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目次:活動の記録

ヒアリング調査レポート1[障害当事者編] 井戸本将義/光島貴之

  • 調査レポート

2022.08.31(水)

レポートの第1回は、視覚に障害のある井戸本将義さんと光島貴之さんです。ともにアートが好きで、1年に数回は展覧会に足を運ぶという井戸本さんと光島さん。2人に共通するのは、ミュージアムには必ず誰かと一緒に行っていること、そして対話型鑑賞やさわる鑑賞を取り入れていることです。「障害当事者編」では大きく2つの質問を用意し、普段の美術鑑賞で工夫していることや困っていること、また「みんミ」の構想について、オンラインでお話しを伺いました。

写真:ヒアリングの様子(左:井戸本将義さん/右:光島貴之さん)

プロフィール

井戸本将義(いどもと・まさよし)
神奈川県在住。目の前で手が動くのが分かる程度の視覚障害。日常生活では、ほぼ目を使わずに、音や触覚で物を判断している。美術鑑賞は2019年ごろから「六本木アートナイト」のインクルーシブ・ツアーなど、視覚に障害のある人と見えている人の対話型の鑑賞会に参加するようになり、少しずつハマり始めている。

光島貴之(みつしま・たかゆき)
1954年京都府生まれ、在住。10歳頃に失明。大谷大学文学部哲学科卒業後に鍼灸院開業。鍼灸を生業としながら、1992年より粘土造形、1995年より製図用ラインテープとカッティングシートによる「さわる絵画」の制作を始める。1998年「‘98アートパラリンピック長野」大賞・銀賞を受賞。2001年に「ミュージアム・アクセス・ビュー」の活動に参加し、対話型鑑賞に関わる。2020年にギャラリーと制作場所を兼ねた「アトリエみつしま」を開設し、対話をベースとした鑑賞などを行っている。


A 美術鑑賞で困っていることや、展覧会の情報収集の方法を教えてください。また困っていることをどのように解決していますか。

―日頃からどのように美術鑑賞を楽しんでいますか。

井戸本:ぼくは基本的に視覚障害者も参加できる対話型鑑賞会などのイベントを見つけて、誰かと一緒に行っています。そのほか気になる展覧会を見つけたときに「行ってみたい」と思っても、美術館に問い合わせるのは非常に稀です。問い合わせるときも「説明をしていただけますか」というよりも「現状を楽しめますか」というニュアンスで聞きます。彫刻の展覧会で「どのくらいさわれそうですか」と事前に聞いたことはあります。視覚障害者を対象にしたイベントがないけれど、行ってみたい展覧会を見つけたときには「視覚に障害があっても楽しめるか」という情報収集が必要なので、ミュージアムに行くまでのハードルは高い印象はあります。

光島:40年ほど前から作品を見に行くようになりました。はじめは作品にさわることができるギャラリーを探し、その後自分で制作するようになったので、美術館に積極的に行くようになりました。問い合わせることもあります。まずはさわれるかたずねて、さわれない場合は「一緒にまわりながら説明していただけますかと聞くこともあります。それから兵庫県立美術館のさわれる展示「美術の中のかたちー手で見る造形」シリーズには毎年行くようにしています。ただし一つの展覧会に時間をかけるので、見える人のように1日に3〜4つはまわれないですね。ぼくも行くときは誰かに声をかけて一緒に行っています。アート好きの友人や知り合いがいて一緒に行けるので恵まれた環境だと思っていますが、一人で行くのは難しいです。

―展覧会の情報はどのように集めていますか。

井戸本:「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の情報で行こうかどうかを考えています。または、そこで知り合った方からの情報です。あとはインターネットで調べて気になったものがあれば行っています。

光島:展覧会に行くきっかけで一番多いのは、個人的なつながりから得る情報です。知り合いのアーティストやアトリエのスタッフと雑談しているなかで「この展示、面白いよ」という話が出て興味を持つことが多いです。「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のメールマガジンも読んでいます。

―鑑賞にあたり困っていることや工夫していることはありますか。

光島:コロナ禍になり、さわっていい展示で手袋を使用することになりました。仕方ないことですが少し残念です。薄い手袋なので点字は読めますが、材質や触感がわかりにくくなります。形は認識できるのですが……。解決方法として、たとえば消毒ができる素材のサンプルを事前にさわり、そのあとで作品をさわるとよりイメージしやすくなるのでは、と思います。

井戸本:ぼくの場合、基本的に誰かと鑑賞するのが前提となっています。それは友人だったり、美術館のスタッフだったりいろいろ。ですので、仲間を増やすことや興味がある人をどれだけ巻き込めるかが重要と考えています。一緒に行った人にとっても、見えない人と鑑賞してよかったな、というプラスな部分があると次につながっていくと思っています。

B 「みんなでミュージアム」の取り組みについて、ご意見をお聞かせください。

ミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)という仕組みについて、どのように思われますか。

光島:必要だと思いますが、初めてその仕組みを利用するときは、パートナーの情報と利用する側の情報が事前に共有できたほうがよいと思います。初めての相手の場合、バックグラウンドをお互いに知っていたほうがスムーズです。それから1対1というよりも、見えない人1人に対し、見える人が2〜3人いてもらえると安心です。

井戸本:ぜひ利用したい仕組みだと思います。ぼく自身、どうやって美術館に行こうかというアクセスの部分で苦労しているからです。障害者側のメリットとして、美術館に行きやすくなるという点がありますが、パートナー側のメリットもあるとお互いに良いと思います。

―ボランティアではなく、有償の仕組みにできないかと考えているところです。

井戸本:パートナーにとってやりがいもあるといいなと。利用する側ばかりが楽しむのではなく、お互いに楽しめるといいなと思います。

光島:有償により、サービスを受ける/与えるという関係性になることには少し不安もあります。最近ヘルパー制度を使うようになり、ヘルパーさんと鑑賞に行くことがありました。美術が好きそうな人に声をかけても、その方が鑑賞の専門家ではないですし、必ずしもお互いに楽しめるとは限りません。事前のレクチャーなども重要ですね。

井戸本:美術系の大学や研究室を巻き込んで、さまざまな鑑賞方法があるということを共有しながら、学生にパートナーになってもらうのも一つかもしれません。

ミュージアム・アクセス・コーディネーターについてはいかがですか。

光島:必要性は感じつつも、何がどのように必要か、というのはピンとこないのが正直なところです。

井戸本:ぼくも仕組みとしては必要だと思いますが、ぼく自身がミュージアム側ではないこともあって、具体的なイメージが難しいです。ただ、各館で情報共有できる仕組みや機能があるといいなと思います。先日ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡県)に行きましたが、「NaviLens(ナビレンズ)」という専用アプリでQRコードに似た四角形のタグを読み込み、スマートフォンのカメラを使って情報を得られる簡単な仕組みを導入していて、鑑賞がしやすくなりました。杖で確認しながら順路を進めるレール・ガイドも設置されていて、真剣に取り組んでいる印象でした。そうした良い取り組みを共有できるといいですね。

―アクセシビリティの状況が分かるウェブサイトなどがあれば利用しますか。

光島:以前、アート系の情報サイトでメーリングリストを購読していましたが、情報が多すぎて見なくなっていきました。全国各地の情報が網羅されているよりも、知っている人がオススメしてくれる展覧会のほうが行きたくなる気がします。情報がたくさんあって、検索ができる状態よりも、口コミのほうがいいのではないかと。

―そのほか、「みんなでミュージアム」に期待することがあれば教えてください。

井戸本:ふと思い立ったとき、少し時間があいたときなどに、「ふらっと美術館にいってみよう」と気軽に動ける状況になるといいなと思います。

光島:最近のミュージアムは、カフェやショップにも力を入れています。そういうところも楽しめたらいいなと思います。ぼくはアートをみたあとは、コーヒーとケーキを食べて帰りたいです(笑)。


令和3年度 障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)
「〜いつでも、だれでも、どこへでも〜『ミュージアム・アクセス・センター』設立事業」
ヒアリング調査より構成[2021年10月20日/オンライン(Zoom)]

聞き手:みんなでミュージアム プロジェクトメンバー、エイブル・アート・ジャパン
構成:佐藤恵美

※2021年に活動をスタートした「みんなでミュージアム(愛称:みんミ)」は、「人」と「システム」に焦点を当てた2つのワーキンググループを立ち上げ、ヒアリングとインタビューを行いました。これは、調査のなかから、障害当事者や鑑賞の支援者に向けたヒアリングの内容を、編集して紹介するレポートシリーズです。