ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【レポート】第9回 オンラインプログラム「みんミの“わ”」

  • みんミの“わ”
  • 報告レポート

2024.03.04(月)

みんミの“わ”は、さまざまな立場や地域の人がオンライン上に集い、ミュージアムアクセスに関する学びと交流の場を目指して継続的に開催しています。

第9回は、ミュージアムをもっと楽しむためにどうしたらいいか、もっと行きやすくするにはどんな工夫ができるか、など、ゲストをお招きしてアクセシビリティの取り組みについて考える時間でした。

プログラム中のスクリーンショット。画面左側にイベントバナーが映し出され、右側に文字通訳、司会、手話通訳者が映っている。

【みんミの“わ” 第9回】一本の展覧会を例に考える、ミュージアムから遠い人とミュージアムをつなぐアクセシビリティの取り組み
日時:12月17日(日)14:00〜16:00 オンライン(zoom)開催
参加:無料(手話通訳・文字通訳あり)
申込数:74名(障害のある人やその支援者、ミュージアム関係者やミュージアムが好きな人など)
〈情報保障〉
手話通訳:石川阿、宮原二三弥
文字通訳:チームW・研修センター

ゲストは東京都現代美術館学芸員の八巻香澄(やまき・かすみ)さん。

2023年7月~11月に同館で開催された『あ、共感とかじゃなくて。』を企画し、美術館に慣れていない人や感覚特性があって初めて行く場所に不安がある人など、さまざまな人がミュージアムを楽しめるようなアクセシビリティに取り組んでいました。

プログラム中のスクリーンショット。画面左側に八巻さんのプロフィール情報が映し出され、右側に文字通訳、司会、手話通訳者、八巻さんが映っている。

前半の話題提供では、展覧会の背景と内容について、後半では、アクセシビリティの取り組みについて詳しくお話を伺いました。

前半 – 展覧会の背景と内容

この展覧会は、コロナ禍による子どもたちの心への影響や、不登校やひきこもりという状態にいる人々のことを想い、10代をメインターゲットにして企画されました。展覧会のキャッチコピーは「見知らぬ誰かのことを想像する展覧会」。10代に向けては、「共感ではなく自分の気持ちを大事にしてね」というメッセージを、大人に向けては、「自分の共感の外側にいる人のことを考えてみて」、「自分の認識の外にいる人のことを忘れないで」というメッセージを込められたそうです。

プログラム中のスクリーンショット。画面左側に展覧会のビジュアルが映し出され、右側に文字通訳、八巻さん、手話通訳者が映っている。

前半の話題提供を受けて、参加者から「実際に10代からどのような反応があったか?」という質問がありました。

東京都現代美術館では、保護者に連れられて来場する小学生や未就学児とは違い、中高生は最も美術館への来場が少ない世代なのだそうです。

しかし今回は、若い世代向けの媒体での宣伝、不登校児が学生証を見せなくても学生料金で入場できる仕組み、小学生の高学年であれば子どもだけでの入場も可能とするなど、10代の「見たい!行きたい!」気持ちを引き出すさまざまな工夫をした結果、従来の倍近い中高生の来場があったそうです。「よくわからなかったけど、すごいと思った」、「 よくわからなかったけど、それでいいと感じた」など、率直な感想が聞かれ、展覧会をみることで、喜んでもらえたと感じたそうです。

後半 – アクセシビリティの取り組み

展覧会ではさまざまな人にむけたアクセシビリティの取り組みや企画が行われていました。

・手話による解説動画の作成(展覧会の挨拶文・作家の解説など)
・ウェブサイトに代替テキストを埋め込んだ画像を掲載
・やさしい日本語に準じた表記での解説文の作成
・不登校児やひきこもりの当事者に向けて、休館日にアーティストと一緒に作品を見るツアーの開催
・答えの出ない問いについて、みんなで話しあう哲学対話や共感オフ会(共感をオフにするという意味と、ネットで出会った人たちがリアルで出会うオフ会をかけて、顔を見合わせて話をする会)の開催
・複数人で話すのが苦手な人に向けて、アーティストや学芸員がお客さんと1対1で対話するプログラムの実施
・耳栓やフィジェット・トイの貸し出し
・ソーシャルナラティブの作成
などなど…!

「ソーシャルナラティブ」とは、主に自閉症や発達障害のある人に向けて、そのミュージアムでの滞在がどのようなものになるかを、写真などのビジュアルや、わかりやすい文章で紹介するものです。

日本のミュージアムでも取り組みが広がっており、国立アートリサーチセンター三重県立美術館でも発行されています。一般的にはミュージアムに入館する前から、退館するまでの流れを、順を追って紹介するものですが、『あ、共感とかじゃなくて。』では、展示の中身に関する内容を2種類に分けて作成していました。

ひとつめは、チケット購入後の案内や、展示室内での休憩場所など、展示室での過ごし方を案内するもの。ふたつめは、映像作品の長さや大きな音がする作品のアナウンスといった鑑賞前に安心して作品を楽しむ心の準備ができる内容です。

プログラム中のスクリーンショット。画面左側にソーシャルナラティブのイメージが映し出され、右側に文字通訳、八巻さん、手話通訳者が映っている。

後半の話題提供では、さまざまな工夫や準備を紹介いただきました。

この展覧会の準備に向けて、八巻さんが共感についてリサーチする際に読んだ書籍に「一般的に自閉症スペクトラム障害のある人は共感性が低い特性がある」という内容が書かれていたそうです。

『あ、共感とかじゃなくて。』というタイトルは、不本意に共感をされたり、共感をしないといけないという同調圧力による苦しさを想定して考えた言葉でしたが、もしかしたら共感を違う方向に受け取る人もいるかもしれないと気づいたことで、さまざまな特性を持つ人に向けた工夫を取り入れたとお話があり、これこそ「見知らぬ誰かのことを想像する」行為だと感じました。

実は「ソーシャルナラティブ」は、会期が始まり、来館者からの意見や様子が見えてから作成に着手したそうです。

まだ見ぬ誰かのことを想像するとともに、そこに来た人や、来たいと思っている人に必要なことがあるのであれば、「まずはやってみよう」と行動に移す、熱い想いと真心を感じました。

また、こういった取り組みをしていくなかで、完璧な配慮を求めがちになりますが、「最初から全部を整えるのではなく、その場に確実に来る人のために動きたい」、「一日でも早く、情報を必要とする人に届けたい」と仰った八巻さんの言葉がとても印象的でした。

プログラム中のスクリーンショット。文字通訳、ファシリテーター、八巻さん、手話通訳者が映っている。

みんミも、『みんミの“わ”』やパートナー・コーディネーターの活動を通して、ミュージアムに行きたいけれどまだ行けていない、楽しむためのもう一歩の工夫があれば、といった声をお聞きします。ミュージアムに行きたい人たちとミュージアムをつなぎ、ともに課題を考えながら、ミュージアムアクセスに取り組んでいきたいと、改めて考える機会になりました。

八巻さんからのメッセージにあったように「まずはやってみよう」です!
みんミとともに活動をしてみたい!という方は、下記のリンクから詳細をご覧ください。
https://minmi.ableart.org/news/boshu/2023/

参加者の皆さんにとっても、気づきやヒントを得る時間になっていたら嬉しいです。

レポート:原衛 典子(みんなでミュージアム事務局スタッフ)