ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

パートナーの役割は? 「障害のある鑑賞者とパートナーの鑑賞体験」レポート

  • 報告レポート

2023.12.12(火)

「ミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)」とは、ミュージアムに行きたい障害のある人やその支援者に伴走して、ミュージアム体験をともにつくる人。みんなでミュージアム(以下、みんミ)では、このパートナーを募集し、少しずつ活動を広げています。具体的な活動のプロセスは? 実際にどんなことをするの? みんミにはこうした問い合わせも多くあります。そこで今回のレポートでは、2組の医療的ケア児の親子と一緒に神奈川県川崎市にある科学館を訪れるケーススタディを通し、パートナーの活動を紹介していきます。レポートを担当するのは当日同行した、みんミ事務局の平澤咲(ひらさわ・さき)と原衛典子(はらえ・のりこ)です。
ミュージアムでの鑑賞の様子

■オンラインでのヒアリングと、プロフィールシート
パートナーの活動はみんミでもまだ始めたばかり。今回は、前年度からみんミに関わっている2人にお声がけしました。多様な人との対話を通した作品をつくっている井上幸子(いのうえ・さちこ)さん、ミュージアムでのプログラム経験を持つ南もえ子(みなみ・もえこ)さんです。2人とも日頃から写真や演劇などの表現活動に携わっています。井上さんは障害とアートへの関心から、また南さんはご自身が関わるミュージアムの来館者応対で課題を感じられていることなどから、みんミの活動に参画。お声がけすると「ぜひやってみたい」とすぐにお返事がありました。

鑑賞体験に参加したのは同じ支援学校に通う同級生、齋藤幸太(さいとう・こうた)さんと、浦野昊陽(うらの・こうひ)さん、そしてそのお母さんたち。幸太さんも昊陽さんも車椅子やストレッチャーで移動し、重度の心身障害があります。

10月の日曜日、神奈川県川崎市の生田緑地にあるかわさき宙(そら)と緑の科学館(以下、科学館)を訪れました。この科学館は本物の星空を体感できるような、世界最高水準の「新型メガスター」というプラネタリウムが人気です。

「MEGASTAR-Ⅲ FUSION(メガスター・スリー・フュージョン)」の画像

世界唯一の投影機「MEGASTAR-Ⅲ FUSION(メガスター・スリー・フュージョン)」で、解説員による星々の解説を生で聞けるのも特徴

パートナーとの鑑賞体験では、「どこに行きたいか」「何を見たいか」という鑑賞者の声を最初にみんミ事務局のほうでヒアリングします。鑑賞の1カ月ほど前にオンラインで初めて親子と顔合わせをし、どんな鑑賞体験にしていくかを相談しました。体調のこと、好きなことや苦手なことといった普段の様子、パートナーに知っておいてほしいこと、行ってみたいけれど行きづらいミュージアムのことなど、画面越しに表情を見てお話をすることができました。みんミの活動はこれまで知らなかったそうですが、「当日をたのしみにしています。いろいろ知りたいです」と前向きに語られました。

浦野昊陽(左)さんと齋藤幸太(右)さんの画像

浦野昊陽(左)さんと齋藤幸太(右)さん

こうした打ち合わせと並行して、事前にパートナーと鑑賞者がそれぞれプロフィールシートに記入し、それを交換します。鑑賞者側・パートナー側とも、「一緒にみに行く人に知っておいてほしいこと」「いつも または ときどきやっていること」「これから経験してみたいこと」といった項目があり、お互いの普段の様子や鑑賞者の心身の状況などを知ることで、安心して当日を迎えることを目指しています。今回はプロフィールシートを交換するだけでなく、オンラインでパートナー2人と鑑賞者2組の顔合わせをする機会も予定していました。急遽予定が変更となり実現できませんでしたが、みんミ事務局スタッフからプロフィールシートをもとに口頭でもお伝えをしました。

幸太さんとお母さん、パートナーの南さん、みんミ事務局スタッフで歩く様子

生田緑地の駐車場から、かわさき宙と緑の科学館まで緑豊かな道を歩く。急坂のため休憩しながら向かった。

■会場の下見のポイント
もう一つ、準備で重要なのが下見です。パートナーと事務局スタッフで、行き先の下見をしました。会場がどんな場所か見ておくだけではなく、鑑賞者の事前情報からどのように過ごすとよりよい鑑賞ができるかという視点で確認し、パンフレットやウェブサイトからわからないことを実際に体感。さらに不明点などはミュージアムのスタッフにききました。

[下見で確認したポイント]
・駐車場やタクシー乗り場などからのルート
・混雑具合
・見どころ(触れるものがあるか、一緒に見て楽しそうなもの)
・トイレや休憩場所などの館内設備
・会場内ルート

[科学館に確認したこと]
・プラネタリウムは途中退場できるか
・プラネタリウム内でのコミュニケーションは可能か
・記念撮影を一緒に撮れるか

かわさき宙と緑の科学館の入り口の様子

かわさき宙と緑の科学館の入り口。自然・天文・科学に関する展示や観察会、体験学習を行う川崎市唯一の自然系博物館

■集合場所とあいさつ
こうして入念に準備をして迎えた当日。鑑賞者2組は自家用車で、パートナー2人は公共交通機関で訪れました。科学館は、生田緑地の東口駐車場から徒歩で約7分、坂をのぼった丘の上に立っています。集合場所は、東口駐車場横にある東口ビジターセンター(総合案内所)前の広いスペースにしました。

パートナーが待っていると、齋藤さんと浦野さん親子がそれぞれ車で到着。「はじめまして」とお互いにあいさつすると、昊陽さんは車椅子の上で手足を動かしている様子。お母さんいわく「緊張しているかもしれません」とのことで、表情は少し固まっているように見えました。幸太さんはストレッチャーに横向きに寝ていたため、パートナーがしゃがんで顔の様子をそっとのぞき、あいさつします。

そのまま6人で、まだ青々とした木が茂る坂道をのぼります。ストレッチャーには機器やたくさんの荷物を積んでいます。途中で少し休憩をしながらゆっくりと歩き、科学館の入口にやってきました。

科学館に入場する昊陽さんの様子

入り口でチケットを購入。緊張していた昊陽さんも笑顔に。お母さんによると「以前来たときに楽しかった場所だったことを思いだしたのかも」とのこと。

■プラネタリウムの鑑賞
入り口でチケットを購入し、お手洗いを済ませました。今回はプラネタリウムの鑑賞をメインに、その後、展示室をまわります。まずはプラネタリウムの開場時間を待ちました。館内には車椅子のまま鑑賞できるシートが2席あり、誘導してもらいます(※)。パートナー1人と鑑賞者親子の3人1組のグループにわかれ、それぞれシートに座ります。当日は日曜日でしたが、運よくシートに余裕がありました。幸太さんの隣に南さんが座り、お母さんはあえて1席空けたシートでゆったりと見ることに。昊陽さんはお母さんの膝の上で抱えられながら鑑賞しました。井上さんもそばに座って3人でお話する様子は、先ほどよりも表情がやわらぎ笑顔が見られました。

※投影位置の関係で座れるエリアを限定して上映するプログラムのため、車椅子のまま鑑賞できる席が1つになってしまうが、事前に施設担当者に確認し、お客さんが座らないエリアに場所を広くとってもらい鑑賞ができた。

プラネタリウムの館内で、幸太さんの隣に南さんが座り、お母さんは1席空けたシートに座る様子

ゆとりのある席でプラネタリウムを鑑賞

いよいよ45分のプログラムがスタート。星々が見えはじめると「わあ」と小さく感嘆の声があがります。プラネタリウム解説員が、当日の夜にはどんな星がみえるのか、また星の模様をおやつに例えたりしながら星の大きさや特徴などをライブで説明します。解説員の説明がないタイミングでは、目が見えづらい幸太さんに、パートナーが小さな声で星の様子を語りかけました。そして後半は、映像作品で宇宙のはじまりから終わりまでのストーリーを鑑賞しました。

展示室で鑑賞する様子

パートナーの南もえ子さん(左)と齋藤さん親子(右)。展示室には川崎にいる生き物が標本や写真で展示されている

■屋内外の展示を堪能
館内は、プラネタリウムのほかは無料で入場でき、川崎の動植物の標本や地層断面の模型、天体の写真などが展示されています。パートナーと鑑賞者親子はプラネタリウムのグループのまま、それぞれ自由なペースで展示物をみてまわりました。屋外にはD51形蒸気機関車(デゴイチ)や70年以上前に製造された国鉄の客車が設置されています。昊陽さんが電車好きだと聞いたこともあり、全員で屋外に出て、2つの車両の端から端までぐるっと歩いてまわりました。お母さんたちからは「学校だとこんなにゆっくり見られないんですよね」とコメント。プライベートのため、おしゃべりもしながら見る時間を長めにとることができました。

展示室で鑑賞する様子

パートナーの井上幸子さん(左)と浦野さん親子(右)。

最後に機関車の前で記念撮影をして、振り返りのインタビューをしたあと駐車場で解散。こうして約2時間の科学館の鑑賞は終了しました。
屋内外の展示を鑑賞する昊陽さんとお母さん、井上さんと、みんミ事務局スタッフの様子

■1日を振り返って。鑑賞者とパートナーへのインタビュー
鑑賞が終わったあと、パートナーの2人と鑑賞者のお母さんたちに感想を伺いました。みんミではパートナーの活動がケーススタディの段階でもあり、齋藤さんと浦野さんにはアドバイスももらいました。

[鑑賞者]
・齋藤美千代さん(幸太さんのお母さん)
「これまでミュージアムに行ってみたいと思っていても、この子がいるからやめようかなと気持ちを引っ込めていましたが、今回のように一緒に行ってくれる人がいると選択肢が増えて、行くきっかけになります。
今日参加してみて、またミュージアムに行ってみたいですね。子どもの体調や服薬の時間もあり、1日かけてまわるのは難しそうですが、30分から1時間くらいで移動できる場所で、たとえば午前中に展示をみて、お昼を食べて帰る感じだとまた行けそうです。下見をしていてくださったこと、すごいなと思いました。下見のポイントとしては、幸太や昊陽くんは医療的ケア児のため、たとえばトイレではおむつが交換できるか、エレベーターにストレッチャーが入るかなどが下見のポイントになるでしょうか。
パートナーさんとは初対面でしたが、幸太は比較的緊張していなかったようでした。大人数で過ごすときのほうが変な力が入ってしまうようで、今日はリラックスできたようです」

・浦野明子さん(昊陽さんのお母さん)
「当事者の身内ではない第三者の方が一緒に行ってくれることがありがたいと思って、今回は参加しました。事前に下見をしてくださっていたのがまず驚きました。場所の確認をしてくださっていたので頼りになります。また、科学館側も対応に慣れている様子で安心して鑑賞できました。
昊陽は人見知りをするため、(今回は予定変更でかなわなかったですが)事前に顔合わせできていると、より早く緊張がほぐれるかもしれません。そういう意味では、毎回同じパートナーさんと関係性をつくっていくのもいいですね。
パートナーさんたちは、短時間でどんな子かを知るのが大変だったと思います。プロフィールシートの情報も、今回は体の状態についての記入欄がなかったのですが、たとえば胃ろうであるとか、時々けいれんもあるなど、もっと詳しく知っておいてもらってもよかったなと思いました。ぜひまた機会があればパートナーさんと一緒に鑑賞に行きたいです」
鳥類の写真を鑑賞する昊陽さんとお母さんの様子

[パートナー]
・井上幸子さん
「自分に何かできることがあればと参加したのですが、実際は一緒にいて学ばせてもらうことが多かったです。お子さんの表情や手足の動きなど、全身から楽しいという表現を感じました。それは私が一人で鑑賞するときには感じられない経験です。最初は緊張されていましたが、徐々に表情がおだやかになり、少し受けいれてもらえたかなと感じました。
一人で鑑賞するときとは違う発見がある点にやりがいがあると感じており、また機会があればパートナーをやりたいです。一人ひとり違うからこそ、誰かと一緒に見る経験を自分自身が積み重ねることで、さまざまな人への接し方、パートナーとしてのアウトプットも変わると思っています」

・南もえ子さん
「美術館の勤務で障害のある人からの要望が多く『行きたいときに行く』ことを自分でも何かお手伝いできたらと思って今回参加しました。(急遽参加者の変更があり情報提供が直前になったことから)準備期間が短かったため、家族がどう楽しみたいか、どんなことをしたいかといった情報が事前にわかっているとなおよいかもしれません。何を目指すとよいかが明確になっているとお互いに満足度が高いのかなと。ただ、お母さんから『集中して楽しめる』というコメントをいただきほっとしました。またプラネタリウムへの誘導など科学館のスタッフの方々の配慮が、ありがたかったです。
今回のような活動をこれからも続けていきたいです。公共施設で働いているので多くの学びにつながり、受け入れる側の仕事にも還元できるなと思っていますし、コーディネーターとして関わることにも興味があります」

■パートナーの可能性
実は今回は、行く場所や日時、一緒に鑑賞するパートナーが決まったあとに、当初鑑賞を希望していた方がご家族の都合や体調により参加が難しくなり、齋藤さんと浦野さんを紹介いただいた経緯があります。事務局としては、やむを得ない事情によるこうした予定変更も考慮に入れることが重要だと実感しましたが、初対面でも一緒に同じものを鑑賞して、共に時間を過ごすことで徐々に打ち解けていき、和やかな空気になっていった印象でした。また双方へのインタビューを通じて、可能な限り当事者とパートナーの事前の顔合わせの機会を設け、情報共有を充分に行うことで、鑑賞者の安心感や満足感、パートナー自身の達成感や学びも得られると改めて思います。

医療的ケアが必要な方のご家族は日々のケアで精一杯なこともありますが、今回のようにパートナーを軽やかに利用できる仕組みがあると、活動を広げてミュージアムに訪れる機会につながりそうです。

みんなでミュージアムでは、活動をともにするパートナー・コーディネーターを募集しています。
パートナーの井上さんと南さん、浦野さん親子、齋藤さん親子との集合写真。D51形蒸気機関車の前で。

文:平澤咲、原衛典子(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー/エイブル・アート・ジャパン)
写真:ナガセ ユウヤ
編集・構成:佐藤恵美