【活動紹介】パートナー実践〜日本科学未来館での鑑賞体験レポート〜
- 報告レポート
2024.02.06(火)
みんなでミュージアム(以下、みんミ)は、ミュージアムに行きたい障害のある人やその支援者に伴走してミュージアム体験をともにつくるミュージアム・アクセス・パートナー(以下、パートナー)の役割の検証と、育成を目的とした実践を行っています。
今回、ご自身もみんミのパートナー実践で活動をともにする南もえ子(みなみ・もえこ)さんに、レポートの執筆を担当いただきました。
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「パートナーさんのいる環境で、普段は諦めてしまうようなことにチャレンジしたいです」と東京・お台場の日本科学未来館(以下、未来館)を希望された吉原壮眞(よしはら・そうま)くんとお母さん。以前来た際にはなんとなく見てしまったということで、今回はみんミの鑑賞体験にパートナーの上村夏実(うえむら・なつみ)さんと参加していただきました。
当日までに、お互いのプロフィールを交換し、オンラインでの顔合わせ、そして上村さんとみんミの事務局スタッフで下見を行いました。その上で上村さんは鑑賞体験の「旅のしおり」も作成しました。未来館の基本情報をはじめ、一緒にこんな体験ができたらいいなというメッセージ、そして当日まわるスケジュールが地図と写真入りで示してあります。
この日は壮眞くん親子に、パートナーの上村さん、みんミの事務局の平澤 咲(ひらさわ・さき)さんと渡邊 遥(わたなべ・はるか)さん、撮影スタッフや記録スタッフも同行し、計8人での団体行動となりました。
展示階まではエレベーター移動。館内の展示は、見通しのよいフロアにテーマ別に点在しており、決まった順路はありません。通路も余裕のある広さです。
壮眞くんは、豊かな表情と目の動きで自分の意思を伝えます。例えば右手をイエス、左手をノーと声を掛けて示すと、視線を向けることで意思を伝えることができます。
未来館のシンボルでもある大きな地球儀、ジオ・コスモスを取り囲む空中回廊は、その傾斜をバギーで上がるほうが負荷が少ないと考慮して、上村さんは3階から5階へ移動する大枠のルートを決めていました。それ以外は、「どっちに行きたい?」と訊きながら壮眞くんの希望に添い、展示を体験していきました。
約2時間の鑑賞で、大小8か所ほどを体験し、無事終了しました。
上村さんに感想を伺うと、「今日の経験がこれからの鑑賞体験を左右するのではと心配しましたが、楽しんでいる様子が表情からも伝わり、まずは安心しました」とのこと。
そして今回、体で感じることの大切さを痛感したそうです。美術館や博物館で「見る」を中心にすると、「わかる」に着地するハードルの高さや、見るだけで終わってしまう可能性もあります。未来館の展示では、体を通して「これをすると、こうなる」と理解でき、パートナーはそれを「やってみよう」と会話を通して行動を後押しすることができるという実感があったといいます。そういった意味で未来館での鑑賞体験は、施設自体の環境が整っていることも合わせて、いいプログラムになったと思えると同時に、このような施設があって、事前に下見をして確認するサポートがあって、複数人が同行することなどの条件が揃っていなかったらどうなるのかと想像すると、ふらっとミュージアムに行くハードルの高さと課題も身に染みたといいます。
美術館通いが好きという上村さんが改めて考えた「ミュージアムを楽しむとはどういうことか」という問いは、鑑賞ごとに、その人ごとに考えていく課題なのかもしれません。
文:南もえ子
写真:©︎TOKYO TENDER TABLE