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目次:活動の記録

【レポート】第5回オンラインプログラム「みんミの“わ”」

  • みんミの“わ”
  • 報告レポート

2023.01.31(火)

第5回のプログラムでは、「自然科学系の博物館におけるユニバーサルデザイン(UD)の取り組み」をテーマに、つくばバリアフリー学習会代表の北村まさみさんと国立科学博物館植物研究部、筑波実験植物園に所属されている堤千絵さんをゲストにお迎えしました。初めに、ゲストのお二人にそれぞれ行っている活動などについてお話を伺い、その後のブレイクアウトセッションではゲストのお二人を含め参加者同士で感想や意見、疑問などを共有しました。プログラムの最後にはzoomのチャット機能を使用して改めて感想などを共有し、ゲストのお二人との全体の対話を経てプログラムが終了しました。

第5回「『手話で楽しむ植物園』と『植物園のUDの取り組み』〜つくばバリアフリー学習会と筑波実験植物園の事例から〜」

ゲスト(話題提供者):
北村まさみさん(つくばバリアフリー学習会代表)
堤 千絵さん(国立科学博物館植物研究部・筑波実験植物園)
2023年1月14日(土)14:00〜16:00 オンライン(zoom)開催
参加者:17名
〈情報保障〉手話通訳:瀬戸口裕子、佐藤晴香、 文字通訳:チームW・研修センター

つくばバリアフリー学習会代表 北村まさみさんのお話

今回、北村さんは「‘みんミ’への期待 好奇心が人と人をつなぐ」というタイトルで、つくばバリアフリー学習会の活動と、活動からの気づきについてお話ししてくださいました。

北村さんは「“ともに”の場を“ともに”つくる」をモットーに活動をしていらっしゃいます。障害者カヌーのボランティアを行った際の気づきが活動のきっかけとなったそうです。互いにサポートし合うという空間の居心地の良さを感じると同時に、障害のある方々の苦悩に接し、「多様な人が社会にいることに気付かない」、「多様な人に出会う/知る機会がない」、「支援する“健常者”と支援される“障害者”という固定した見方」という3つのバリアをフリーにすることを目的として活動を開始されました。

つくばバリアフリー学習会の活動では、活動目的を達成するにあたり「一緒に遊ぶ」ことが一番良いという北村さんの考えとご自身の博物館への興味に基づいて、つくば市にある地質標本館や筑波実験植物園をはじめとした博物館などへの訪問やワークショップをおこなっています。活動をきっかけとして新たな繋がりが生まれ、現在は筑波山地域ジオパークにおけるUDにも取り組んでおられます。活動を通じて、「好奇心は人と人を繋ぎ、支援をする/されるという構図のないフラットな関係が生まれる」ということを強く実感しているそうです。

最後に、活動から得た気づきについてお話ししてくださいました。一つ目は、「健常者・社会の側が障害のある人の壁を作っているのではないか」、「障害は環境に左右されているのではないか」という気づきです。これは、一般に「障害の社会モデル」と呼ばれる、社会の環境や仕組みによるバリアが逆に“障害”を作り出しているという考え方を指します。このような現状に対し、「バリアが減ることは、障害者だけではなく健常者自身の可能性も広げる」、「バリアを減らすことは、普段意識していない健常者も当事者である」ということをご指摘していただきました。2つ目の気づきは、「身体の状況によって使う感覚や認知の方法が違うということは優劣ではなく、“異文化である”」ということ、「自分と違う身体を持つ人との交流は“自文化”を相対的に見て新しい視点や気づきを与えてくれる」という点です。このような気づきは一緒に活動するからこそ見えるものであり社会にある「障害」もその一つである、とお話しいただきました。

【関連資料】
・つくばバリアフリー学習会:https://www.facebook.com/profile.php?id=100064395353692
・つくばバリアフリー学習会活動記録:http://barrierfreemeetingintsukuba.blogspot.com/

国立科学博物館植物研究部・筑波実験植物園 堤 千絵さんのお話し

堤さんからは、「手話で楽しむ植物園と植物園におけるUDの取り組み」というテーマでお話をしていただきました。

初めに、植物園ならではの展示・学習支援の方法について共有いただいた後、植物園でUDに取り組むきっかけとなった背景についてお話ししてくださいました。障害のある子どもがいる植物園の同僚の方が「植物園こそUDに取り組むべきだ」と呼びかけたことにより、「やさしい植物園プロジェクト」(2009〜2014)としてUDの取り組みを始めるに至ったのだそうです。

プロジェクトを始めるにあたり、3つの要素を大切にして企画を行なっていらっしゃいます。それは、「植物をみるとつい触ったり匂いを嗅いでみたくなるなどの植物特有の不思議な魅力を前面に出すこと」、「障害のある方のみを対象としたものではなく、誰もが楽しめる植物園を目指すこと」、「設備面だけではなく、学習面でも多くの人々が楽しめるような展示、教育普及を目指すこと」だそうです。専門的ではなく、より直感的に体験できる方が大人でも子どもでも楽しめる、という考えのもと活動に取り組まれています。

これまでの活動の例として、五感を使って楽しむ「さわろう!植物展」、特別支援学校との連携、「手話で楽しむ植物園」、3Dプリントを活用した学習プログラムなどがあるそうです。ここでは特に印象深かった「手話で楽しむ植物園」と3Dプリントを活用した学習プログラムについてご紹介します。

「手話で楽しむ植物園」は2012年より毎年実施しており、北村さんも一緒に取り組まれています。単に手話通訳がついているプログラムではなく「植物も手話も学ぶ」ことにこだわって開催しているそうです。植物を表す手話は植物の特徴を的確に捉えているものが多く手話を使って植物を学ぶことで、より理解しやすく、親しみやすくなるそうです。さらに、プログラム内では新たに植物を表現する手話作りもおこなっています。堤さんはこのプログラムについて、ろう者、健聴者を問わずともに楽しめるもので、双方向の支援に繋げることができるのではないかと考えているそうです。

次に、3Dプリントを活用した学習プログラムについてです。見て触れる、断面図を再現できる、データがあればどこでも製作できるというメリットをもつ3Dプリントの使用は視覚障害者の方にも植物や植物園を楽しんでもらうための施策として考えついたものであったそうです。現在はまだ試行段階だそうですが、「植物の花のつくりを3Dプリントと触図を使って学んでみよう」という取り組みを3年ほど前から行なっています。

最後に堤さんがUDの活動で大切にしている3つのことについてお話してくださいました。一つ目は、「伝えたい、一緒に楽しみたい」という気持ち。二つ目に外部の協力者の存在。そして三つ目は、「双方向で楽しみ学ぶ」ということです。内部、外部共に協力者や後押ししてくれる人がいることがUDの取り組みを続けていく上で欠かせないのだとお話しくださいました。

【関連資料】
・筑波実験植物園:https://tbg.kahaku.go.jp/
・堤千絵,廣瀬彩奈,北村まさみ他「『手話で楽しむ植物園』と『手話通訳付き案内』の紹介:聾者と健聴者、共に植物の理解を深めるために」『日本植物園協会会誌』vol.50, 58-61(日本植物園協会HPより)
http://www.syokubutsuen-kyokai.jp/business/dl_files/kaihou50all.pdf

話題提供者・参加者での対話を経た、参加者の感想・質問

北村さん、堤さん含め参加者同士のブレイクアウトセッションを終えた後、zoomのチャット機能を使って共有した参加者の感想をご紹介します。

『手話は身体を使う行為で、身体で物事を理解することはわかっているけれども忘れてしまいがち。手話は改めてそのことを確認する行為だと思いました。植物についても知ることができるし、爽やかな気持ちにもなれて、恥ずかしがらずにスッキリした気持ちで楽しめるプロジェクトだと感じました。』

『北村さん、堤さんのお二人がテクニックではなく「双方向にやり取りする」というマインドを大事にされているというところにすごく感動しました。やはり、気持ちが大事であるということを改めて知ることができました。自分自身を活かした、今後の人と出会い方の参考となりました。』

また、最後に参加者から以下のような質問も出ました。

『まだ社会に浸透していない取り組みを進めたいと思っても、「人がいない・お金がない、時間がない」など言われますが、それだけだと何も変わらない。皆様のグループが10年以上に渡り活動を続けていることの秘訣、支えは何ですか?』

この質問に対し、堤さんが以下のように答えてくださいました。
『自分が楽しんでいること、北村さんのように一緒にやって、サポートしてくれる方の存在が非常に大きいです。自分だけ、自分の機関だけではできなかったと思います。外部で協力してくださる方がいて、成り立っているから続けてこられたと実感しています。』

今回のオンラインプログラムを終え一番印象に残った点は、北村さんと堤さんが共通して「相互補助」や「一緒に楽しむ」というマインドを大切にして活動しておられるということです。北村さんは“ともに”という言葉で、堤さんは“双方向”という言葉をもって表現していらっしゃいました。この点から、「支援」という方向から考えるからこそ、ある種の分断を生んでしまっていることに気がつきました。考えてみれば、どんなコミュニティの中でも同じものに興味を持つ同士が交流する際は、その対象を堪能するためにごく自然に「互助」しているはずなのです。「一緒に楽しむ」というマインドセットは「健常者=支援する側」、「障害者=支援される側」という凝り固まった見方を溶かしていくための重要なキーワードなのではないでしょうか。

レポート:菅原真彩(慶應義塾大学文学部人文社会学科4年)