ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【活動紹介】 パートナーとの実践的な協働の取り組み 〜「見たいようにみる」 編〜

  • 報告レポート

2023.03.02(木)

みんなでミュージアム(愛称:みんミ)は、ミュージアムが抱える状況に左右されず、障害のある人のミュージアムに行きたい、プログラムに参加したいという思いを実現するために、当事者のコミュニティとともに、アクセシブルな環境形成や鑑賞を楽しむ方法について検証と記録に取り組んでいます。

パートナーとの実践では、実際にミュージアムへ行きたい障害のある鑑賞者とパートナーが、ともに鑑賞を楽しむ試みを実施し、どんな人材を育成する仕組みが必要なのか検討しています。

「見たい作品を、みてみたい」

自身の想いを話してくれたのは、京都にお住まいの小林さん。視覚障害(弱視)があり、週末には見える人と見えない人との美術鑑賞ワークショップ、アトリエでの作品制作プログラムなど、ご自身で活動的に美の時間を楽しまれています。

最近、美術館などで開催が増えてきた、見える人と見えない人との美術鑑賞ワークショップは、見える人、見えない人、様々な人が、見えることや感じることなどを、ことばにして話し合い、2時間くらいかけて数点の作品を鑑賞します。

ワークショップでは、当日集まった参加者の人たちと見る作品を決めることもありますが、主催者側で事前に、対話が深まるような作品を選んでおくことも多くあります。

都内のアートイベントでわたしたちが企画に関わった鑑賞ワークショップも、見る作品を事前に決めて実施しました。
そのワークショップに、遠方の京都から参加してくださった小林さん。
ワークショップ終了後、「選ばれた作品を鑑賞することも楽しいけれど、ワークショップでは自分の見たい作品に出会えない。美しい風景や印象派の作品などをもっと鑑賞してみたい。」 と、ありのまま、まっすぐな想いを聞かせてくださいました。

見たい作品を見る。
小林さんにとって、見に行きたいな と思った時に、当たり前にふらっと、ミュージアムへ訪れることのできる仕組みは、今はまだ整っていない、という事実に気づかされました。そこで、「見たいようにみる」 鑑賞を実際にやってみよう! ということで、パートナーの人たちと一緒に、今回の実践に取り組みました。

<どこへ?だれと?>
今まで実現できていなかった「見たいようにみる」鑑賞のはじめの一歩にむけて準備していったのは、行きたいミュージアムの選定と、誰と一緒に見るか ということでした。
ヒアリングしていく中で、行きたいミュージアムは、世界の名画8点が陶板画として再現され屋外の建築に展示された「京都府立陶板名画の庭」が挙がりました。
はじめ、見えないのにどうやってミュージアムを探したらよいか、戸惑っていた小林さん。
以前訪れてあまりその良さが分からなかったけれど、しっかり鑑賞してみたい!と思っていた場所に決めました。

一方、一緒に作品をみる人については、例えば、詩人さんと見てみたいんです、とのこと。
一緒に作品を見る人の話すことばを丁寧に聞きとり、作品を鑑賞するため、ことばの表現によって、作品の見え方や感じ方が変わってくるとのことでした。
ことばを大切にしている人同士が集い、ともに鑑賞することできたら、お互いに一歩踏み込んだ作品鑑賞ができそうです。

そこで、視覚的な美を言葉で描くことや、見えていることを丁寧に言葉に翻訳していくことに興味を持っている人を、鑑賞のパートナーとして探していきました。
小林さんが偶然出会った、視覚障害者ガイドヘルパー業務をされていて説明がとっても上手な人、京都のコミュニティに声をかけ興味を持ってくれた絵や詩をつくっていらっしゃる人、出版の仕事をなさっている人、3人をパートナーとしてお誘いしました。

また、同じくミュージアムがお好きで、視覚障害(弱視)のある小林さんのご友人にお声がけして、当日は、5人が集うことになりました。

<どんなふうに?>
皆のスケジュールを合わせ、当日にむけてパートナーの人たちと打ち合わせしたときに、3人から、小林さんがどんなふうに作品をみたいのかもっと知りたい、ことばでどうやって表現するか考えたい、と言われました。集まった人と、どうやって鑑賞の時間を過ごすか、パートナーのみなさんの期待の高さと、ともに楽しもうとする熱意を感じました。

また小林さんからは、アイマスクを使うチャレンジをしてみたい、との希望がありました。
当日、パートナー1人がアイマスクをつけて鑑賞し、途中で外してから、頭の中の印象とは違っていたところや、気づいたところを伝えていく、というアイディアです。

当日はすべての時間を鑑賞に充てるため、どんなふうに鑑賞するかについて、今回の鑑賞のきっかけとなった小林さんと、パートナーの人たちでお互いの想いを伝え合う時間をつくりました。決めた内容について、小林さんのご友人には当日のおたのしみで、体験いただくことにしました。

<当日とその後>
いよいよ迎えた当日は、1月末で冬本番の寒さ。
コートやダウンを着込んだ5人のみなさんが、肩を寄せ合い、3点の作品を鑑賞しました。
「どれをみる?」「あっちに、あの作品あったよね!」と相談しあって決めていく様子は、大人の修学旅行のように、声が弾んでいます。

(受付スタッフの人に寒くないのか、と心配されながら…)たっぷり3時間を過ごしました。ミュージアム近くのファミリーレストランであたたかい飲み物を飲んで感想を伝え合い、それぞれが帰宅する頃にはすっかり日も落ちていました。

印象的だったのは、鑑賞の数日後さらに、みなさんがメールで感想を伝え合っていたこと。
その内容をここで、紹介したいと思います。(メール文の中から、一部抜粋となっていることをご了承ください)

「今まで気づかずに見ていた名画の数々を細かい所まで説明していただき、よりはっきりとイメージすることが出来ました。外は寒いけれど常に温かい気持ちで過ごせた幸せな時間でした。」

「今回の実践について、なかなかまとめてお返事を書く時間が取れていないのですが、とても貴重な機会をいただき、後から思い出すにつれ、体験がゆっくりじわじわと心の中で広がっています。広がるスピードがゆっくりで、いつ、どこでまとめて良いのか戸惑っています。」

「ひとつの案として、次のようなアイデアを考えました。絵の基本情報を伝えたあとで、たとえば、詩作をたしなむパートナーが、その場で絵から受けた印象を即興の詩にうたう、というような方法。絵の美しさを言葉で共有する、というチャレンジです。詩作のサークルで活動している人など、こうした鑑賞方法に興味を持つ方もいらっしゃるかと思います。」

「今回、私の個人的な裏テーマは小林さんがよくおっしゃっている「美しいもの」っていったい何なのか知りたいということでした。現場ではそれどころではなく、、なかなかわかりませんでしたが、いただいたメールより、少し断片が見えてきたように感じました。また機会があれば、美しいものについて聞いてみたいです。」

「モネの『睡蓮・朝』は、かなり抽象的な作品なので、細部の視覚情報を積み上げていった先にある印象へたどり着くのは、相当難しいと感じました。伝えても、伝えても、「だから、どうなの?」「So,what?」な感じもしました。抽象、具象、それぞれに、また、それぞれのグラデーションの中で、伝え方の手法を変えていく必要性があるかもしれないと思いました。」

「これまでの対話型観賞では「わからなくてもよい」ということが優しさの代名詞のようにされていて、わかりたいのにわからないという気持ちは置き去りにされ、結局わからないばかりかそれを主張できない場の雰囲気は、優しさの名において孤独感を生むものでもありました。今回の鑑賞では、知る・印象を感じる・美しい言葉で表現するというステップを経て視覚的要素をきちんと脳裏に描き、美を感じ取りたいという私の願いを皆様がわかってくださり、言葉で描くことへの挑戦を一緒に楽しんでくださったこと、その先に、自然な感情として美しいと思えるものが待っていてくれたことが何よりの充足感につながったと思います。」

「今回の鑑賞体験を通して今後に期待することは、今回のようなオーダーメイドの鑑賞をプロデュースしてもらえる仕組みが全国で構築されればということです。どんな鑑賞がしたいか、明確なイメージがある場合ばかりではないと思いますので、処方箋のようなものを作成して選択肢や自由記述によって思いを聞き取り、そこからその人に合った鑑賞方法を提案する、そうしておこなった鑑賞記録をアーカイブとして積み重ねていくことで、それが別の方の観賞場所の候補やさらなる楽しい鑑賞のヒントにもつながると思います。」

聞いたところによると、今回の機会をきっかけに、偶然ギャラリーで会い鑑賞をご一緒したり、普段の自身のご活動についてお話したり、実はお互いご近所さんだったことが発覚したりしたそうです。

たった1回の鑑賞だとしても、地元で起きた個人的な体験だからこそ、続いていく関係性や距離感があるということ。それは、プログラムの「参加者」として関わるときには得難い広がりなのかもしれません。

今回の実践では、関わったひとりひとりの想いや意志に沿うことが、「見たいようにみる」の形をつくっていったと実感します。
私とあなたという個々がつながり、また新しいつながりを生むことで、「見たいようにみる」 がもっと気軽に実現できるよう、一緒に次の一歩をつくっていきたいです。

写真:寺岡 海
レポート:平澤 咲(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー/エイブル・アート・ジャパン)