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目次:活動の記録

みんなでミュージアムシンポジウム2024〜人とミュージアムをつなぐ仕組みの創り方〜 開催報告

  • みんミの“わ”
  • 報告レポート

2025.03.25(火)

2025年2月に、「みんなでミュージアム シンポジウム2024〜人とミュージアムをつなぐ仕組みの創り方〜」を開催しました。本シンポジウムでは、東京藝術大学の伊藤達矢さん、アーツカウンシル東京の駒井由理子さんをゲストに迎え、前半は事例紹介として、みんミの実践とともに「アートコミュニケータ」や「社会共生担当」を紹介、後半はクロストークを実施。副題にもあげた今回のテーマである「人とミュージアムをつなぐ仕組みの創り方」について言葉を交わしました。

1. 伊藤達也さんのレクチャー:「美術館で重なるコミュニケーション」

シンポジウム当日の画面の画像。全体の3分の2の左側には共有された発表スライドの表紙が写っており、「美術館で重なるコミュニケーション 東京藝術大学 教授 伊藤達矢」というタイトルが表示されたいる。右側には、2つの画面が縦に並ぶ、上には文字通訳の画面が、下には登壇者である伊藤達矢氏が表示されている。最初に、東京藝術大学社会連携センター副センター長の伊藤達矢さんが登壇し、今の美術館に求められる役割と、そこで活躍するアートコミュニケータについてお話を伺いました。

「美術館や博物館とはどんな場所でしょう?」 伊藤さんは、参加者へ問いかけます。美術館や博物館は単なる展示の場ではなく、社会とのつながりを育む場であるべきだと強調します。2019年のICOM(国際博物館会議)京都大会で提起され、2022年のプラハ大会で採択された新しいミュージアムの定義では、「包摂性」「持続可能性」「コミュニティとの協働」が重視されています。このため、美術館・博物館もまた、単なる展示の場ではなく、コミュニティとともに活動することが求められています。

その実践例として、「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」の取り組みの1つ「Creative Ageing ずっとび」プロジェクトが紹介されました。認知症の人々やその家族が美術館を訪れ、アートを通じて社会とつながる機会を提供するプロジェクトです。社会的な孤立が進む中、美術館が「つながり資源」として機能し、人々が出会い、対話を促し、社会との結節点となることを目指しています。この活動の要となるのがアートコミュニケータです。

PC画面の画像。「アートコミュニケータとは、アート(文化芸術)を介して、社会に新しい関係(重なり)を織りなす人。」という定義が黒文字で表示されている。

「アートコミュニケータはボランティアではない」と伊藤さんは強調します。彼らは美術館の活動に主体的に関わり、訪問者と対話しながら、美術館と社会をつなぐ役割を果たしているとのこと。美術館からの指示を受けるだけでなく、自ら提案し、学び合いながら活動を展開しています。

伊藤さんは、昭和時代と現代の社会構造の変化を比較しながら、美術館の新たな役割についても言及しました。かつては近所・学校・趣味などを通じて「強固なコミュニティ」が築かれていました。しかし、現代では価値観の多様化と社会の分断が進み、孤独や孤立を感じる人が増えています。特にコロナ禍により、この傾向はさらに加速しました。このような状況の中、美術館や博物館には、アートを媒介とした「ゆるやかなつながり」を生み出す「新たなコミュニティのプラットフォーム」としての役割が求められているそうです。
PC画面の画像。左側のスライドには「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)=social inclusion」というタイトルと、A〜Gの文字が書かれた色とりどりの円が人々を線でつなぐイラストが描かれている。さまざまな年齢・性別の人物が円の周囲に配置され、つながり合う様子が視覚化されている。下部には、緑色の四角い枠があり、その中には次のようなテキストが記載されている。「自分の生活圏に帰ってからも、その考え方を活かして多様な価値を引き受けられる、つなぎ手となる。そうした人が増えれば、誰もが潜在能力を発揮でき、つながりあう社会をつくることができる。ひいては社会構造の変化や災害にも耐えうる、しなやかな社会の構築につながる。」

伊藤さんは、美術館を「肝臓」に例えます。肝臓が栄養を代謝し、体に必要な成分を届けるように、美術館も文化や価値を蓄え、社会に還元する役割があるといいます。このプロセスを支えるのがアートコミュニケータであり、彼らが活動することで、美術館は社会を豊かにする機能を果たします。しかし、この「肝臓」の働きを維持するには「血流」、すなわち多様な人々が美術館に集い、交流し、対話することが不可欠だと伊藤さんは述べました。

 

2. みんなでミュージアムの取り組み:愛媛県美術館との協働実践PC画面の画像。画面左側には「みんミの実践 愛媛県美術館 オンライン鑑賞会」というタイトルと、登壇者3名の氏名・所属が紹介されている。右側には、縦に4つのビデオ映像が並んで表示されており、上からも文字通訳、司会の松島氏、石崎氏、中田氏が映っている。


続いて、みんミの2024年度の取り組みとして、
愛媛県美術館との協働実践について紹介しました。登壇者は、みんミプロジェクトメンバーの梅田亜由美さん、愛媛県美術館の石崎三佳子さん、そして実践に参加した中田帆乃花さんです。梅田さんは協働に至るまでの経緯を、石崎さんは当日のオンラインプログラムを、中田さんは参加した感想をそれぞれ語りました。

みんミは、ミュージアム・アクセス・コーディネーターやミュージアム・アクセス・パートナーと連携し、ミュージアムのアクセシビリティ向上や鑑賞サポートの充実、プログラムの企画・実施を支援しています。こうした取り組みを通じて、ミュージアムをすべての人にとって開かれた場とすることを目指しています。

PC画面の画像。オンライン発表会のスクリーンショット。左側には、みんミのアクセス支援の構図が図で示されている。

今回の実践も企画段階からは、精神障害当事者である天水みちえさんにミュージアム・アクセス・コーディネーターとして入っていただき、ゲームの進め方やオンライン画面表示の工夫、案内メールの言い回しの表現などについて、当事者ならではの視点から示唆やアドバイスをもらいながら準備が進められました。梅田さんは、「多くのミュージアム関係者は、長年の経験から無意識に情報を補完して理解してしまうため、説明を省略しがち」だといいます。そこに障害のあるコーディネーターが関与することで、「この部分の説明が不足していると、同じ特性を持つ人は理解しにくいかもしれない」といった具体的な指摘があり、新たな気づきを得られたと振り返りました。

今回の協働では、美術館が所蔵作品を基に制作した「アートカード」を活用した鑑賞ゲームをオンラインで実施しました。これにより、遠方の人々や外出が難しい人も美術館の作品に触れる機会を得られるよう工夫されました。鑑賞ゲームでは、美術館が「にぎやか」「冷たい」「入ってみたい」「ザラザラ」「音楽」などのテーマを提示し、参加者がそれに合うと思うカードを選んで理由を発表。また、美術館が提示した1枚のカードと似ているカードを選び、その理由を共有する活動も行いました。

PC画面の画像。左側には「愛媛県美術館 アートカードゲーム」のタイトルとタイムスケジュールが表示されている。

試験的実施にあたり、愛媛県美術館からすでに交流している団体などにお声がけいただくとともに、愛媛県障がい者アートサポートセンターにもご協力いただき、参加者を集めました。結果として、13名の個人参加者と、県内の放課後デイサービスの1団体が参加しました。参加者は、作品の特徴や印象について自由に発言し、鑑賞体験を深めました。また、放課後デイサービスの子どもたちも、スタッフのサポートを受けながら意見を述べるなど、オンラインならではの多様な交流が生まれる機会となりました。

プログラム終了後の振り返りでは、「オンラインでも美術館を楽しめた」「普段参加できない人とも交流できた」といったポジティブな意見が寄せられました。一方で、美術館側は「オンライン環境でどこまで鑑賞に集中できるか」「案内文のわかりやすさ」などの課題を認識し、今後のプログラム改善に向けた学びが多く得られたようです。

愛媛県美術館では、今回の協働実践を踏まえ、今後オンラインプログラムを計画中とのこと。今後も、より多くの人が美術館を身近に感じられる機会が広がることが期待されます。

3. 駒井由理子さんののレクチャー:「都立文化施設の社会共生担当の仕組み」

PC画面の画像。左側には、駒井氏のスライドが映され、タイトルである「都立文化施設の社会共生担当の仕組み」と書かれている。

最後の事例紹介では、東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京の駒井由理子さんが、都立文化施設における「社会共生担当」について報告しました。

東京都歴史文化財団は、東京都の文化政策を推進する組織として、都内の芸術文化の振興を担っています。その中でアーツカウンシル東京は、文化施設の支援やプログラムの実施を通じ、多様な人々が芸術文化にアクセスできる環境づくりを進めています。その一環として、アクセシビリティ専任職として設けられたのが「社会共生担当」です。

社会共生担当は、2024年度から都立文化施設に新たに設置されたポジションで、各施設に専任職員として配置されました。このポジションは、アクセシビリティの向上や多様な来館者への対応を推進し、都立文化施設がより多くの人にとってアクセスしやすい場となるよう、取り組みを具体に進めています。

「文化施設が誰に向けて、何を、どう伝えるのか?」 この問いに真摯に向き合いながら、文化施設をよりアクセシブルで包摂的なものとするために、この一年間でさまざまな施策に着手してきた、と語る駒井さん。

PC画面の画像。左側には「社会共生担当 = Accessibility Staff = Social inclusion Staff」という説明が示されており、その下には大きく「だれもが 芸術文化を 楽しめる 環境 を整える」というメッセージが強調されている。

駒井さんは、「社会共生担当」を海外の文化施設で活躍する「Accessibiliry Staff」や「Social inclusion Staff」に当たるといい、アクセシビリティ整備だけでなく、社会環境の変革にも寄与する役割を担っていると説明しました。

社会共生担当の具体的な取り組みには、以下のようなものがあります。

  • 施設の案内や情報提供の分かりやすさの向上(やさしい日本語の導入)
  • 視覚障害者向けの触る展示の導入や視覚支援機器の活用
  • 手話対応スタッフの配置や施設案内動画の制作
  • 文化施設職員向けの研修やアクセシビリティ向上に関する勉強会の実施

PC画面の画像。左側には「変化」という文字とイルカのイラストが添えられた縦の帯があり、都立文化施設におけるアクセシビリティや共生の取り組みを示す表が掲載されている。表には「手話対応」「UDトーク対応」「障害のある方を対象とした鑑賞ツール・訓練」など、多様な支援策やサービスが並ぶ。

駒井さんは、「社会共生担当は、単なる制度ではなく、文化施設が本質的に変わるための第一歩です」と述べました。さらに、都立文化施設が単なる受け身の場ではなく、市民とともに変わっていくことの重要性を強調し、特に「Design for All(「All」という漠然とした集合体に向けてデザイン(つながる))」ではなく「Design for Each(「Each」、それぞれに向き合って何をどうデザインするか)」という視点で、文化施設のあり方を見直していく必要があると語りました。

変化を生み出すことは容易ではありませんが、それぞれのネットワークを活かし、試行錯誤を重ねながら、誰もが芸術文化を楽しめる環境を整えることが目指されています。
こうした取り組みが広がることで、文化施設がすべての人にとってより身近で開かれた場所となることが期待されます。

4. クロストーク

クロストーク場面のPC画面の画像。画面は4分割されており、それぞれ3人の登壇者と文字通訳の映像が表示されている。左上から時計回りで、文字通訳、伊藤さん、江イブルアートジャパン代表柴崎さん、駒井さん。
シンポジウム第二部では、伊藤さん、駒井さんに加え、エイブル・アート・ジャパン代表の柴崎さんが登壇し、視聴者の質問を交えながらクロストークを行いました。

3つの事例報告を通して再確認できたことに、仕組みの根幹にあるのは、制度や設備ではなく「人」そのものであるということがあります。特にみんミにも、アートコミュニケータにも、障害のある人や多様な背景を持つ人々が含まれており、それぞれが自分の視点から「人と人」「人とミュージアム」をつなげる役割を果たしています。

柴崎さんは、障害のある人とともに場をつくる重要性を指摘し、当事者と協働することで美術館の環境がどのように変わるかについて言及しました。特に、当事者の声を直接反映させることで、より実効性のあるアクセシビリティの向上が可能になると述べました。

また、全国の都道府県に設置された「障害者の芸術文化活動支援センター」について紹介され、これらのセンターが障害者の創作活動を支援するだけでなく、鑑賞や文化参加の促進にも取り組むべきだと指摘しました。こうした仕組みが整うことで、障害のある人々が自然にミュージアムへアクセスし、文化を楽しむ機会が増えていくことが期待されるとのことです。

さらに、伊藤さんから、東京都で始まったアートコミュニケータの仕組みは、全国へと広がっていることに言及されました。愛媛県や川崎市、福島県など、地域ごとに異なる形で活動が展開され、市民が主体的に文化施設と関わる新しい形が生まれつつあります。特に福島では、美術館や博物館が主導するのではなく、市民が主体となってアートコミュニケータの活動を立ち上げました。また、地域を越えた連携も進んでおり、東京のアートコミュニケータと鳥取や川崎などのアートコミュニケータが交流し、互いに学び合う場が生まれているとのこと。このネットワークの広がりが、人とミュージアムをつなぐ新たな仕組みを生み出す土壌となっているそうです。さらに、美術館がその地域の特性に合わせた役割を果たすことも重要です。アートコミュニケータの育成が進んでいる地域では、美術館がより多様な人々に開かれた場となり、鑑賞体験が豊かになっています。

一方で、制度的な支援の不足や、美術館スタッフの意識改革の必要性、そして文化施設の内部で社会共生の考えを浸透させる難しさといった課題も指摘されました。

駒井さんは、文化施設の内部でアクセシビリティ向上を進める際の困難について言及しました。ミュージアムの使命として、芸術性の追求と同時に、誰もがアクセスできる環境を整える必要がありますが、それを両立させることは一筋縄ではいきません。この二つを対立させるのではなく、「並走」させる方法を模索することが重要だと指摘します。組織内部での対話を重ねることで、「美術館・博物館とは何か?」という根本的な問いを考え直す動きが生まれつつあるようです。

さらに、来館者ごとのアクセシビリティニーズに寄り添った環境整備において、外部の市民団体や大学との協力の必要性についても言及されました。ミュージアム・アクセスの仕組みづくりにはネットワークの形成が不可欠であり、顔の見える関係を築くことが重要であるとのこと。市民やNPO、行政、大学が対話を重ねることで、より多様な仕組みが生まれ、文化施設が「みんなのもの」となるための新たな枠組みが形成される未来が開かれていきます。

まとめ

シンポジウムの最後には、伊藤さんと駒井さんから次のようなコメントをいただきました。

伊藤さん: 今後ますます多様な仕組みを整えていく必要があると感じています。一方で、顔の見える関係性の中でしっかりとネットワークを築いていくことも、同じくらい重要だと考えています。アートコミュニケータとしての経験を持つ人の多くが、それぞれの経験を活かしてネットワークを広げています。そうした人々が集い、経験を共有しながら学び合える場があることで、新たな取り組みが生まれやすくなります。書籍を読むだけでは得られない、実践的な理解を深めるためのプラットフォームを作ることは、大学の重要な役割の一つだと考えています。今後もこうした取り組みを進めていきたいと思います。

駒井さん: 私もこれまで多くの経験を積んできました。そして、「文化施設という場を変えていきたい」という強い思いを持ち続けながら、今も活動を続けています。同じように、文化施設をより良くしていきたいと考えている皆さんとつながり、共に取り組んでいけることを、とても楽しみにしています。今日は文化施設の「場」としての側面を中心にお話ししましたが、来館者の皆さんがいてこそ、文化施設は意味を持つものです。皆さんに関心を持っていただけるよう、これからも一緒に頑張っていきたいと思います。

本シンポジウムを通じて、ミュージアムが持つ社会的価値を改めて確認するとともに、市民・ミュージアム関係者・障害のある人・研究機関等が協力し、より包括的な文化施設を目指すことの重要性が浮き彫りになりました。また、変化を生むには人と人のつながりが不可欠であり、そのための仕組みを共に作り上げていくことが重要だというメッセージには、多くの人が共感するとことでしょう。

今後も、多様な人々がアクセスしやすい文化施設づくりを進めるために、さまざまな分野の関係者が協力し合うことが求められます。みんミとしても、この動きをさらに広げ、多様な人々が文化を享受できる環境を整えていきたいと考えています。


イベント概要

「みんなでミュージアム シンポジウム2024〜人とミュージアムをつなぐ仕組みの創り方〜」
日時:2025年2月22日(土)14:00〜17:00(途中休憩あり)
会場:オンライン(Zoom)
登壇(敬称略):石崎三佳子(愛媛県美術館学芸課専門学芸員・担当係長)、伊藤達矢(東京藝術大学 社会連携センター 副センター長/教授)、梅田亜由美(エデュケーター/みんなでミュージアム プロジェクトメンバー)、駒井由理子(アーツカウンシル東京 事業調整担当課長)、柴崎由美子(NPO法人エイブル・アート・ジャパン 代表)、中田帆乃花(愛媛県立しげのぶ特別支援学校高等部3年/鑑賞会参加者)
司会:松島宏佑(アーティスト、クリエイティブファシリテーター/みんなでミュージアム プロジェクトメンバー)
情報保障:手話通訳(石川ありす、瀬戸口裕子、山田泰伸)、文字通訳(チームW・研修センター)
主催:文化庁、特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン
企画・制作:特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン(みんなでミュージアム事務局)
文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」



テキスト執筆:鹿島萌子(みんなでミュージアム事務局)