ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

パートナーの役割は?「障害のある鑑賞者とパートナーの鑑賞体験」レポート2

  • 報告レポート

2024.04.18(木)

「ミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)」とは、ミュージアムに行きたい障害のある人やその支援者に伴走して、ミュージアム体験をともにつくる人。「みんなでミュージアム(以下、みんミ)」では、このパートナーを年度ごとに募集しています。東京の三鷹市にある、三鷹の森ジブリ美術館(以下、ジブリ美術館)での鑑賞体験を通じて具体的な活動のプロセスを紹介していきます。体験に参加したのは、エイブルアート芸術大学(※)に通う関根さんと、その友人の雨宮さん。パートナーは中村さんと、みんミ事務局スタッフの平澤さんです。このレポートでは、前半はジブリ美術館を訪れたときの様子、後半はパートナーの振り返りについて書いています。

※NPO法人エイブル・アート・ジャパンが主催するアトリエ活動

ジブリ美術館の屋上庭園のロボット兵の前で会場パンフレットを広げる関根さんと平澤さん。

初めて訪れた、三鷹の森ジブリ美術館

雪が残る冬晴れの平日。参加者2人との待ち合わせは13時でしたが、パートナーの中村さんとみんミ事務局スタッフ平澤さんは2時間前に集合し、最寄駅から美術館までのアクセスの確認や会場の下見をしました。予約制の美術館のため館内に入れないものの、受付のスタッフに施設内のマップをもらい、ロッカーやトイレの場所、階段やエレベーターの位置、休憩できるスペースなどをきいて確認をとりました。

そして待ち合わせの時間になると、雨宮さんと関根さんがジブリ美術館にやってきました。学年は違うものの2人は小学校からの幼馴染。普段から一緒に出かけることもありますが美術館は初めてです。

数日前に4人はオンラインで顔合わせをして、プロフィールシートを見ながらお互いの自己紹介をしました。中村さんは普段、臨床発達心理士として働きながら文化ホールの教育プログラムを担当しています。平澤さんは福祉事業所のスタッフなども務めています。

美術館入り口にて。左から雨宮さんと中村さん、関根さんと平澤さん。

まずはパートナーが事前に予約していたチケットを入り口で見せて館内へ。受付では館内のパンフレットとミニシアターが見られる上映券がもらえました。荷物を預けたあと「どこへ行こうか」と4人で相談します。率先して地図を広げた関根さんは「最初にネコバスを見に行こう」とリーダーシップを発揮。ネコバスのある最上階へはエレベーターで移動しました。

コインロッカーの前で会場パンフレットを囲んで計画を立てる4人の様子。

関根さんが手に持つ会場パンフレットを囲んで計画を立てる4人の様子。

コインロッカーの前で会場パンフレットを囲んで計画を立てる4人。館内では雨宮さんと中村さん、関根さんと平澤さんがペアになり鑑賞。

次にジブリ美術館でフォトスポットとなっている屋上庭園のロボット兵を見に行きました。屋上へのエレベーターがないため、階段が苦手な雨宮さんは中村さんと階段の下でお留守番。「ちょっとこわい~」と階段を上がる関根さんの後ろからそっと手を添えながら平澤さんは付いていきます。約5メートルあるロボット兵の前では2人で記念写真を撮ることができました。

屋上庭園に向かう螺旋階段を上がる関根さんと、その後ろからそっと手を添える平澤さんの様子。

ロボット兵の前に記念撮影をする関根さんと平澤さん

関根さんと平澤さんは螺旋階段で屋上へ行き、ロボット兵の前で撮影。

次に地下1階にあるミニシアター「土星座」の上映まで少し時間があったので、近くの常設展示「動きはじめの部屋」へ。ペアになって、それぞれのペースで鑑賞しました。
映像の歴史が、絵や立体作品などを用いながらわかりやすく紹介されています。となりのトトロのキャラクターが動く、立体ゾートロープ「トトロぴょんぴょん」も。雨宮さんは「キキがいるね」「トトロもいる」と中村さんに話しかけ、好きなキャラクターの話で盛り上がります。

そして「土星座」で15分ほどの短編アニメ『コロの大さんぽ』を堪能したあとは常設展示「映画の生まれるところ」を鑑賞。最後にショップでグッズを購入して、約2時間の美術館鑑賞は終了しました。

屋外での記念撮影。左から中村さん、雨宮さんと、関根さん、平澤さん、みんミ事務局スタッフの5名が横に並ぶ。

最後に記念撮影。同行したみんミ事務局スタッフ(右)も一緒に。

その後にお茶を飲みながら関根さんのお母さんも交えて1日を振り返りました。お母さんもエイブル・アート芸大にお子さんと一緒に参加しています。
「娘が美術館に行くことで次に描くものが変わるかもしれないと美術に詳しい方からアドバイスいただいたこともありましたが、私が詳しくないのであまり連れていってあげられませんでした。そのなかでみんミの活動に参加することで、娘の創作に少しでも影響するといいなと思って。今度はまた別の美術館にも今回と同じパートナーの人と一緒に行かせてあげられるといいなと思っています。」とみんミの活動に期待を寄せました。

バス停に停止する黄色いコミュニティバスに乗り込む様子。

帰りは美術館から三鷹駅までコミュニティバスで移動

パートナー自身もミュージアムを楽しむ

後日、パートナーの二人は振り返りの会を設けました。みんミ事務局スタッフでもある平澤さんが進行しながら、中村さんと一緒に体験を振り返ります。どの展示でもペアだった雨宮さんの好きなキャラクターを一緒に探していた中村さん。 ショップでお目当てのものが見つからなかった雨宮さんは「店員さんに聞いてみよう。どの店員さんなら話が聞けるかな。」と一緒に探したそうです。結局その商品は置いていなかったのですが別のお土産を買うことができ、雨宮さんと喜びました。

手こぎポンプを眺める雨宮さんと中村さん。中村さんとが手こぎポンプに触れている。

中庭には手こぎポンプの井戸も

一方で普段の臨床発達心理士の仕事では「達成目標」がありますが、今回のパートナー実践でもパートナーを利用する本人が「何を体験したいか」、親が「何を体験させたいか」という希望をもう少し深く聞くことで、また違う体験になるかもしれない、といいます。みんミでは、障害種別や行動のこだわりまではあえて踏み込まず「活動を楽しむこと」「臨機応変な対応ができる柔軟性」「ともにつくること」を重視しています。ただ、活動を2年間続けていくなかでパートナー自身が参加者のことを詳しく知りたかったり、参加者自身が知ってほしかったりするケースもあり「お互いにどんな情報を知れたら体験がより充実したものになるか」が今後の大切なポイントだと平澤さんは活動への思いを伝えました。

屋外のスペースで過ごす4人の様子。

また中村さんが印象に残っているのが、体験後に関根さんのお母さんが話していた、「自分では選ばない場所に行くことができること」、「第三者と体験をともにできること」。それがみんミの可能性であり、支援を必要とする人にとって「いろいろな人の関わりが大事」だと感じたそうです。「行ったことのない美術館で新しい体験をして、それを参加者やもう一人のパートナーと一緒に共有することができて、私自身も1日を心から楽しみました」と体験を振り返りました。

みんミはこれまでも軽やかな活動を意識してきました。大きな達成目標はないけれど、等身大の自分で参加することができて、一緒にいる時間を楽しむことを大事にしています。めざすのは「支援する」「支援される」の関係ではなく、ともに学び合い、気づき合う関係性。その先にミュージアムの新しい可能性が広がっているのかもしれません。

 

文・写真:佐藤恵美