【活動紹介】手話通訳付きギャラリートークの初開催にむけた協働~埼玉県立近代美術館~
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- 報告レポート
2025.01.21(火)
みんなでミュージアム(以下、みんミ)は、障害のある当事者コーディネーターとともに、ミュージアムとの環境づくりに取り組んでいます。2024年12月に、埼玉県立近代美術館で初めての試みとなる企画展の手話通訳付きギャラリートークが開催されました。みんミはこれまで、さいたま市内の複数のミュージアムと意見交換を実施してきました。聴覚に障害のある当事者が参加しやすいギャラリートークの継続実施を目指す埼玉県立近代美術館と協働し、アクセシビリティの向上に取り組みました。
みんミは、実施までに手話通訳士とともに美術館で会場の下見を行い、企画展「没後30年木下佳通代」の作品や照明の明るさの確認、ギャラリートーク(手話がついていない回)へ参加し、流れを確認しました。
美術館との打ち合わせでは、手話通訳士と学芸員の立ち位置の確認や、広報について協力先の情報共有、美術と手話プロジェクトとエイブル・アート・ジャパンが過去に作成した、聞こえない人・聞こえにくい人をはじめさまざまな来館者と美術館スタッフの対話をサポートする「コミュニケーションボード」の共有などを行いました。
当日は、聴覚障害のある当事者コーディネーター2人が手話通訳付きギャラリートークに参加し、終了後、美術館関係者や手話通訳士、みんミパートナー、みんミスタッフとともに意見交換を行いました。
今回は、みんミパートナーの野崎貴子(のざき・たかこ)さんに当日の参加とレポート寄稿をお願いしました。
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埼玉県立近代美術館で初めての手話通訳つきギャラリートークが行われた当日、開催中の企画展「没後30年 木下佳通代」の入り口には障がいのある人を含めた30人近くの参加者や美術館関係者が集まりました。
会場内では、作品の脇に学芸員と手話通訳士が立ち、株式会社ジャパンディスプレイの機材協力のもと、学芸員の話した内容がリアルタイムで字幕表示されるディスプレイ(レルクリア)がその近くに置かれました。ほとんどの参加者が離れ気味に立つ中で、一人の男性が近くに立ったり、しゃがんで見上げたり、周辺に気を使いながらディスプレイの情報保障を利用していたのが印象的でした。
担当学芸員による作品解説は1時間近くにおよび、その後に行われた振り返りの会は、みんミから参加した聴覚障害のあるコーディネーターの西岡さん、寺門さん、みんミ事務局スタッフ、パートナー(私)、埼玉県立近代美術館の職員3人、さいたま市立漫画会館から学芸員1人、ディスプレイを開発された株式会社ジャパンディスプレイから2人と、大勢が意見交換を交わす場となりました。
西岡さんと寺門さんからは、「事前に作品を見ない状態で、初めて作品を鑑賞しながらギャラリートークに参加する聴覚障害のある当事者は手話通訳や文字情報と作品を同時に見ることが出来ないので、作品を見る時間と手話や文字情報を見る時間を分けてほしい」「今回は、みんなでミュージアムを通じて、美術館での手話通訳に経験がある人と実施したが、今後は継続して実施するためにぜひ埼玉県のいくつかの協会に呼び掛けて、地域の美術やミュージアムに関心のある手話通訳の人に関わってほしい」などの意見がありました。
美術館側からは、最初に「ギャラリートークが始まる前に会場入口で参加者にアンケート用紙を配った際、西岡さんから『(アンケート用紙を持つことと)手話を同時にできないので今は受け取れません』と言われて気づきを得た」ことや、西岡さんや寺門さんに「美術鑑賞の情報はどんな方法で探すのですか?」といった質問が出ました。株式会社ジャパンディスプレイの開発者からは、「最近では公的機関で設置が進んでいるものの、使用方法が複雑なため現場で使われる機会が少ない」ことや「今後、より使いやすい形状に改善していく方向である」ことが発言されました。西岡さんは更に、「特定の障がいのある人を対象にしたギャラリートークやイベントもあるが、障害の有無で分けてしまうのではなく、様々な人が混ざり合う中でともに鑑賞することが楽しい。次回はぜひ準備段階から障害のある当事者にも参加してもらい、意見を聞いてほしい。何か質問があれば、気兼ねなく自分たちに連絡してください」と、発言され、振り返りの会は締めくくられました。
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埼玉県立近代美術館 企画展「没後30年 木下佳通代」展
https://pref.spec.ed.jp/momas/2024kinoshita-kazuyo
コメント寄稿:野崎貴子(ミュージアム・アクセス・パートナー)
執筆・編集:渡邊遥(みんなでミュージアム事務局)
写真:©︎三輪浩光