ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

【活動紹介】博物館・美術館におけるアクセシビリティ向上に向けての研修会(2年目)~誰もが訪れやすいミュージアムの仕組みづくり~

  • 報告レポート

2024.03.14(木)

みんなでミュージアム(以下、みんミ)では、ミュージアムのアクセシビリティに関する相談窓口を設置しています。「もっと障害のある人に展示を楽しんでほしい!」というミュージアム関係者や、「ミュージアムに行ってみたい!けど、不安がある」というミュージアムに行きたい人など多様な人たちの相談を受けています。

2024年2月、みんミは昨年(1年目の様子はこちら)に引き続き、福島県博物館連絡協議会に企画協力という形で、美術館・博物館が「いつでも、誰でも、迎える」施設に変わっていくための研修会を行いました。

研修会の概要が記されたチラシ。ピンクを基調とした色合い。中心には子どもや高齢者、車椅子利用者など10名の多様な人々が描かれたイラストが配置されている。

研修会のチラシ

今回のテーマは「博物館・美術館におけるアクセシビリティ向上にむけての研修会 ~誰もが訪れやすいミュージアムの仕組みづくり~ 」です。研修会の行われた郡山市立美術館には、福島県内外の芸術文化/福祉/教育関係各所から37名(団体16件、個人3名)の参加者が集まりました。参加者は今年度の研修会から参加した人が多くいました。

天井が高く明るい雰囲気の多目的スタジオ。白い長机を囲んで腰掛ける参加者。前方には大きなスクリーンが設置され、スライドが投影されている。

研修会の会場全体(会場:郡山市立美術館多目的スタジオ)

研修会は福島県博物館連絡協議会の会長である南相馬市博物館の館長 堀 耕平(ほり・こうへい)さんの挨拶から始まりました。堀さんは「合理的配慮やアクセシビリティの向上は個々の館で取り組みきれるものではない。福島県のミュージアム総括施設が取り組むべきだ。」と述べられました。

研修会は、前半と後半の2つのパートがありました。前半パートでは「合理的配慮についての研修」とグループワーク、後半パートでは障害のあるオブザーバーとともに、ミュージアム・アクセスを考えるトークセッション(オブザーバーインタビュー)とグループワークを行いました。

【前半パート】

①合理的配慮についての説明

みんミから、合理的配慮の基本的な考え方について説明をしました。

②事例紹介

福島県博物館連絡協議会に登録しているふたつの館から、合理的配慮に関する取り組みの事例紹介がありました。

<事例>
諸橋近代美術館 「第一歩 -できることからやってみよう-」
補助犬同伴可のパネル設置、インバウンドの多言語化対応/監視員さんを含む職員に向けた研修の実施(車いすの折りたたみ方など)
・郡山市立美術館「『美術館を利用する』体験の場づくり -美術館を一人でも楽しめるように-」
バスの乗り方+チケットの買い方+障害者手帳の提示の仕方+食事のシミュレーション

③グループディスカッション

合理的配慮の説明と事例共有を受け、グループで話し合いました。
4つのグループでのそれぞれの話し合いは以下のような内容でした。
(1)声かけって難しい
(2)スタッフ同士でできそうなことを共有しておこう
(3)あらかじめ、対応の落としどころを決めておいたらいいのではないか
(4)発信が大事

【後半パート】

①オブザーバーインタビュー

福島県在住で統合失調症と向き合う天水みちえ(てんすい・みちえ)さん、自閉スペクトラム症のお子さんのお母さんである石川信子(いしかわ・のぶこ)さんをオブザーバーとして迎え、インタビュー形式で障害特性やミュージアムとの関わり方などについてお話を伺いました。

登壇者用の長机を前に座る石川さんと天水さんの様子。天水さんがマイクを握り話をしている。

石川さん(左)、天水さん(右)

<天水みちえさんについて>
キャンドルやポップな絵画を制作するアーティストとしての活動や、キャンドル作りのワークショップ、障害者支援施設でメイクの相談ができるカフェイベントを開催するなど、多様な活動を行っています。最近「ピアサポート(※)」の資格を取得し、所属する障害のある人や、会の人たちと旅行をしたり、障害のある人の活動の場を広げようとしたりと尽力されています。ミュージアムと障害のある人を結び付ける「結び手」として活躍が期待される方です。

※同じような立場や課題に直面する人がお互いに支え合う活動

マイクを握り、話しをする天水さんの様子。

天水さん

<インタビュー内容について>
天水さんのインタビューでは、ご自身の障害特性、アート活動、ピアサポートの説明がありました。アート活動について「アートに取り組むことが、障害による衝動を押さえる抑止力になっている」とアートに取り組むことから生まれる二次的な効果について述べられました。また、「ピアサポーターを取得したことで障害のある人が美術館に行くことに役立てる可能性を感じている。ピアサポーターとして自分の住む地域の障害のある人たちをミュージアムに連れていきたい」と展望を述べられました。

<石川信子さんについて>
石川さんは、自閉スペクトラム症のお子さんを持つお母さんです。お子さんは、絵を描くのが好きで、ミュージアムにも家族でよく行くそうです。石川さんのインタビューでは、お子さんが大好きなミュージアムに行く前に、どんな準備をしているのか詳しくお話しいただきました。たとえば見通しが持てるように旅程表をつくる、「静かに」などのイラストが描かれた100枚以上の厚紙を自作しています。

参加者数名と一緒に対話をする石川さんの様子。

石川さん

<インタビュー内容について>
石川さんのインタビューでは、お子さんの障害特性、ミュージアムの利用方法、アート活動の説明がありました。石川さんご自身がミュージアムに興味があってお子さんを連れていくようになったといいます。お子さんはミュージアムの建物自体や、シンボルやチラシ、マークが好きで、よく創作の対象にするそうです。お子さんの障害特性から事前に分からないと不安になってしまうので、館内のトイレやソファの場所はリーフレットを見せながら一緒に確認しています。

写真にあるのは美術館に行くときにつくった行程表とTODOを記した表です。行程の右側にあるハナマルは、TODOが達成できたら記入します。ハナマルがつくことで自信につながります。ちなみに、はじまりの美術館は、美術館スタッフとの信頼関係があり、スケジュールをたてなくても行くことができるそうです。

美術館に行くまでの流れとTODOが記された行程表。9時出発(ハナマルマーク有り)、11時はじまりの美術館(ハナマルマーク有り)、12時レストラン、16時お家と書かれている。右側にあるシンボルマークには、口元に人差し指を当てた人物のイラストと「静かに」という言葉が書かれている。

ミュージアムに行くときにつくる行程表(左)と、イラストでお願いしたいことを伝えるシンボルマーク(右)

お二人へのインタビューのあと、みんミ事務局から発達障害や精神障害のある人に向けたミュージアムでの取り組み事例について紹介しました。

<事例>
・「感覚過敏」のある、おもに知的・発達・精神障害のある人向けのクワイエットルーム(カームダウンスペース)設置事例
東京都現代美術館での取り組み(聴覚過敏のある人への使い捨て耳栓の配布、感覚特性によって「手を動かす」など触覚的な刺激があると集中できたり落ち着く人へ「フィジェット・トイ」の貸し出しなど)
・国立アートリサーチセンターが発行する発達障害のある人とその家族などに向けた美術館案内ツール『ソーシャルストーリー

②グループワーク

4つのグループにわかれ、ちがうメンバーでグループワークを2回おこないました。天水さんと石川さんが入れ替わりでグループに入り、どのグループもお二人と話せるようにしました。

白い長机を囲んで天水さんと参加者8名が対話をしている様子。

天水さんのグループ

白い長机を囲んで石川さんと参加者6名が対話をしている様子。

石川さんのグループ

このグループワークでは前半にグループで話し合われたことやオブザーバーのインタビューから聞いてみたいことを質問したり、オブザーバーも一緒になって考えたりする光景がみられました。
・クワイエットルームを設ける方法
・ピアサポーターへの興味
・どんな施設が足を運びやすいのか
・注意をするとき、傷つけないような声かけ

ポストイットに書かれた参加者からの意見。「スタッフの共有ノートで情報共有(完ぺきを目指さない)」と書かれたものが中心に写されている。

寄せられた意見

ポストイットに書かれた参加者からの意見。「感覚が普通に戻れる空間を設置する」「まずはやってみること」「事例がたまっていくことが大切」などと書かれたものが、数枚写されている。

寄せられた意見

【みんミ事務局として参加した感想】

研修を通してわたしが認識したことは、ミュージアムも障害のある人もお互いが遠慮したり相手の様子を伺ったりしながらビクビクとミュージアムを利活用している状態にある。ということでした。
障害のある人や、そのご家族・支援者は、「どこまで配慮をお願いしていいんだろう」「お願いしたら迷惑に思われたりしないかな」と悩んでいるようです。ミュージアム関係者も「どこまで配慮したらいいんだろう」「どうやったら配慮したことになるのかな」と悩んでいるようです。

しかし、障害のある人からは、「できる範囲でやってくれたらその気持ちは伝わっているし、ありがたいしうれしい」という声がありました。ミュージアム側からも「小さな筋トレメニューなら自分の館でもできることもあると分かった」という声がありました。

障害のある人やそのご家族、支援者とミュージアム関係者が取り組みを共有する場を継続することで、お互いが遠慮したり相手の様子を伺ったりしている状況を認識し、少しずつ小さな取り組みからはじめることが大切だと思いました。それが個々の館からミュージアム全体に広がっていけば、ビクビクを少しずつ解消していけるのではないかと思いました。

写真提供:はじまりの美術館
文:水野拓哉(みんなでミュージアム事務局スタッフ)

<関連資料>
福島県による合理的配慮に関する動画・ガイドブックhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21035c/gouritekihairyodouga.html