【レポート】第4回オンラインプログラム「みんミの“わ”」
- みんミの“わ”
- 報告レポート
2022.12.22(木)
みんなでミュージアム(愛称:みんミ)は、活動を通してこれまでになかった繋がりを広げ、集まった人々とともに学び合いながら、仕組みや方法を考えていくプロジェクトです。
毎回テーマを設け、定期的に開催しているオンラインプログラム「みんミの“わ”」は、みんなでつくる学びの場です。参加者の皆さんと一緒に対話をすることで、お互いの学びに繋がることを目指しています。
第4回目は「人とミュージアムをつなぐコミュニケーターって?」をテーマに開催しました。
第4回『人とミュージアムをつなぐコミュニケーターって?~多様なプログラムの活動事例から~』
ゲスト:
野嵜辰巳さん(NPOアーツ・フォレスト代表)
岡森祐太さん(アート・コミュニケータ、先天性感音難聴)
2022年11月26日(土)14:00~16:00 オンライン(Zoom)開催
参加者:18名
<情報保障>手話通訳:瀬戸口裕子、石川阿、 文字通訳:チームW・研修センター
ろう俳優・またアートコミュニケーターとして活動されている岡森祐太さんと、インクルーシブミュージアムの研究をされているNPOアーツ・フォレスト代表の野嵜辰巳さんのお二方をゲストにお招きし、実践事例を共有いただきました。
アートコミュニケーター、岡森祐太さんのお話
岡森さんからは、アートコミュニケーターとして2つの活動をご紹介いただきました。東京都美術館と東京藝術大学が実施するソーシャルデザインプロジェクト「とびらプロジェクト」と、森美術館で行われた多様な人とアート鑑賞を “つくる”ワークショップ「まちと美術館のプログラム」についてです。
岡森さんは、これらの活動の中でたくさんの気づきを得ているそうです。例えば、「ある人にとってのバリアフリーが、他の人にとってのバリアになってしまう」のではないか、ということ。例えば、車椅子を利用する人の目線に合わせて展示の高さを低くすると、背が高い人にとっては作品が見えにくくなってしまう。つまり、バリアを取り除くことが新たなバリアを生んでしまう。多様な人が訪れるミュージアムだからこそ、完全なバリアフリーを考えることは難しい、という指摘です。
しかし、見えづらい部分を誰かが説明したり、感じたことを一緒に話し合うことで、そのバリアが楽しくなる。バリア自体を楽しむことができないか、という問いかけをいただきました。
また、ろう俳優についての活動についても伺いました。2021年に『華指1832』という作品に出演されています。岡森さんは、ろう俳優として作品に関わる中で、当事者の立場から俳優の役割について考え続けているそうです。
どんなに優れた俳優や脚本家であっても、人間の想像力には限界があり、当事者の状況や経験に想像が及ばない部分もある。だからこそ、当事者として制作に関わることに意味がある。「型にハマった表現を求められても、力を合わせて新しい表現の模索に務めること。」、「俳優としては素直ないい子でいるより、むしろ都合の悪い存在でいることを恐れずにいること。」を大事にされているそうです。
多様な背景を持つ人々が同じ空間にいればときに戸惑うこともありますが、違和感を抱えながらも一緒に過ごすことが大切。正解をすぐに求めずに、生まれてくるものを信じること、それが岡森さん自身の哲学だとお話されていました。また、アートコミュニケーターとしても、ろう俳優として舞台作品に関わることも、自分が関わることで人と人を繋いで可能性を広げていく役割を果たしていきたい、と力強い言葉をいただきました。
【参考】
岡森さんの出演された「華指1832」
https://spice.eplus.jp/articles/291782
NPOアーツ・フォレスト代表 野嵜辰巳さんのお話
次に、京都芸術大学大学院でインクルーシブミュージアムについて研究されている野嵜辰巳さんから、「社会とつながるミュージアム」をテーマにお話しいただきました。
1つ目のテーマは、ミュージアムと社会の関わりについて。あるリサーチによると、「美術館・博物館を訪れることが好き」と答えた方はわずか3%。美術館に関心のある人が34%に対して、美術館に関心がない人は66%という割合だそうです。
野嵜さんは、このデータから、「みんなでミュージアムは、この34%の人だけのための活動なのでしょうか?」と問いかけます。しかし、そうではない、と回答されます。ミュージアムで起きる障壁は社会のいろいろな場所で起きており、ミュージアムでの障壁を解決する活動は、結果的に社会に波及していくことになるため、と考えているそうです。
2つ目のテーマは、障害に対する誤解についてです。
例えば、「障害は特別なこと」なのかということ。国際的な調査を参考に各国の国民に占める障害者の人口比率を見ると、スウェーデンは5人に1人(20.5%)であるのに対し、日本は13人に1人(7.6%)となっています。この比率の差の背景には、日本では障害者認定制度が厳しいことが要因として考えられるそうです。また日本では、65歳以上の89%以上が病気やけが、災害や加齢を理由に障害者手帳を取得するという現状があります。このことから、「障害と健常の境界は極めて曖昧で、障害について考えることは、自分について考えること」だと指摘されます。
3つ目のテーマは、日本と世界のインクルーシブ(社会的包摂)についてです。社会は分離する(separation)、統合する(integration)、多様性を受け入れる(inclusion)といった段階を経て、インクルーシブな社会に変化していくそうです。
しかし、2022年9月に日本政府は国連障害者権利委員会から、特別支援教室や特別支援教育のような分離教育を廃止するように勧告を受けたそうです。例えば、イタリアでは1977年に分離教育を法律で禁止しており、普通教育の中に支援教師の配置を義務化しています。
この事例は教育についてですが、ミュージアムについても重要だと野嵜さんは指摘します。昨今「障害のある方のための特別鑑賞会」が様々なミュージアムで行われています。しかし、上の三つの段階で見ると「分離」の段階にあたると考えられます。こうした取り組みはとても重要ですが、ゴールではなくスタート地点であること。目指すべきゴールは、もっと自由に、いつでもだれもが鑑賞できるようになることではないかと考えているそうです。
ただ、これには人的にも予算的にも、ミュージアムだけでは実現が難しく、民間の協力、行政の理解、来館者の理解など、小さな活動の積み重ねがとても大事です。こうした積み重ねを継続することで社会が変わっていくのではないか、とお話しいただきました。
さらに、まずは身の回りの小さな排除や誤解について、“気がついていくこと”が私たちにできることではないか、という言葉もいただきました。
話題提供者・参加者での対話を経た、参加者の感想
この後、複数のグループに別れ、参加者の皆さん、岡森さん、野嵜さんで対話の時間を取りました。参加者の皆さんからは次のような感想もいただきました。
『アートコミュニケーターと俳優の両方のアプローチでの活動が興味深かった。「都合の悪い存在であることを恐れずにいたい」というのはさまざまなものが生まれることを恐れない、クリエイティブで豊かなものが詰まった考え方だなと思いました。』
『分離しないかたちがいいという意見もあれば、限定されていた方が安心だという考え方もあると思います。音声だけで進行される場があるなら、手話だけで進行される場があってもいいのではとも思います。混ざったかたちと、限定するかたちのもの、どちらもあるといいなと思います。』
『今回、ろう者の友人を誘ったのですが、とても楽しかったと言っていました。「みんミのわ」は手話通訳や文字通訳での情報提供があり、堂々と友人を誘えるので、とても嬉しいです。』
今回、「人とミュージアムをつなぐコミュニケーターって?」をテーマに開催しましたが、改めて、① 身近にある偏見や誤解に気づくこと、② ミュージアムでの鑑賞を特別なものではなく日常の一部に溶け込ませていくこと、③ 多様な人同士が違和感を持ちながらもともに居続ける努力をすること、が大切なのかもしれない、と気づかせていただいた機会でした。
参加者の皆さまにとっても、日常に持ち帰れる気づきがあったら嬉しいなと思っています。
第5回は1月14日(土)14:00~16:00です。ご参加をお待ちしています。
レポート:松島宏佑(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー)