ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【活動紹介】せんだいメディアテーク展覧会におけるパートナーとの実践報告〜見えない人・見えにくい人との企画〜

  • 報告レポート

2023.03.29(水)

東北でのパートナーとの実践では、パートナーという存在が障害のある人とともに活動することで、障害のある人がミュージアムを身近に感じ、気軽にアクセスすることができる環境づくりに取り組んでいます。
今回は、その実践の現場として、宮城県仙台市の生涯学習施設「せんだいメディアテーク」における協働についての取り組みを報告します。

はじめに
せんだいメディアテーク(以下、メディアテーク)では、毎年1回、現代美術の企画展を実施しています。2022年度は、大阪を拠点に活動する二組のアーティスト、contact Gonzo(コンタクトゴンゾ)とdot architects(ドットアーキテクツ)による展覧会が企画・実施されました。その名も「定禅寺パターゴルフ???倶楽部!!展覧会〜協働と狂騒のダブルボギー(2打オーバー)」です。

展覧会の主旨は、「ままならない世界へようこそ!」
メディアテークの1階にあるオープンスペースに出現したのは、不思議なパターゴルフ場。障害の有無や年齢にかかわらず、遊びをとおして多様な人びとが交流できる場として開かれました。会場に設置された7つのホールは、凸凹があったり、風が吹いてボールを動かしてしまったりと、思うようにプレーできないものばかり。パターはダンボールでできていて、会場でつくることもできます。

メディアテークから、みんなでミュージアム(以下、みんミ)に相談があったのは2022年7月。「多様な市民を巻き込むために企画に協力してほしい」というものでした。そこで、みんミでは、多様な市民として「障害のある人たち」を想定し、4つの関連イベントの企画・運営、展覧会の広報活動のサポート、会場構成や運営の助言などで協力しました。

11月には、アーティストと対面し、カームダウンスペース(※)などの会場構成について意見交換をおこないました。
※感情やストレスが高まった時にもとの状態に戻るために、落ち着いて過ごせるスペース。
また、2023年1月11日の展覧会の初日におこなわれたアーティストによる「公開練習」に合わせて、会場の下見と体験会をおこないました。

ここから、みんミの事務局がどのように考え、活動したか。4つの関連イベントから、各企画のレポートを紹介していきます。

見えない人・見えにくい人がともに展覧会を楽しむ
ここでは、4つの関連イベントの一つ、「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」について紹介します。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」を体験する人の様子。

写真:渡邊博一

〜準備編その1「どのようにして視覚障害のある人たちに情報を届けたのか」〜

みんミは、ミュージアムと見えない人をつなぐパートナーとして、視覚障害のある人たちを支援する組織「NPO法人アイサポート仙台(以下、アイサポート)」に協力を呼びかけ、一緒に企画を進めてきました。

アイサポートは、「仙台市視覚障害者支援センター」を運営し、視覚障害のある人の相談支援、各種講習会、余暇活動支援などを実施。仙台市の視覚障害者2,259人のうち129人が登録しています(2022年9月時点)。みんミは「障害のある人の生涯学習」の観点からアイサポートと交流・連携していたため、本企画のパートナーとして呼びかけを行いました。

2022年10月、みんミとアイサポートは打ち合わせを実施。メディアテークの展覧会の趣旨を共有し、関連イベントの内容について話し合いました。また、パターゴルフと類似した活動として、アイサポートが運営する視覚障害のある人によるスポーツ「スティックボール」を見学し、事前学習を行いました。

11月、主な参加者の対象を高齢の視覚障害のある人たちと想定し、参加しやすい日時、定員規模、広報の分担などの確認を行いました。関係者が行った広報活動は以下の通りです。

■アイサポート(パートナー)
・利用者向けの会報「きりんだより」(12月上旬発送)。129人の登録者向けに、点訳版(約20人/一人暮らしや先天性の人向け)と音訳版(4人/デイジー図書)、墨字版(弱視の人・ご家族等から情報を取得する人向け)を作成
・アイサポートが主催する「スティックボール」の参加者に告知

■メディアテーク&みんミ事務局(コーディネータ)
・メディアテーク発行の「けやき通り通信」(点字版・音声版の見えない人へのニュース)へ掲載
・仙台市視覚障害者福祉協会のメーリングリストでの情報発信
・チラシの作成
・チラシの生涯学習施設等への配架
・ウェブサイトおよびSNSでの発信
・問い合わせ対応および申込受付(電話、FAX,メール等)

12月、参加申込者は定員の半数程度でしたが、アイサポートから個別に「行きませんか」と声かけをすることで、1月初旬には、見えない人・見えにくい人が12人集まりました。また、メディアテークとみんミによる広報を通じて、見える人7人も集まり、定員に達したため募集を締め切りました。

〜準備編その2「下見から本番までの10日間!」〜

展覧会としてのパターゴルフ場が会場に出現したのは2023年1月11日。アーティストが実際にプレイをする会場で下見を行ってから、プログラム本番まではわずか10日間!その間、主催者であるメディアテークとアーティスト、協力団体であるアイサポート(パートナー)、みんミ(コーディネータ)が実施した準備は次のようになります。

メディアテーク(ミュージアム)、アイサポート(パートナー)、みんミ事務局(コーディネータ)のイベント当日までの動きと役割分担を図式化した画像。このうち、このレポートではとくにパートナーとコーディネータが行った活動を主に記載します。

■展覧会会場下見(1月11日)
アイサポートからはスタッフ2(見える1・見えにくい1)、利用者1(見えにくい1)、ボランティア2(見える2)、みんミ事務局2(見える2)が参加しました。ボランティアのなかに、元福祉センター職員で障害者スポーツに携わり、 視覚障害のある人との付き合いが40年以上(60代) という人がいたため、ここでは、とくにプレイを楽しむための道具の提案がなされました。それを、メディアテークとアーティスト、また会場運営を担うチームが当日までに準備することになりました。
・音が鳴るボール
・黒い床と色のコントラストをつけた白いパター
・ホール(穴)の位置を鈴で知らせるカップインガイド
・触わって確認することができる触図(会場全体版および各ホールごと)

■パートナー側の準備
・音が鳴るブラインドテニスのボールの用意:パターとの接触部が大きくなり打った感触が得られるため、既存のものを持参
・同行援護がつけられなかった人への対応:駅までは家族と一緒か一人で来てもらい、会場ではボランティアをアイサポートが手配
・視覚障害のある人の事前のグループ分け:全盲の人と弱視の人が偏らないように組み合わせ。ヘルパーさんの有無で人数分け
・オリジナルのルールブックの作成:下見の際、見えにくい人から「ゲーム性を楽しむルールにしてほしい」という声があがりました。そこでわかりやすく、1ホールあたり最大7打、ボールがホールアウトしたら打った位置に戻り再開、ボールがホールに入りやすくなるカップインガイドを希望者は使用可など

■コーディネータ側の準備
・下見で発生した各種道具の提案事項について、メディアテークとの連絡調整
・パートナー側から追加で提案された事項への、メディアテークとの調整:受付時の荷物の預かり方法、休憩用の椅子の追加、展示物の音響調整など
・当日の進行スケジュールの作成と共有:対パートナー/メディアテーク/取材メディア
・当日の取材メディアへの連絡調整:電話による事前説明、プレーを邪魔しない範囲での取材対応願など
・記録の撮影許諾:メディアテーク/取材メディア/一般参加者/みんミ事務局からの計4件

〜当日編「さあ、いよいよパターゴルフ。勝負の手がかりは音!?」〜
参加者は、見える人・見えにくい人(中途視覚障害/60〜70代)12人と同行援護者(ヘルパー) 7人、見える人7人 (大学生・社会人) 、ボランティア2人 でした。視覚障害のある人は、自宅や駅からヘルパーと、または盲導犬を伴って会場であるメディアテークに集合しました。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。プレーの説明をしている様子。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。プレーの説明をしている様子。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。実際にプレーを体験している様子。

参加者も関係者も少し緊張した面持ちでしたが、担当学芸員が会場のユニークな仕掛けをわかりやすい視覚情報で伝え、触察マップが回覧されると、次第にプレイへの期待感が高まってきたのか、ワイワイ楽しそうに雑談がはじまりました。アイサポートスタッフから道具やルールの説明がありいよいよプレイのスタートです。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。参加者が集まっている様子。

写真:渡邊博一

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。実際にプレーを体験している様子。

各グループは約4〜5人で、内訳は、見えない人・見えにくい人が2(人によりヘルパー有)、見える人が1−2、アイサポートまたはみんミのスタッフ(または運営ボランティア)が1という構成でした。グループに分かれて自己紹介したあとは、ホール毎に掲げられたアーティストによるコンセプトを読み上げ、さらに人により空間や障害物を把握し、歩きながらホールを体感、プレイを楽しみました。

はじまって早々に、大きな声で湧いたグループがありました。それは、ある見えない参加者がホールインワンを達成した瞬間! その後、すべての時間を通じて、会場内にはさまざまな音が聞こえていたように思います。それは、ホールの方向や距離がつかめるように鳴らされる鈴の音、実況中継のようにプレイヤーやボールの動きを説明する声、そしてプレイを称える(ナイスプレー♪)または労う声(ドンマイ)などです。

90分の時間で、全7つのうち3つのホールをまわりました。その後、参加者は再集合して、上位3人とブービー賞の発表が行われました。上位3人は、すべて見えない人・見えにくい人で、うち2人はホールインワンを達成したため、大きな拍手が送られ、大盛りあがりでした。

〜参加者の声(展覧会のアンケートより)〜
活動のあと、感想や振り返りを行いました。その一部をご紹介します。

■見えない・見えにくい参加者の声
・上り坂があったり凸凹があったりと、まるで人生の縮図を見たような気がする。
・いつもやっているスティックボールは単調だが、 コースが変わっていると楽しみ方も違う。
・大学生やいろいろな人と話ができて良かった。若返った。
・普段はアイサポートのメンバーとしか関わりがないので、また一般の人と一緒に活動したい。
・このような展覧会を知らなかったので、今後は わかるように発信してほしい。
・視覚障害者は、迷惑をかけないように「我慢しよう」「できないだろう」と遠慮することが多い。今回のようにでかけて行って、しかも「自分もみんなと同じようにできるんだ」ということがわかると気持ちがオープンになっていく。

■見える参加者の声
・まわりの高齢の方が自分たちより楽しんでいた。障害がハンデではないというのはきいたことがあるが、体験してみて、ハンデではなくプラスにもっていけるのだなということを体感した。一緒に楽しめて、こちらが元気をもらった。
・(グループのなかで相談してアイマスクをつけてプレイしてみた人)普段、視覚を遮断して段差とか乗り越えたり、ゴルフをしたりすることはない。いざやってみると、難しいし貴重な経験だった。しかし、楽しかった。ありがとうございます。

■パートナー(スタッフ・運営ボランティア)の声
・勝ち負けというよりもその場を楽しんでいたことが印象的。
・視覚に障害のある人たちがどんな楽しみ方をするのか気になっていた。さまざまな道具の工夫に驚いた。こちらもつい盛り上がってしまった。
・起伏に富んだコースがあり、段差が危ないと感じる場面もあった。パートナーを伴っての動きだったので未然に防ぐことができたが、見えない人にとっては大きなエネルギーを必要とする。危ないと感じたことが今後の行動に少なからず影響することもあるので、怪我を未然に防ぐ支援体制を感じた。
・下見に行って、見えない人に尽くしすぎるのではなく、アーティストの意向もあるということを考えながら当日のルールを決めた。

「勝負の手がかりは音!? 見えない人・見えにくい人と一緒にプレーを楽しもう!!」の当日風景。実際にプレーを体験している様子。

〜まとめと活動の意義〜
展覧会に来場する一般の晴眼者が60分以内に7ホールをまわっていたのに比して、このコンペでは90分で3ホールをまわったのにとどまった。アーティストの提示した「ままならさ」を体感するというコンセプトのスタートラインにたつまでに、事前の準備をここまで実施しても、なお、人にはそれぞれ、違う時間軸があるということを改めて考えさせられる。

事後の振り返りでは、メディアテーク側からは、当日の個人の道具の選択、ルールからはずれた遊びの体験などについては「もっとこうできたのではないか」という想いもでたが、展覧会そのものをつくる過程での対話や時間の確保、関係者の相互理解は、次回に持ち越したいと思う。

事後に印象的な出来事があった。それは、展覧会のあと約1ヶ月たったときに、パターゴルフに参加した方たち数名とアイサポートのスタッフとボランティアが、みんミ事務局を突然、訪問してくれたことである。きけば「ウォーキング」のプログラムで、(街なかにある)事務局を訪問してみよう!となったらしい。

見えない人・見えにくい人の感想からは、文化施設以前に、そもそも家から外にでることに躊躇し、彼らが「一般の人」と呼ぶ社会のさまざまな構成員と触れる機会を求めていることがみえていたため、展覧会という機会がみなさんの行動や気持ちの変化をつくったことが大きな価値であると思う。

ミュージアムから遠かった人たちが、地域に出て、ミュージアムに行くことができたこと、

現代美術に詳しくなくても「どうしたら楽しめるか」「体験できるか」を一緒に考える仲間や環境がでてきたこと、そして何より、ミュージアムの機能や体験について考えるきっかけが生まれたことがこのプログラムの価値ではなかったかと考える。

レポート:柴崎由美子(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー/NPO法人エイブル・アート・ジャパン)