ロゴマーク:みんミ みんなでミュージアム

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目次:活動の記録

博物館・美術館におけるアクセシビリティ向上に向けての研修会(3年目)

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  • 報告レポート

2025.03.25(火)

みんなでミュージアム(以下、みんミ)では、ミュージアムのアクセシビリティに関する相談窓口を設置しています。「もっと障害のある人に展示を楽しんでほしい!」というミュージアム関係者や、「ミュージアムに行ってみたい!けど、不安がある」というミュージアムに行きたい人など、多様な人たちの相談を受けています。

2025年3月、みんミは福島県博物館連絡協議会と協力し、美術館・博物館が「いつでも、誰でも、迎える」施設へと変わるための研修会を開催しました。本研修は一昨年、昨年に続く3年目の取り組みです。

過去のレポート。

博物館・美術館におけるアクセシビリティ向上に向けての研修会(1年目)

博物館・美術館におけるアクセシビリティ向上に向けての研修会(2年目)~誰もが訪れやすいミュージアムの仕組みづくり~

今回のテーマは「情報発信」。研修会が行われた郡山市立美術館には、福島県内の博物館、美術館、文化財センター、教育関係各所から25名の参加者が集まりました。特に、今年度の研修会に初めて参加する方が多く、新たな学びの機会となりました。

研修会チラシ表面の画像

1. 概要

今回の研修は、特別企画として午前中に郡山市立美術館のインクルーシブ鑑賞ツアーが実施され、温まった雰囲気の中でスタートしました。
開会では、最初に、はじまりの美術館館長の岡部兼芳さんより、過去2回の研修内容と午前中の鑑賞ツアーの振り返りが行われ、今回の研修の意義が共有されました。
また、研修には、「伴走者」と呼ばれる障害のある当事者や当事者のご家族が参加しました。伴走者とは、参加者に示唆や気づきのポイントを提供する研修パートナーです。今回は、過去の研修にも参加した方と、今年新たにご協力いただいた計4名が登場しました。

・天水みちえさん(ピアサポーター/統合失調症),
・石川信子さん(サポートティーチャー・こども第三の居場所職員/自閉スペクトラム症のお子さんのご家族)
・鈴木祐花さん(福島県保健福祉部障がい福祉課副主査/視覚障害)
・岡﨑幸治さん(精神/発達/ひきこもり当事者会リカバリー福島代表、リカバリーカレッジうつくしま実行委員、こころのバリアフリー研究会総会実行委員)

今回の研修プログラム内容

13:30 開会
13:40 登壇者紹介
13:50
1. レクチャー  講師:梅田亜由美さん
2. 伴走者のみなさんへインタビュー
3. グループワーク
15:30 発表
16:00 閉会

3. 研修内容

研修は、みんミプロジェクトメンバーの梅田亜由美さんがファシリテーターとして登場しました。
冒頭、梅田さんの「今日の体験を誰とシェアするか考え、必ず伝えてほしい」「どんなことに気づき、感動し、心が動いたのか。心の動きを大事にして過ごしてください。」という呼びかけから始まったレクチャー。
最初は、国立アートリサーチセンター(略称:NCAR)が刊行した冊子『ミュージアムの事例(ケース)から知る!学ぶ! 合理的配慮のハンドブック』を用いて「合理的配慮とはなにか」を紹介しました。合理的配慮の概念やプロセスについて学び、「対話」の重要性が強調されました。合理的配慮は特別扱いではなく、全員が同じスタートラインに立つためのものであることが改めて確認されました。

次に、合理的配慮のプロセスの1つ「対話」について具体的に学ぶために、NCARが制作・配信するミュージアム・アクセシビリティ講座「ふかふかTV」で紹介された事例を視聴しました。参加者は、講座のなかででてきた、美術館スタッフと来館希望者の電話でのやり取りや来館後の担当者との会話を振り返りながら、気づいたことを付箋に書き出し、グループ内で共有しました。

レクチャーの次は、文化施設の情報発信について、インタビュー形式で伴走者に伺いました。

文化施設の情報発信についてお話ししている伴走者の様子。左手前から、鈴木さん、石川さん、天水さん。

「ミュージアムに行ってよかったと感じた情報発信や対応について」では、

  • スタッフの声かけがあることで安心感が生まれる
  • 慣れているところでも緊張感がでてしまうことがある。また、聴覚過敏があるため小さな音でも疲れてしまう。会場内に休憩スペースがあることで落ち着くことができ、またその間に他の家族も展示を楽しむことができた。
  • 展示に関連する体験映像や実物展示があることで、新たな発見につながった

といった感想が紹介されました。
また、「展覧会に出かける前に役立つ情報について」では、

  • ウェブサイトやSNS(X、Instagramなど)を活用し、障害者割引、開館時間、休館日、ワークショップ情報、事前予約の有無、最寄りのバス停情報などを事前に確認する。特に、天気情報の提供は重要。また、休憩できる場所や昼食をとれる場所が事前に分かると、訪問計画が立てやすくなる。
  • はじまりの美術館のSNSでは天気情報を発信しており、訪問の参考になる。さらに、美術館のポスターに「会場内は写真撮影OK、おしゃべりOK」と記載があることで、訪問のハードルが下がる。駐車場の情報や、ベビーカーや車椅子の貸し出し情報も事前に分かると安心できる。
  • ウェブサイトやSNS(X、Instagramなど)での情報発信が重要。特に、視覚障害者向けに読み上げ機能や画像説明を追加することで、情報のアクセシビリティが向上する。また、ミュージアムショップのグッズ情報が事前に分かると、訪問の楽しみが増す。

などが示唆されました。

後半は、グループワークを行いました。
グループワークでは、参加者が持ち寄った各美術館の案内パンフレット、チラシ、ポスターや、ウェブサイトやSNSなどオンラインによる情報発信を見ながら、伴走者とともに「どういう観点で情報を見るか」「行く前にどういう情報がサポートとしてあれば見やすいか」などを確認・検討しました。

グループごとの発表から、多くの気づきと提案が生まれていたことがわかります。
一例:
アクセシビリティ対応:ボイスオーバーやユニボイスの機能を活用し、視覚障害者にも情報が伝わるようにする。
情報の探しやすさ:ウェブサイトの情報が見つけにくいため、アクセシビリティ情報を目立つ位置に配置する。
対話しやすい環境づくり:静かに鑑賞することを前提とした環境が多いため、話しやすい雰囲気をつくる工夫が必要。
情報の簡潔さ:シンプルな説明文であることが大事。チラシやポスターの情報量を適切にし、QRコードを活用する。
スタッフの対応力向上:支援が必要な来館者が訪れた際に、適切に対応できるよう、スタッフ間での共有を強化する。
事前情報の充実:障害者手帳を持つ人向けの情報をわかりやすい位置に掲載し、訪れる前の不安を軽減する。

iPadでグループメンバーが所属する施設のウェブサイトを確認している様子の写真。画面には、コインロッカーや多目的トイレなど施設案内が映っている。

鈴木さんがiPadのVoiceOverを試演しているのを、グループメンバーが興味深く覗き込んでいる様子の写真

天水さんが参加しているグループの様子。机のうえには、参加者が持参したチラシに加え模造紙が敷かれており、気づきを書いたメモが貼られている。

伴走者からは、次のような感想をいただきました。

鈴木さん:「ユニボイスの紹介や盲導犬への接し方など、情報共有の重要性を再確認できた。」
岡﨑さん:「どんなに良い展示でも、情報が伝わらなければ意味がない。それを伝えるには広報が大事だが、でも情報が多すぎてもダメ。その適切さを考えたとき、情報は逆に「足りないぐらいがちょうどいい」と思った。短く、スパッといってしまった方が伝わる。『足りないくらいがちょうどいい』を頭の片隅にでも置いといてもらえれば。」
石川さん:「障害のある子どもも、一人の人間として成長できる環境づくりが大切。」
天水さん:「リラックスできる時間や場所を設けることで、多様なニーズに応えられるのではないか。」

最後、伴走者が一言感想を言っている様子の写真。左から、鈴木さん、岡﨑さん、石川さん、天水さんが、椅子に座っている

今回の研修では、情報発信の工夫がミュージアムのアクセシビリティ向上に大きく貢献することを改めて実感しました。特に、情報を求める側の視点を取り入れ、どのように伝えればより分かりやすく、安心して訪問できるかを考えることの重要性が共有されました。伴走者からの示唆を受けながら、参加者同士の対話を通じて生まれた具体的なアイデアは、今後の実践につながる大きな一歩となることでしょう。みんミはこれからも、多様な人々とともに「いつでも、誰でも、迎える」ミュージアムの実現を目指し、学びと実践を重ねていきます。

写真提供:はじまりの美術館
執筆:鹿島萌子(みんなでミュージアム事務局)