ヒアリング調査レポート2[鑑賞の支援者編]後編
- 調査レポート
2022.11.28(月)
障害のある人のパートナーとして鑑賞を支援する活動を行う5名へのヒアリングをまとめました。発達障害のある息子をもつ橋口亜希子さん、手話通訳士としてアートの現場でも活動する和田みささん・宮原二三弥さん、視覚障害のある人との鑑賞プログラムや制作のサポートを行う佐藤麻衣子さん・高内洋子さんに話を聞きました。
前編:https://minmi.ableart.org/activity/report_interview2_1/2022/
プロフィール
橋口亜希子[はしぐち・あきこ]
発達障害のある息子がいる母親として、ブログやSNSなど自身のメディアで経験を発信。ユニバーサルデザインのコンサルティングを行っている。おもな著書に『そのママでいい』(中央法規出版、2020年)。https://hashiguchi-akiko.com/
和田みさ[わだ・みさ]
手話通訳士、盲ろう者向け通訳・介助員、訪問介護員。「美術と手話プロジェクト」創立メンバー。サインコミュニケーターとしてアート関連の手話通訳に携わっている。
宮原二三弥[みやはら・ふみや]
手話通訳士、放課後等デイサービス児童発達支援管理責任者、Tele Sign(テレサイン)代表。妻に聴覚障害があり、手話通訳士や聴覚障害者の相談員としても活動。京都府在住。
佐藤麻衣子[さとう・まいこ]
水戸芸術館現代美術センターの学芸員(教育普及担当)を経て、フリーランスのアートエデュケーターとして活動。見えない人との鑑賞プログラムを長年続ける。令和3年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。オランダの美術館で教育プログラムの調査研究を行う。
高内洋子[たかうち・ようこ]
アトリエみつしまのスタッフ。美術家・光島貴之さんの制作サポートやアトリエ運営を担当。2020年「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」では光島さんと「視覚障害のある方への手引きマニュアル」(動画配信)の制作に参加。
B 「みんなでミュージアム」の取り組みについて、ご意見をお聞かせください。
[全体のこと]
・支援者は「〇〇してあげる」「自分たちが支えなくては」という意識がとても強いですが、当事者からよく聞くのは「自分に発達障害があるとしても、いつでもどこでも支援を受ける対象ではない」「支援者がどこにでも一緒なのは逆に迷惑なこともある」などです。学校教育や学びの場では、専門家による支援は必要ですが、美術館は誰でも楽しめる場所でもあるので、誰かが支援を受ける場所とは限らないことを視野にいれてもらえるとよいかもしれません。(橋口)
・発達障害のある子どもたちの中には、スタッフがどれだけ美術館や作品を愛しているかを見抜く力がある子どももいます。美術館や展覧会に対してプロフェッショナルであるといいですね。また、個々人のペースに合わせて適切な配慮や対応ができるなど、楽しめる環境をつくる「環境調整」が大事です。人に寄り添ってその人が何を求めているかを読み取れると、信頼関係ができます。設備などのハードももちろん大切ですがソフトも大切です。人材育成やホスピタリティだと思います。(橋口)
・各地域で自走できるような持続可能な取り組みが理想的です。東京でつくられた事例を地方で展開されることが多いですが、「東京だからできたこと」「自分たちの美術館ではうまくいかない」となってしまいがち。事例が展開されても、人気があるプログラムには参加できないこともあります。そうすると、当事者の保護者のなかには「宝くじに当たるよりも倍率が高い」とがっかりしてしまう人も。さらに次の機会に期待しても、次がないことも。東京の取り組みをパッケージとして持ち込むのではなく、地域が自走できることが大事だと思います。(橋口)
・妻にきいたら「めっちゃ面白い。通訳を派遣する感覚で依頼ができたら率直にいい」といっていました。支援者側としても活躍や働き方の場、養成にもつながります。通訳の立場からも当事者の立場からも必要なサービスだと思います。絶対にワクワクするものなのでぜひ前に進めてほしいです。聞こえない人といっても、ろうあ者の方、難聴の方、中途失聴の方、人工内耳の方、盲ろう者の方など、それぞれニーズは違うけれど、聞こえる人との接点をもちにくいという現状もあります。聞こえる人と聞こえない人が出会う場になるとよいですね。(宮原)
・ミュージアムと個人をつなぐ共生社会の窓口になるような構想ですね。全国に広がっていくといいと思います。障害のある人に限らず、広くさまざまな人を受け入れられる存在になると、潜在的なニーズがつかめるでしょう。パートナーもコーディネーターもとても魅力的な仕事だと感じます。(和田)
[ミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)について]
・手話通訳者の派遣制度があるので、「みんなでミュージアム」との仕組みの棲み分けを明確にしたほうがよいかもしれません。一般的な通訳業務ではなく、アートに特化していること、「美術と手話プロジェクト」のようなファシリテーションの能力も含めると「手話コミュニケーター」など新しい言葉で汎用性の高い名称のほうがよいと思います。(和田)
・美術鑑賞で手話通訳を立てても、聞こえない人から「わからなかった」という声もあります。通じないのはどこに問題があるかを多角的に検討する必要があると考えています。手話通訳士は言語の専門家でたくさんの語彙(ごい)を使い分ける。より豊かな鑑賞のためにも、通訳する側も、される側も知識と語彙力が求められるので、両者のスキルアップが重要だと思います。パートナーだけでなく、それを利用する人たちのボトムアップの支援もぜひお願いしたいです。(和田)
・パートナーの健康管理もできたら理想的です。手話通訳は外国語の通訳よりも身体的に負担がかかるそうです。同じ通訳者が連続して通訳を担っていると、非常に身体に負荷がかかってしまうため、依頼する際に通訳者の健康管理を意識することも重要でしょう。(宮原)
・見える人のなかに、見えない人と鑑賞したい人がいます。パートナーが見える人と見えない人の鑑賞をつなぐ役割もできるのではないでしょうか。さらに一般の人が参加していくことで、将来のパートナーが育っていく可能性もあります。ただ、パートナーがヘルパーのように支援する側に徹するのはよくないかと。パートナーとヘルパーが違うということを理解してもらう必要があると思います。(高内)
・見える人・見えない人に限らず、鑑賞者によって鑑賞方法の好みは異なるでしょう。作品の解説をしてくれる人、同じ立場で会話を楽しんでくれる人など、当事者の希望に合わせた提案ができるといいと思います。盲学校では言葉を使った鑑賞にあまり馴染みがないため、戸惑う生徒さんもいました。さまざまな選択肢を用意することが、心地よい鑑賞を見つけられる場につながると思います。(佐藤)
[ミュージアム・アクセス・コーディネーター(以下、コーディネーター)について]
・どんなニーズも包み込む環境の構築は難しいでしょう。静かに見たい人・声が出てしまう人、順番通りに見たい人・ルートに関係なく見たい人。ニーズが多様にあるということを前提に、多様な選択肢を設けるのが大事だと思います。(橋口)
・コーディネーターに認識してもらうとよいのは、理想の環境は一人ひとり違うということ。「美術館として何をすればよいか」とよく聞かれますが、必要なのはほどこすこと(プラス)ではなく、壁を取り除くこと(マイナス)です。あとは相互理解が重要なので、直接的なコミュニケーション環境が構築できるとよいでしょう。(和田)
・美術館によって方針や進め方が違うので、美術館のニーズに合わせて対等に話せる存在は必要です。さまざまな美術館を渡り歩くプロのボランティアや、フリーランスのエデュケーターなどを活用することもできると思います。フリーランスのエデュケーターに関しては、アメリカ・ニューヨークなど先進例があるのでぜひリサーチしてほしいです。(佐藤)
[ミュージアム・アクセス・インフォメーションについて]
・インフォメーションでは、ぜひインクルーシブデザインという視点を入れてもらいたいです。どういう見せ方や情報だったら分かりやすいかをヒアリングして一緒につくっていくのはどうでしょうか。完成するまでのプロセスを共有することが完成したものと同じくらい重要だと思います。(橋口)
・大事な存在だと思います。特にあったらいいと思うコンテンツは2つです。一つはアクセシブルなルートの情報(安心安全と感じられる情報)。例えば美術館のなかがどんなふうになっているか知れるものです。二つ目は楽しくワクワクするような美術館の魅力がわかる情報。美術館の強みや特徴を最大限に伝えていくことが重要です。例えばさまざまな美術館のグッズなども一覧で見られるなど。ユーモアも含めながら美術館に行きたいと思えるきっかけをつくれるといいですね。(橋口)
・サイトをつくる際は、アクセシビリティの指針があると参照しやすくなると思います。たとえば「筆談マーク」や「手話マーク」などがさまざまなところで活用されていますが、サインや表記が統一されているとわかりやすいのではないでしょうか。(佐藤)
令和3年度 障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)
「〜いつでも、だれでも、どこへでも〜『ミュージアム・アクセス・センター』設立事業」
ヒアリング調査より構成[2021年10月〜11月/オンライン(Zoom)]
聞き手:みんなでミュージアム プロジェクトメンバー、エイブル・アート・ジャパン
構成:佐藤恵美
※2021年に活動をスタートした「みんなでミュージアム(愛称:みんミ)」は、「人」と「システム」に焦点を当てた2つのワーキンググループを立ち上げ、ヒアリングとインタビューを行いました。これは、調査のなかから、障害当事者や鑑賞の支援者に向けたヒアリングの内容を、編集して紹介するレポートシリーズです。