に至ったこと。事前の打ち合わせを重ねたあと、トライアルの鑑賞体験を通して気付きの共有を行なったこと。その後、企画展の更なる楽しみかたを探るため、今後につなげるギャラリートークや鑑賞方法の可能性を検証したことなどが話されました。

次に、ミュージアム側の視点を石田さんから発表。「それって、どんな絵?で気づいた、漫画会館の魅力~見えない、聞こえないから広がる、漫画会館の可能性~」と題して事例を紹介しました。

さいたま市立漫画会館は漫画を文化として育てていくことを目的とした日本初の漫画に関する公立美術館です。昭和41年の開館から57年が経ち、施設のリニューアルを控えている状況のなかで、より多くの人に漫画の魅力を伝えたいという想いがありました。

石田さんからは、館の状況について、2つの課題感に即して説明がありました。
一つは、「ギャラリートークへの手話通訳の導入」について。さいたま市立漫画会館では、これまで定期的なギャラリートークの実施経験がなく、そこへ手話通訳を導入することは非常に挑戦的で、勇気のいる行動だということ。もう一つは、「見えない人との鑑賞」について。館内にはこれまで視覚に障害のある人と接した経験のある職員が少なく、ともに鑑賞することへの想像がつきづらいという状況にありました。こうした課題に対して石田さんは、「実施する意義を問い直し、館全体の不安を払拭し、誰かが行動する必要がある」と、挑戦へと向かわせた想いを語り、見えない人や聞こえない人にとって、作品鑑賞がどのような行為なのか、どのように感じているのか「知る・学ぶ」ところから始めたことを、具体的な実践の様子を交えて紹介しました。

さらに石田さんは、「『手話通訳をつける』だけで終わらない、その先の見せ方の工夫が必要だと感じました。当館にとっては、多くの人に来ていただきたいので、聞こえない人、聞こえる人の区別なく、だれに対しても、伝わる鑑賞を支援する意識が重要と考えます。」と語ります。そして、今回の実践をきっかけに館内の可能性が広がり、持続的な取り組みとして次年度のギャラリートークを具体的に行うところまで企画が進んだことが話されました。

次に、ご自身が聞こえない当事者でありながら、ミュージアムのアクセシビリティを研究する立場から当事者コーディネーターを務めた伊東さんより発言がありました。

実践への気付きとして「コーディネートにあたっては、当事者の視点だけでなく、そこにいる関係者がどのようなことを思っているのか、事前に共有できるかたちでコーディネートしていくことが必要だと思いました。」と話します。そして、アメリカの事例を交えながら、「そこにいる関係者同士がお互いの情報をフラットに共有できる、学び合えることがコーディネートの前提として必要になると思います。一方的な関係でなくて、お互いがフラットな関係でいれるような感じです。」と、ミュージアム側やサポートする側である手話通訳者の意見や考えも含めて、相互に理解し合う関係の重要性をコメントすます。

さらに、コーディネーターの人材像について「私自身は聞こえない立場から意見を述べることができますが、それだけではなく、ミュージアムの来館者としての姿勢も必要になってくるのかなと思いました。強いて言うならば、ミュージアムのことを理解している当事者も必要になってくるかと思います。」と語りました。

せんだいメディアテークでの実践事例(パートナー事例)から見えてきたこと
続いて、エイブル・アート・ジャパンの高橋さんより、宮城県仙台市の生涯学習施設せんだいメディアテークでの展覧会「定禅寺パターゴルフ???倶楽部!!」における取り組みの報告がありました。

この実践は、せんだいメディアテークから、「障害の有無や年齢にかかわらず、遊びを通じてさまざまな人が出会う場をつくりたい」と相談があったことがきっかけです。みんミの事務局は4つの関連イベントの企画・運営、展覧会の広報活動のサポート、 会場構成や運営のアドバイスなどで協力。
高橋さんからは、関連イベントのうち「見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」について、視覚に障害のある人を支援する団体「特定非営利活動法人アイサポート仙台(以下、アイサポート)」と取り組んだ事例が発表されました。

今回のイベントの実施にあたって、みんミの事務局は、障害のある人とミュージアムをつなぐコーディネーターとして、せんだいメディアテークと、パートナーのアイサポートの中立的な立場から、事前準備から当日の運営までの企画進行を行いました。

高橋さんは概要を紹介したうえで、この連携から見えてきた具体的なポイントを取り上げて伝えます。「企画をきっかけに、ミュージアムから遠かった人が、地域に出てミュージアムに行くことができました。また、企画の構成から現代アートに詳しくなくても、どうしたら楽しめるか、体験できる方法をフラットに一緒に考える環境ができました。」今回、アイサポートの利用者だけではなく、そのスタッフやボランティアも含めてせんだいメディアテークの展覧会に訪れるのは初めてだったため、周囲に関わる人も含めてアートを楽しむこと・ミュージアム体験ができたことが大きな成果だったと話します。そして「見えない人が参加することで、ミュージアムの新しい活用方法や、体験について考えるきっかけが生まれた」ことを取り上げ、ミュージアムに足を運ぶことの心理的なハードルや、情報を入手することのハードルが社会にはまだ多く存在することを踏まえて、当事者をつなぐパートナーの存在の重要性をコメントしました。

人材育成について今、私たちが考えること
シンポジウムの後半では、当事者とミュージアムをつなぐために「どんな人」、「どんな役割」が必要なのか、そのための「人材育成の考え方」を軸にディスカッションが行われました。
まず、実践の現場に関わってきたエイブル・アート・ジャパンの平澤さんから、今年度の取り組みから見えてきた4つのキーワードを提示します。

1)多様な人が集うことが必要
当事者、パートナー、コーディネーターの持つさまざまな役割が場に活きる

2)ひとりひとりのやってみたい、がつながりをつくる
当事者の素直な気持ちを起点に、関わる人たちの想いをかけあわせていく

3)多様な関わりが生まれ、受容される環境デザイン
階段型の関わりから、有機的な関わりで循環する“人材育成”を目指す

4)みんなで創造するミュージアムの価値
ミュージアムという場で、多様な市民が関わり、ともに新しい文化を生む

これらのキーワードをもとに、コメント欄から寄せられた質問や感想を交えながら、みんミのプロジェクトメンバーがそれぞれの意見や考えを話し合いました。

今年度の事業申請のテーマは「人材像の明確化」と「人材育成」でした。パートナーやコーディネーターにはどのような人が適しているのか、メンバーと考えながら事業を進めるなかで、ミュージアムや当事者のニーズは当然ながら多岐に渡ることを実感します。そして、それぞれに必要なことが異なるため、明確に人材像を分けるのではなく、多様な役割を持つ人の横断的な関わりが重要だということに気が付きます。

また、専門的なスキルのある人や、理想像に沿った人を直線的な成長のもとに育てていくのではなく、関わる人の豊かさや、さまざまな立場の人が集える場をつくることが大切だということ。こうしたネットワークの輪を広げることで、お互いの学びや成長へとつながり、より良い循環が生み出されるのではということ。
そのための仕組みや環境をデザインするのが、みんミの目指す「人材育成」なのではないか、という考えに至ります。

メンバーの梅田さんからは、「みんミに関わる人が、どんなことをやってみたいか、どんなふうに関わりたいのかはいつも想定外。その想定外に右往左往したり、悩んだり、ときには、頑張ったけれどできない、と言いながらも、一つ一つに答えながら、できることを増やしていくこと。多様な人の多様な関わりを受容する、そして受容できる環境をつくるのが、みんミの人材育成だということを、今年さまざまな実践を通して実感してきました。」と話します。

今回の実践では、ミュージアムに行ったことがない人、具体的な鑑賞方法で楽しんでみたいと思う人など、さまざまな当事者の気持ちが常に出発点としてありました。一人一人の思いや関心、「やってみたい!」という気持ちを活かしていくことが、結果として、ミュージアムと当事者をつなぐ、自主的な動きを促していくことに結びついたと考えます。

ご参加いただいた方々からの声
ご参加いただいた方々からの声には、「実際に現場での実践によって、気づきが促されることがある。当たり前かもしれないけれど、そうしたことの積み重ねが大切だと思った。」という感想や、「当事者や支援団体が入ることが、本当に重要だなと思った。どの地域にもそういった協力者はいるはずなのに、当事者とミュージアムがなかなか繋がらない、お互いにニーズがあるのかわからないなどで、足踏みしている人たちは多い。中間支援の重要性を改めて感じた。」という声が見られました。

これまで2年間、みんミに関わる多様な人々との関わりを通して、人と人との横のつながりがとても豊かになってきました。ミュージアムの可能性を問い、役割を生み出していくのは、私たち個人レベルでの行動や、一人一人の意志なのではないか。ミュージアムに行ってみたい、だれかと一緒に作品を楽しんでみたい。こうした当たり前の思いのある人々が集い、ともに交流することができれば、私たちはその活動自体が新しい文化であり、ミュージアムの可能性であると考えます。

今後、中間支援の取り組みが各地域により多様に生まれ、そのコミュニティがさらに実践を多くの仲間と共有していくようなネットワークを育んでいくことを目指し、3年目、そして4年目以降の活動に取り組んでいきたいです。

※このシンポジウムのアーカイブ動画を4月下旬に公開する予定です。

レポート:今野優紀(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー/エイブル・アート・ジャパン)

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