【活動紹介】「当事者コーディネーター」として研修に参加した感想〜横浜市民ギャラリー〜
- 報告レポート
2023.11.20(月)
みんなでミュージアム(以下、みんミ)は、障害のある当事者コーディネーターを対象とした研修を実施しています。この度、「ミュージアムのイベントへの参加経験を増やし、ミュージアムへの理解を深める」ことを目的に、横浜市民ギャラリーで開催された展覧会「新・今日の作家展2023ここにいる」と、関連イベント・対談「喪、庭、生きること―日常について 」を体験し、気づいたこと、感じたことをフィードバックする研修の機会を設けました。
当事者コーディネーターとして研修に参加した、岩田ゆず子さんから感想をいただきました。
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当事者コーディネーターとして参加した感想
障害当事者として参加させていただいたコーディネーター研修は、目に見えないこの障害特性をどのようにミュージアムや観客と共有していくか、地道な作業の最初の一歩になったと感じました。
私は幼い頃から美術が大好きで、高校から専門の学校で学び、卒業後もこの分野での仕事に携わってきました。これは自閉スペクトラム症の特性でもある、強い興味を持つものへの行動力の現れでもあります。その特性から、学生時代から「なりたい仕事」が明確になり、様々な場所にアタックしていく中で、この時代に求められる高度な仕事スキルが、発達障害を持つ者にとっては、どうしても向上出来ないことがあると分かりました。そして、ある時から「私は、美術の現場に携われないのではないか」と次第に落ち込むようになりました。
精神的に限界を感じ始めた頃、信頼する方々に自身の発達障害をカミングアウトした時に、「環境は自分で変えていこう!」と力強くアドバイスをいただいたことで背中を押され、障害をカミングアウトしながら発信、社会に貢献する方やプロジェクトを探し始めました。その頃に、私の特性とこれまでのキャリアを見てくださった、エイブル・アート・ジャパンスタッフの方から、「みんなでミュージアム」についてお教えいただき、直感的に「これは、私が出来ることだ!」と目の前が明るくなったことが、コーディネーター登録への大きな動機になりました。
横浜市民ギャラリーで行われた研修では、毎年、この市民ギャラリーで開催されている「新・今日の作家展」、今年は現代美術家の来田広大 さん、古橋まどかさんの作品が紹介されており、人の記憶が染み込む場にフォーカスする作品を前にして、私は当事者にとって、「いまこの場にいない他者を想う」「生と死」「自身が不動時に救われるもの」など、深いワードが静かに浮かんでいきました。自閉症スペクトラム症は、「共感性に乏しい」と捉えられる特性を持つ当事者もいらっしゃいますが、このような作品を目の前にした時に、「他者を想う」トレーニングにもなるとも感じました。授業や診察ではじっと聞いていられない、集中が途切れてしまう、そんな当事者も、展示室を自分の足で巡り、作品に「出会う」作業は、新たな気づきが生まれていく場にもなると思います。
今後の「みんミ」では、発達障害当事者で研究も行っている方、専門研究の方も交えての展覧会における研修、座談会、自助会や就労移行支援事業所への出張授業など、この特性当事者とミュージアムが出会える場作りを活発に行っていきたいと思っています。
文:岩田ゆず子
写真:ナガセ ユウヤ